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エピローグ・ライトサイド

―― 神崎葉佩(かんざきはばき)という【主人公(ヒーロー)】の後日譚 ――


 その日の朝、俺は起床後直ぐ起き上ることなく自室のベッドの上で横になったまま外の状況に意識を傾けていた。

 今日の天気は昨日に続き晴天。外からは蝉の鳴き声が煩いほどよく聞こえ、窓を開ければ夏特有の熱気を含む生暖かい風が部屋を吹き抜けていくことだろう。

 今の俺は未だ昨日の戦いの疲労が残っており、出来る事ならこのままもう一度眠りに着きたかった。

 しかしそうも言ってられない。

 今日は始業式。本来なら学生は学校に行かなければならない日だった。

 だが、やはり休みたい、と言うのが本音。

 一瞬本当にそうしようかとも考えたが、俺の脳裏に数人の級友達の顔が過る。


「………………ぁぁ」


 この場合、休んだ後の方が面倒な事になりそう……。

 そう思い、俺は体に鞭を打って起き上がる。

 昨日――死にもの狂いで【主人公(ヒーロー)】達の追っ手を振り切って家まで帰った俺は気絶する様に眠りに着いた。

 相当疲弊していた様で、その後、一度起きて父や姉に手当てを受けたようなのだが、全く覚えていない。

 リビングに行くと、父が新聞を読みながら朝食を食べる、普段見る光景が広がっていた。

 姉はまだ寝ているのか、姿はない。


「ぉッ! 葉佩、起きたか」

「おはよう」

「体調はどうだ?」

「あまり良く、ない――かな。あちこち痛い」

「そうか……。学校はどうする?」

「行くよ」

「……無理するなよ」

「うん」


 そして父は俺の分の朝食の支度の為にキッチンへ、俺は顔を洗うべく洗面所に向かう。

 鏡には見慣れた、自分の――まるで少女の様な顔が映っていた。


「…………」


 結局――色々あって髪を切りに行く事が出来なかったかわけだ……。

 今日は何人かの級友に揶揄われるかもしれない。


「やっぱり、休んじゃうかか?」


 などと冗談交じりの呟き。

 何時もならこんな時、必ず煩いくらい反発してくる少女――ミアが居るのだが……。


『…………』


 俺のスマホは未だ無言。それどころか画面には見慣れたホーム画面が表示されるだけだった。


「…………」


 ミアがあの戦いの後、俺のスマホに帰ってきた事は一度もない。

 他の電子機器に関しても同様。世界に溶けてしまった彼女に、この世で顕現する手段はもうなく、戦いの際あんなにも近く感じられた存在ももう感じられない。

 あれは極限状態に陥った俺が起こした奇跡だったのか、はたまた何らかの要因が重なったが故の必然だったのか。どうであれ、今の俺は彼女の声を聞く事も出来ない。

 彼女は溶けきる前にこう言った。

 彼女は何時も俺の近くに居て、俺は彼女の世界に包まれている――と。

 確かにそうなのだろう。

 だがそれでも俺の心に満ちるのは消失感。

 再び取り戻した日常であっても、それは俺にとって彼女の居ない世界。

 これから俺は彼女が目の前にいても、話す事も、姿を見ることも出来ないのか……。


「――――」


 危うく泣きかけて俺は寸前の所で堪える。そしてそれを誤魔化す様に顔を洗った。

 時間にして数秒。やっと気分が落ちついた頃。俺が顔を上げた時、それは起きた。


「ぅ、ぉわァっ!」


 突如目の前で展開された光景に俺は悲鳴をあげて尻餅をつく。

 鏡の中に、魔法少女アニメ【ふわふわ少女チャチャモニカ】のコスプレ衣装を着た美少女――というか、俺が――居たのだ。

 さっきまでパジャマ姿だったのに、これは一体どういう事か。と――


「はっは、はぁ――っ。驚きましたか? 御主人♪」


 その声を俺は肉音で聞く。声のした方を向くと、俺はもう一度驚いた。

 そこには何時もの、白セーラー服を来たミアが立っていたのだ。


「どうして!? 世界に溶けたはずじゃ――!?」

「それなんですけどねぇ…………」


 ミアははにかみながら己の頬を掻く。


「ちょっとした裏技を使ったんです。今御主人が見えてるのは世界に溶けた私が創り出した言わば触覚みたいなものですね」

「触覚?」

「ぇぇ、御主人を誘惑したあの白髪ボッチロリババアが使っていた自分のコピーを具現化する方法を真似たんです。まあ私の場合は御主人の体内にある【|憑依式人体強化器官《ルナティックオルガン】に干渉して見せている幻覚に近い状態なんですけど」

「?」

「要は御主人にしか見えてないんですよ。声も御主人にしか届いてません」

「えっとそれって……?」

「外部から御主人の五感に直接働きかけてるんですね。だから御主人の視界を操ればこんな事も出来ちゃえます」


 言うなり、俺の着ていた魔法少女服が今度はメイド服に、巫女服に、女子用の学生服へと次々変わる。それはまるで魔法少女のコスチュームチェンジの様で――


「うぁあ!! やめ、やめろ! 原理はわかったから!」


 思わず声が裏返る。すると――


「どうした? 葉佩。大声なんか出して」


 キッチンで朝食の支度をしていた父が反応する。


「ぁ、ぇえっと……」


 俺は自分が男の娘になっている様に見えるが、父には俺が一人で騒いでいる様にしか映っていないのだろう。

 この状況をどう説明したものかと悩み、まずはミアの事から話そうと考えて――


「朝食出来たぞ」


 父が朝食の乗った皿をテーブルの上に置く。中身は冷凍ピラフだ。


「…………ぁ、ありがとう」


 とりあえず一旦席に座ろうと洗面所を出て、父に聞こえない小声でミアに話しかける。


「ミア、さすがにセーラー服着て父の前で飯を食いたくはないんだが……」

「何かご希望はあります? スク水とかブル――」

「普通の服」

「わかりました」


 そうしてセーラー服が学ランへと変わる。


「まあ、これなら……」


 そして席に着き、途端俺はそれに気付く。

 テーブルの上で何やらもぞもぞと動く生命体に。


「おはようきゅぴ!」

「なっ!? 何でお前が!」


 それはヘチマアザラシ。奴は何故か我が物顔でペリエを飲んでいた。

 そして俺の叫びにヘチマアザラシは意気揚々と答える。


「パパさんから永住権を貰ったきゅぴ♪」

「永住権だと!?」


 俺は父を睨む。父は露骨に視線を逸らした。


「どういうことだ!」


 逃がさないぞ!


「それがだな……」


 父は観念したように話す。

 経緯とはこうだった。


 昨日の戦いの前、俺達が家に寄り武器となるモノを集めていた時、父はヘチマアザラシを連れて行こうとして、その際こんな話を持ち掛けられたらしい。


「協力してもいいげど、その代わり、この家にずっと住んでもいいきゅぴ?」

「何ィ?」

「三食昼寝付き」

「…………」

「ペリエも付けてね♪」

「お前なァっ!」


 奴はぬけぬけとそんな事を言った。

 父は怒り、この間の様に蹴り飛ばしてやろうとして、その瞬間――ヘチマアザラシの口元で輝――【それ】を見つけて動きを止める。


「それは!?」

 【半永久機関(仮)】の核として使っていた魔晶石。

 父は絶句した。

 そしてヘチマアザラシは――


「隠しておいたきゅぴぃ!」


 ドヤ顔。

 父は先ほど部屋の隅で【半永久機関(仮)】が破壊されているのを見て、おそらく石も暁らに奪われたものと思っていた。だがまさかこいつが隠し持っていたとは。

 しかしそうでなければ石は確実に暁らの手に渡っていただろう。


「これでどうきゅぴ?」


 つまり……。


「これで取引をしたいと?」

「そう。これを渡すから家にいさせて?」

「…………嫌だと言ったら?」

「食べちゃうきゅぴ」


 そして石を口に含んでもごもごしはじめる。


「わかった待て!」

「~~~♪」

「……ぐぬぬっ」


 父は悔しそうに顔を歪めた。

 しかしこれは考え様によってはいい提案。

 この石は装置を破壊されてもまだ使い道があり、何より敵の手に渡らなかったというのは大きい。

 またこの程度の条件で石が戻ってくるなら、と晴彦は考える。


「好きなだけ居やがれ!」

「やった~♪」

「但し、最初に言った通りお前も連れていく」

「ぇ~」

「当たらり前だ!」


 などと言うやり取りがあった事を話した。


「何してんだよ……」


 俺は露骨に不機嫌さを露にする。

 しかし今回こいつがそれ程の働きをした事は事実。

 こいつがここに住みたいと望むなら、それを汲んでやるべきだろう。


「くそ、これからこいつと一緒に暮らすのか」

「よろしく、おにーちゃん」

「おにーちゃん言うな!」


 俺の叫びにミアが俺にしか聞こえない声で応える。


「まあまあ。あの子は今後もし私達の活躍が小説化した時に十分使える客寄せになると思うんですよ」

「はぁ? 何言ってんのお前?」

「考えてみてください。彼はフィクション史上最も凄いヘチマなんですよ。宣伝に使えるじゃないですか?」

「?」

「わかりませんか? これはフィクション史上最も凄いヘチマが登場する作品なんですよ?」

「だから……」

「帯にこう書かけます。『驚くなよ? この作品はフィクション史上最も凄いヘチマが登場する』って」

「意味わからねぇ――からッ」


 しかしそんな会話こそが俺とミアの日常のやり取り。

 ただその光景を前に父は不安げに表情を曇らせる。


「葉佩、さっきから誰と話してるんだ…………?」

「ぁ……!?」


 父にはミアの姿が見えていない。その事を失念していた。


「やっぱり……。今日、学校休むか?」

「いや、大丈夫。行くよ!」


 そして父にミアの事を話そうとしたのだが――


「ならのんびりしてて大丈夫か? わりと急がないと遅刻する時間だぞ」

「え?」


 ――と、言われて……。


「――――!」


 壁掛け時計を見て絶句。

 父の言う通り、急がなければ遅刻する時間だった。


「嘘っ! なんでッ!?」


 と、俺は悟る。自室の壁掛け時計は――壊れていたのだ。

 姉が寝てると思ったのはそうではない。既に家を出た後。

 このままのんびりしていては遅刻してしまう。しかし――


「あぁッ!? たしか自転車って壊れてんじゃねぇーかっ!」


 先日のヘチマ爆発事件で自転車が大破していた事を思い出し、青ざめる。


「っ……。やっぱり朝食はいい。どうせ半ドンだし帰ったら食べるよ」


 俺は慌てて自室へ。鞄を持つと急いで家を飛び出した。


「ぉおぃ――ッ! 葉佩!?」

「行ってきます!」

「さぁ、駅まで走りますよ♪」


 そして俺達は走り出す。こうして――


 再び日常へと回帰した俺――神崎葉佩の【一般人(エキストラ)】としての【日常(物語)】は動き始めた。

 同時にこの時――この世界の敵となり【悪役(ヴィラン)】となった【主人公(ヒーロー)】――神崎葉佩の、世界を変える為の戦いもこうして始まったのだ。


 そして――

 そんな息子の後ろ姿を見送る父――晴彦は呟く。


「あいつ、何でパジャマのままなんだ……?」


 葉佩がその事実に気付くのはそれから一時間後の事だった。


◇ ◇ ◇


―― ネイコスという《世界》の後日譚 ――


 全ては次の【主人公劇(ヒーローショー)】に向けての間幕だった。

 少女――ネイコスは今回の事件の余韻に浸りながら一人暗闇の空間の中で眠りに着く。

 彼女にとっては争いこそが全てであり、その後の物語など一欠片の価値も感じられない。

 少女の瞳に映るのは何時だって次の舞台となる暗黒の未来だ。

 故に彼女は眠り続ける。

 【世界(ネイコス)】の意思と出会い、役者となった者達が作る次の舞台の【開幕(オープン)】まで。

 こうして女神に見捨てられた世界は、束の間の平和に包まれた。



――【女神様――まもなく世界終戦シナリオのお時間ですよ】――【閉幕(クローズ)

ここまで読んでくださったあなたへ


最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。

この作品は昔、ある公募用に書いた作品を改稿したものです。

投稿のきっかけは友人からの勧めです。

最初は読んでもらえるかどうか不安で、投稿に意欲的ではありませんでしたが、これを読んでくださっている方がいらっしゃるという事はチャレンジして正解でしたね(^◇^)


この作品はひとまずここで完結となります。

一応続きの構成も途中まではありますが、次は公募用の作品の執筆に取り掛かりたいと思います。


また今回の経験を通じて思ったことですが、群像劇を連載するのは大変ですね。(苦笑)

自分にはまだまだ力不足。

もしかしたらこれを読んでくれてる方の中にもこの話とこの話は順番変えた方が良かったのでは? と感じている方もいるかもしれません。


連載してるとそういうところに自分で気付けても、容易に変更出来ないのも痛いです。

ころころ変更されると読者も困りますしね。


もし続きを投稿するなら最後まで書き上げてから、の方がいいかもしれません。


さてーー暫くなろう内での活動は止まりますが、これからも頑張ります。

いつかデビューして、あなたに「この作者昔から知ってる」と誰かに自慢してもらえる様な作家になりたいです。

最後までありがとうございました。

(`りνく)ノシ


―― thank you, see you. ――

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