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エピローグ・ダークサイド

―― 碑賀暁(ひがあかつき)とうい【主人公(ヒーロー)】の後日譚 ――


 夢を見た。

 それは暗闇の空間の中を漂う夢。

 奇妙な浮遊感に視線を彷徨わせるも視界に入るモノは何もない。

 ここに至るまでの記憶も無く、感覚からこれが夢だと直ぐにわかった。

 これは機械の体になってから自然と身に付いた現状判断能力といえる。

 冷静に視線を動かすと、光も無いのに自分の体だけはよく見えた。

 服装はいつもの外出時に着用している白衣に赤色のマフラー。

 しかし胸から下の装いが些か妙だった。

 何故か体が黄緑色をした披針形からさじ型の袋に包まれている。

 ――と、目を凝らして、それと《目》が合った。


「………………はぁ!?」


 素っ頓狂な声と共に理解する。それは巨大なウツボカズラ……。

 俺はその巨大ウツボカズラに胸から下を丸呑みにされていた。


「う、ぅっあああああああッ!」


 その光景に思わず悲鳴があがる。

 同時にその悲鳴を現実世界であげながら俺は目を覚まし――


「ぁ、ぁぁ、暁君!!?」


 その悲鳴に驚いて今にも飛びあがりそうになる千冬と目が合う。


「ち、千冬!? こ、これは一体…………どういう事だ!?」


 移り変わる現状に錯乱しつつ、そう叫ぶ。と――


「落ち着いて! ここは私の家だよ」

「千冬の!? 俺が? 何で?」

「あの場所から気絶してた暁君を運んで来たの」

「あの場所……ッ!」


 そして俺は思い出す。葉佩との死闘。そしてその決着を。


「そうか。俺は、負けたのか…………」


 そして視線を降ろし、そこで動きが止まった。

 その視線の先では夢に見た巨大ウツボカズラが俺を丸呑みにしていたから……。


「う、う、ぅっあああああああッ!」


 再び上がる悲鳴。だがその悲鳴を千冬によって鎮められる。


「落ち着いて暁君。それは呑まれ布団だよ」

「は、はぁあ!? 呑まれ布団? なんだそりゃ!?」


 聞いたこともない品名に呆気に取られる。

 改めて自身の首から下に視線を向けると、今度は別の意味で仰天した。

 それは言葉通り、ウツボカズラ型の布団だったのだ。


「何んだ……? これ……」

「だから呑まれ布団だって。知らないの?」

「知らない……」


 即答。寧ろ知ってる奴を俺は信じられなかった。


「これは昔あった抱き枕とか抱かれ枕に変わる新しい商品で包容力ある可愛げな生命体に身も心も包まれたいっていう欲求を叶えてくれる夢のある布団なんだよ」

「そんな夢知らない」


 日本人が変態と思われても仕方のない商品だった。


「他にも巨大ナマズ布団や巨大鯨布団なんかも持っててね。ぁっ、もしかしてそっちの方が良かった?」

「いや、いい……」


 そんな事をしても悪夢の内容が変わっただけに思えた。

 布団なんて安くもなければ場所もとるだろうに、よくこんな物を買い揃えられる。

 俺は千冬が来月の誕生日に欲しがっていた物を思い出す。


「君がUFO型のベッドを欲しがった理由がわかった気がするよ」

「ほぇ?」


 そして俺は布団から抜け出そうとするも、そこで四肢に走る違和感から布団の中を覗き込み、気付かされた。俺の体の節々が粉々に破壊され、見るも無残な有様となっている事に。


「………………っ」


 俺は葉佩から最後に受けた一撃を思い出す。

 あの時の葉佩の覚醒は嘗て【強欲の配達種(アブレスサプライヤー)】が創り出そうとして実現しなかったある技術と似ていた。

 まさか自分がその力によって敗北する事になるとは……。


「暁君、そう落ちこまないで。良いニュースもあるんだよ」


 落ち込む俺に千冬はそう言ってテレビの電源を入れる。

 直後画面に報道番組が映し出された。内容は既に昨日の事となった異世界侵略事件について。

 あの事件の起きたのは東京都内だけの話しであった様だが相当数の死者が出たらしい。

 もし日本規模、世界規模で発生していたら【世界終焉シナリオ】になってもおかしくなかったと評論家は語っていた。

 そしてそんな街で、我が身も顧みず戦った【主人公(ヒーロー)】達について報道番組がどの局でも熱く報じていた。

 ニュースでは現役から嘗て【主人公(ヒーロー)】だった者達の名が次々とテロップで表示され、直接インタビューを受ける者や、九死に一生を得た一般市民からその名を語られる者も居る。

 その中には【平和の鷹(ジークアドラー)】の【主人公(ヒーロー)】の姿も……。

 俺と千冬がそんな画面を見続けていると、次の瞬間それは現れる。


 ――『碑賀暁』『村神千冬』。


「…………ぁ」

「ね?」


 俺はそのテロップを前に言葉を失う。

 俺と千冬が人々から賞賛されていた。そして――


 ――『クロス霊』


「…………」/「…………」

「ぇ? あいつ何時改名したの?」

「さぁ…………」


 俺達は同時に首を傾げる。

 ――が、これは俺達が再びこの世間に【主人公(ヒーロー)】して認められた事に他ならない。


「やったね。暁君……」

「ぁ、ああ……」


 俺の瞳に熱い物が込み上がってくる。

 そして俺は感極まって千冬に抱きつくと心の底からこの状況を喜んだ。ただ――


「ぁっ、……ご、ごめん」


 俺は直ぐに素面に戻り、気恥ずかしさのあまり慌てて身を離そうとする。

 けれど彼女は俺とは対照的に離れようとはせず――瞳を閉じると唇を突き出してきた。


「ぇ!?」


 一瞬、俺の動きが止まる。

 暫くして千冬が目を開けた。


「ぇっ? もしかしてやだった?」


 と、不安げに俺の顔を覗き込む。


「ぇ、そんなことは――……」

「じゃあ……」


 そして千冬が再び目を閉じた。

 あの、これって……。


 キ、キ、キ、キキキ……す、スか!?


 ここに来てのこの展開に思わずたじろぐ。

 まるで油を差してくれよぅと欲するブリキ人形の如く動きがぎこちなくなる。が――


 え、ぇえぇいッ! 何を動じてやがる俺は。ガキか! 俺は中身おっさんなんだぞ!


 そう思い己を奮い立たせようとするも、しかしやはり体はぎこちない。



「ん~~」

「…………」

『チラ』


 千冬が右目を開く。


「…………」

「…………」


 目が合った。


「ん~~」


 みたび目を閉じる。


 ごくり……。


 一瞬――俺の脳裏に薫さんの顔が過る。

 彼女は嘗て俺の物語でヒロインだった女性。一瞬彼女に対する後ろめたさが胸を占める。

 だが、俺は思った。

 これから俺の歩もうとする道はこれまでの物語の続編などではない。

 この世のパワーバランサーといて暗躍し、永遠の【主人公(ヒーロー)】として戦い続ける茨の道。薫さんを関わらせてはいけない世界だ。ならば引け目を感じるのでなく、寧ろ彼女を――村神千冬をこれから始まる俺の新たな物語のメインヒロインとして、【終劇(エンディング)】なき争いの世界を進み続ける覚悟を決めるべきではないのだろうか。

 俺は意を決し、目を瞑ると千冬に顔を近づける。

 そして二人の唇が今まさに重なり合おうとしたその時――


「HYE! みんなお疲れぇィ!」


 突如ドアを蹴破り興奮気味に一人の男が部屋に入ってきた。それも裸で。

 もはや誰かと問うまでもない。黒須玲だ。


「玲君!?」

「玲……ッ! お前ぇ!!」


 千冬は慌てて身を離し、何事もなかったかの様に平静を装おうとする。も――


「ど、ど、ど、どうしたののの!?」


 動揺は隠せていない。そればかりか――


「ぁ、え、ぁ、ぇぇ、あ、えぇ?」


 完全に挙動不審だ。


「…………ん? どうした??」


 そんな反応に玲が怪訝そうに眉根を寄せるのに対し、俺は誤魔化す様に話を振る。


「れ、玲ィ、それは……、どうした? モンスターにでもやられたか?」


 そう言って指差したのは玲の鼻先。そこには一文字型の痣が出来ていた。


「いや、これは……はは……」


 玲はバツの悪そうにそっぽを向く。


「――?」


 玲にしては珍しい反応だ。

 ――と、真相を知る千冬が口を開く。


「翼ちゃんにいたずらしようとしたら下駄で蹴られたんだよ」

「ちょっ千冬、言うなって言ったろ!? 言ってないけど」

「言ってねぇ――んじゃねぇか……」


 どうも玲は黒木翼を救出に行った際、研究所で縛られていた彼女を見て欲情し、飛びかかった所を蹴られたらしい。


「まったく……」/「屑よね……?」


「なっ!? 別にあのまま襲っても服の上からエロい縛り方とかして遊んだだけだしぃ! 規制に引っかかるようなヘマとかしないしぃ! だいたいワナビの小説なんて作中でそれくらいしたって問題ないだろ!? 賞にしたって応募要項にはそこまで厳密に色々書かれてないしッ!」


「お前の発言――もう色々と問題だらけだよ。いい加減薬の量を減らせ。早死にするぞ」

「そんな事より、これを見てくれよゥ」

「聞け!」

「ほらぁ!」


 聞く耳持たず。

 玲は右手を差し出す。

 するとそこには肌色をしたチクワ型のシリコン玩具が握られていた。


「さっきあっちの部屋で見つけたんだよ!」


 玲はかなり上機嫌だ。

 だがこれは、ひょっとして……。


「千冬の元旦那はいい趣味してんなぁッ!」


 そして左手にはその玩具が入っていたと思われるアニメ調のイラストが書かれた紙製の箱が握られていた。

 それは何処となく俺たちの仲間、如月謳歌に似た少女のイラスト……。

 そしてその子は一糸纏わぬ姿で右手の指先を陰部に添え、こう、くぱぁ――をしていた……。

 これって、まさか……。


「これがこの間俺が話してた謳歌ちゃんにクリソツパッケージのおなぁあ――」

「ばかぁあああ!」


 叫んだ千冬に玲は顔面を蹴られた。

 玲は口から言葉も漏らせずバク転して床に平伏す。

 その顔面には余程強く蹴られたのか、既に斑型の痣が出来あがっていた。

 そして千冬は頬を羞恥に染め、そっぽを向き部屋を出て行ってしまう。

 俺からしても同情の余地はない。

 ただ、せっかく千冬といいムードだったのが……。

 何だよこれ。

 玲風に例えよう――こんなのが物語のラスト? ふざけるなよ。こんなのって……。


「最低ダァァァッ!」


 俺はおそらくここ数日間で一番とも言える大声を発し、全身を布団に打ち付け、もうやってられるかぁ、とばかりにもう一度――寝た。

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