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第45話:俺は悪くないと叫びたかった。廃墟が連なるここ東京で。

「ーーっ!」


 やはり速い。

 俺は回避が間に合わず、反射的に前方の空間を歪めて液鋼を展開、即席の盾を形成する。

 間髪入れず女の長刀と盾が激突した。

 俺は咄嗟に液鋼の表面を軟化させ衝撃を受け止め。続けて威力を跳ね返し、女を来た方向へ弾き飛ばす。


「玄!」

「オウッ!」


 今度はいつの間にか接近を果した男が双刀を振り下ろす。

 それも何とか防ぐも……。


 ――重いッ!


 今度は弾き返せない。軟化させようものならそのまま一刀両断される。

 衝撃と共に刀が纏う灼熱のオーラが熱波となって盾越しに顔まで伝わった。


「くっ!」


 一瞬の均衡。しかし刀は徐々に盾へとめり込み始める。同時に悪臭が俺の鼻孔を刺激。

 男の操る刀が宿す熱が俺の鋼を溶かし始めていた。

 そして今まさに男の刀が眼前の盾を貫こうとしたその時――


「ッやろぉォォォォォォお!」


 俺は叫び、自ら盾を突き破り白銀の拳を打ち放つ。

 俺は己の壁の貫通を悟り、自ら盾を引き裂き先制攻撃を仕掛けたのだ。

 その腕は盾に遮られた男の刀より早く獲物に到達する、はずだった。


「ォォオオオオオオオ――――――ッ!」


 だがこの時、男は驚異的な腕力がその拳の先を行く。


「――がァ!!」


 その衝撃はすさまじく。俺の体はそのまま大きく吹き飛ばされる。


 それでも俺は背中が地面に着く前に両手を使い後転。両手両足を激しく地面に叩きつけ、激しい土埃と共に速度を殺しきる。


「――――っ」


 俺はこの状況に舌打ちした。

 この二人は強い。俺は圧されている。

 両者は暁の様な強力な特殊能力を持つタイプの【主人公(ヒーロー)】ではないが、単純な身体能力が俺より高い。

 女は空が飛べずとも先に戦った鴉女より動きが速く、男は俺より腕力がある。

 本来なら暁と戦った後に相手を出来る様な輩ではない。

 そしてそもそも彼らは【聖なる鎖(ホーリーチェイン)】の【主人公(ヒーロー)】。戦っていい相手でもなかった。


「――っ」


 俺が選んだ道は逃走。

 俺は背中に翼を具現化し、上空目指し大きく羽ばたく。

 彼らが空を飛ぶ手段を持たぬのなら、このまま逃げきる事も可能、そう判断した。

 確かにその通りだ。だがそれは相手が彼らだけならばの話。次の瞬間――


「待てよ!」


 突如視界に割込んだ一振りの兜割りに俺の白銀の狼面は打ち抜かれる。


「――――――!!?」


 まるで見えなかった。

 まるで瞬間移動の如く現れた男の一撃。

 俺は錐揉み状に回転しながら地上へと落ちる。

 落下後はこの不意打ちに直ぐに起き上がる事が出来なかった。

 辛うじて動かした視線が捉えたのは数メートル先に降り立つ右手に兜割りを握る男。

 さらに……。


「あらあら、今度は銀ピカの狼ちゃんねぇ~♪」


 俺は知る由もなかったが、昨日父と姉を助けてくれた仮面ナースまでもが目の前に立ちはだかる。


「君達は?」


 双刀男の問いに――


「俺たちはフリーの【主人公(ヒーロー)】だよ」


 言って兜割りの男は左手にも同じ武器を握り締めた。


「全部見てたぜ。こいつ、悪い奴だろ?」

「ええ、そうよ」


 片腕の女はそう断言する。

 全部だと? 俺が暁を殴り飛ばすところしか見てないくせに……。

 だがこいつらの登場に俺がこの場を逃げ切れる可能性は更に低くなる。

 その上――


「――――っゥ!」


 俺は上空でこちらを俯瞰する青衣の魔法少女の姿を目撃する。

 それはさっき少年を救った暁の仲間。

 口を動かし、何かを喋っている。

 それが呪文の類ではなく仲間を呼んでいるのだと直ぐにわかった。

 これ以上仲間を呼ばれるのはまずい。早く逃げなければ。そう思っているのだが……。


「どこに行く気だ?」


 俺は兜割りの男に瞬間移動で背後に回り込まれ、振り下ろした一撃が脳天を直撃。顔面を地面に叩きつけられる。やはり瞬間移動系の能力者だったか。


「ぐふぅあッ!」


 そしてもう一度。


「――――ズァアッ!」


 今度は頭蓋を覆う狼面に罅が入る。さらに数度とその攻撃は止まらない。

 本来直ぐにでも再生するはずの装甲は立て続けの攻撃で罅が亀裂へと変わり、欠片が地へと撒かれる。

 再生が追い付かず、衝撃に目眩さえ覚えた。


「何だ? もう終わりか?」


 そして動けなくなった俺に男は一瞬にして正面へ移動。

 目の前で膝を降ろし、裂けた装甲の隙間から顔を覗き込もうとする。

 だがその瞬間――そこに救いの手が差し述べられた。


 ―― 『御主人ッ!』 ――


 突如天空から射す破壊の陽光。


「っ! これはっ!!?」


 男は咄嗟に瞬間移動で安全圏まで退避。

 光路が男と俺の間に割って入る事で俺は間一髪顔を見られるのを避ける。


「ミア……」


 この隙に俺は踵を返して再び逃走。


「ちょっ、待ちなさいよゥ!」


 それを仮面ナースと隻腕の女、双刀の男が追おうとするも、陽光はまるで意思を持つかの様に【主人公(ヒーロー)】達の行く手を阻み常軌を逸した熱量がアスファルトを溶かす。

 それを前に【主人公(ヒーロー)】達は踏み込む事が出来なかった。

 俺はその陽光を盾に廃墟と化す東京のビル群を縫う様にして飛んで行く。

 結局――暁の死体を確認する事は出来ず、【主人公(ヒーロー)】達には悪人と見なされた。

 不本意であり、潔白を証明したかったが、仕方ない。

 ネイコスを敵に回すという事は、そのまま世界を敵に回す事を意味し、その【主人公(ヒーロー)】と 戦うという事は【悪役(ヴィラン)】となる事と同義。

 胸が張り裂けそうな屈辱を噛みしめつつも、今はこれに耐えるしかない。

 俺はこの状況を前に、ただ逃げる事しか出来なかった。

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