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第42話:いいんだよォォォォォォッ!

 床を貫いて現れた震源――それは白銀の蔓。

 俺は階下に具現化した無数の蔓を、二人を囲む形で螺旋状にして天井まで伸ばした。

 その蔓にロードローラーや周囲の瓦礫群は瞬く間に弾き飛ばされる。


「これ、は……っ!?」

「【支配(ディレクト)】――【許容セシ我ガ世界(エンターマイワールド)】!」


 その技名に蔓は直ぐ様球体状の形を作り、俺と暁を内部に閉じ込めて外界から隔離する。

 それは鋼の檻。

 俺は暁の支配する建物の檻の中に更に小さな檻を形成した。

 そしてその中を――


「ここに、お前の操れるモノは何もねぇ!」


 全力で駆ける。


「!」


 それは一瞬――俺は暁の顎を蹴り上げ、奴の体を垂直に打ち上げる。


「まだだァ――ッ!」


 叫ぶと同時にそれを追って飛翔。

 脚に激痛が走るも止まらない。この連撃で決着をつけると覚悟を決める。

 俺は先回りし、暁の脳天に踵落としを食らわせ、今度は急降下。


「ラァァアァアァアァァァ――――」


 更に威力を乗せた一撃を構える。


「ッ!」


 暁がその猛攻から逃れようと応戦するも、俺はその拳を捌き、返しの一撃を叩き込む。

 暁は球体の外殻に激突し、空間内に轟音が響いた。

 ここは俺と暁以外何も無い漆黒の空間。

 暁のテレキネシス能力は無に等しい。

 そしてこの鋼の外殻はこの空間内で起こる全ての振動と空気の流れから暁の動きを未来予知に等しき領域で俺に教えてくれる。

 今の俺はこの戦いにおける最も高い戦闘力を発揮していた。

 故に俺を狙った暁の銃弾も回避するのは容易。

 続けざまの二射、三射――背後から戻って来た銃弾も身を捻って回避。

 今の後ろからの攻撃は盲点だったが、この空間内では何の問題もない。

 暁の表情に初めて焦燥の色が浮かぶ。

 今が間違いなく勝機と悟った俺は更なる追撃を仕掛けるべく闘志以外の全てを意識の外へと追いやり、ただ敵を追うだけの現象と化して行動する。

 暁まであとわずか――

 ――が、この時、俺は空間内を飛来する数十の異物の存在を感知する。

 それは数十発の銃弾。暁がばら撒いた最後の悪足搔きだ。

 奴の能力ならわざわざ弾を銃に装填する事なく能力だけでも操れる。

 しかし俺はそれを回避せず、被弾覚悟で突き進む。

 最低限急所を抑え、俺は暁までの最短距離を突き進んだ。

 右肩に一発。左脇腹に二発擦り、左脚にも一発命中する。

 けれど俺は速度を緩める事なく、暁目掛け降下。

 そしてついに鉛の雨を抜けた先に待つ暁の許へ――


「これで終わりだァアアアッ!」

「――――――――ッ!」


 とどめの一撃が今まさに放たれようとしたその時、予期せぬ衝撃が球体を襲った。

 それは正しく偶然の産物だったろう。

 その衝撃に俺は攻撃を逸らされ、暁のこめかみを削るだけに留まる。

 何が起きたのかは外を見ずともわかった。

 暁が静止していたビル。それが俺達を内包したまま、地上へと墜ちたのだ。

 尋常でない衝撃と共に球体の外殻に微かな罅が走り、暗闇だった空間に光が差す。


「――っ!」


 そこへ暁はすかさずサーベルをねじ込み亀裂をこじ開けた。

 一瞬の出来事。俺はそこから暁の逃走を許してしまう。


「――――待てぇッ!」


 それを追って俺も外へ。

 だがその行為はこの戦いにおける最大の愚行であったと、俺は直ぐに理解することになる。


「……………!?」


 しかしもう遅い……。

 俺の視界に映るもの――何も無い。

 球体の外は倒壊したビルの起こした土煙で一寸先さえも見えない状況。

 そしてそれは、この場における全てが俺の敵である事に他ならず……。

 俺の全身が粟立つ。逃げ場など、なかった。


「…………終わりだ」


 何処からか聞こえた暁の声。それが引き金とる。

 それはまるで空間の放流。突如雪崩の如き瓦礫の濁流に呑み込まれ、俺の視界は暗転。続けて肉体を磨り潰すかの様な数千数万の攻撃の嵐に晒され、俺の装甲は切り刻まれる。


「…………ゥッ!」


 それは破滅への予兆。

 暁の使役する微粒子が鎧の中へ潜り込む――


「______づぅ ――――――ぎッ、がアあぁあァああアァッッ!」


 それは悲鳴ではなく絶叫に近かった。

 俺は体内を蹂躙される苦しみと共に宙を錐揉み状に弾き回される。

 そして吐血。さらに全身から散った鮮血が空間そのものを深紅の色に染め上げる。

 俺の体が地面を捉えた時、その衝撃だけで全身を包んでいた白銀の鎧は一瞬にして蒸発した。

 最早変身を維持する事も不可能で、それは一瞬の過ちが招いた悲劇。

 拮抗した実力の両者はそれ故に些細な選択ひとつで容易に戦況は傾く。

 暴風が止むとそこには血溜まりの中に横たわる満身創痍の俺とそれを見下ろす暁の姿だけがあった。

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