第35話:彼は黒須玲ですか? いいえ、彼はクロス霊です
そしてその頃――二人にそんな力を授けた男――黒須玲は……。
「はっはっはァ――ッ! 昨日楽しませてくれたお礼だぁ。せいぜい死ぬんじゃねぇぜ、変態仮面ナースちゃんよぅ! また遊ぼうやァ」
高笑いと共に盗んだバイクで街中を疾走していた。
彼は背中から炎の双翼を生やし、地上を埋めつくさんと行進する蜘蛛の大群を焼き払いながら突き進む。
速さは時速にして四百キロ。
だがそれはバイクの改造によるものではない。
玲は背中から吹き出る爆炎を駆使してバイクを滑空させる。
「けへへ、思った以上の大惨事だねェ。こりゃあヘマしたら世界滅亡だなぁ。ネイちゃんも本気ってか? なら俺もチートばかし本気でやらねぇとぉなァ。まったく今日は最高の舞台だぜッ! Weeeeeee――――ッ!」
瞬間、玲の歓喜と絶頂に耐えかね、バイクは爆発。
だが玲はその爆風さえ推進力に変え、さらなる加速を持って地上を滑る様にして駆けた。
上空から飛来する羽付きの猿。
玲はまるでアイススケートをするかの様な滑らかな動きで猿共の長い腕の間を潜り抜け、すれ違い様にハルバートで両断する。
――と、進行方向に巨大な壁の存在を目視する。
それは怪光と人間の養分を吸って成長した異界の植物が作り出した巨大な樹海。
「ハッ! 燃え尽きな!」
玲は沸騰しかねない闘志を胸に、燃え滾る炎をイメージする。
そしてその炎を己の右掌に具現化した。
「ヒャッハ――ッ!」
それを業火の弾丸に変え植物目掛け撃ち出す。
炎弾は植物の茎に炸裂し表面を灰にした。
しかしそれだけ。植物は天上から与えられる異界の光力に焼けた側から再生する。
「ほぅ、そうかい」
すると玲は即座に距離を詰めにかかる。
「なぁ――あらぁ――ッ!」
同時に握りしめた拳に炎が宿った。
「直接叩き込んでやらァ!」
今度は放つのでなく、炎そのまま握り込む事で拳に装備。
炎が玲の心を象徴するかの様に荒れ狂い深紅の焔なって徐々に大きさを増していく。
植物が玲に対し蔦を振るった。
玲はそれ伏せてやり過ごし、植物の根元目指して大きく踏み込む。
――あと一歩。
しかし植物は奇声を発し口から異臭を伴う液体を撒き散らした。
呑み込んだ獲物を消化する溶解液だ。
玲はその溶解液を全身に浴びかけるも――
「shut up!」
渾身の一撃を振り上げ、天空を貫く巨大な火柱を出現させる。
溶解液は一瞬にして蒸発。植物も再生する暇もなく炎に飲まれ灰になった。
その現象は周囲の植物にも伝播し、植物は次々と蔦や葉に至るまで焼き尽くされる。
その光景に植物に苦戦していた数人の【主人公】が歓喜の声を上げた。
「やったァッ! あんたやるなァ!」
そしてその内の一人。巫女服猫耳姿の少女が玲の許へと駆け寄って来る。
「お兄さん。ありがとうにゃん♪」
それは何処かで見た覚えのある美少女。
「べ、べっべっつにィ? 俺はただ自分のロードに邪魔だった雑草を刈っただけだ」
その美少女を前に玲は珍しくしどろもどろになる。それだけ少女が可愛らしかったのだ。
「名前は何て言うんですにゃん?」
「…………俺は、地獄の、悪羅悪羅系戦士、黒須玲……だ」
仮面ナースの時と違い、その少女にはちゃんと答える。
「そうですか。私は巫女っとニャンコたんの鹿目と言います。クロス霊さん。あなたは善良な霊なのですね。今度神さまと会った時にあなたの善行を報告しておきます」
「はぁ?」
玲には自分が何と言われたのかよく理解できなかった。
だが鹿目は一礼すると玲の切り開いた道を他の【主人公】達と一緒に行ってしまう。
「…………なんか、勘違いされた様な気がするが、まぁ、いいか」
そして彼もまた走り出す。【主人公】としての役目を果たす為に。
昨夜は【悪役】であった彼も今はこの街を守る【主人公】。
そしてあの男――碑賀暁も、今は【主人公】としてこの街に君臨していた……。




