表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

第30話:やいクソ女神! うちの息子を転生なんかさせないからな!?

「葉佩! おい、葉佩! 頼む。目を開けてくれ。死ぬなァ――ッ」


 晴彦が研究所のホールに辿り着いた時、そこには暁との戦いに敗れた葉佩が横たわっていた。

 駆け寄った晴彦が意識の確認をするも、葉佩の呼吸は既に止まっている。体は冷たく、床を汚す血痕も既に固まっていた。この時、葉佩はもう……。


「くっ」


 それでも晴彦は蘇生術を施そうと膝を着く。

 だがその時、突如背後から声をかけられた。


「へぇ、翼を相手にここまで来たか。流石だなぁ」

「!」


 振り返った先には燈華を抱える暁の姿。


「暁ッ!」


 晴彦は咄嗟に拳銃を抜き、暁を狙う。

 しかしそれを前にしても暁は失笑。胸に抱く燈華を床に降ろすとそのまま背中さえ向けた。


「なッ!?」


 晴彦は暁が燈華を盾にするかと思っていた。だがこの行動は全くの想定外。暁は晴彦の事などまるで眼中にないという様子で歩き出す。


「待て! 何処に行くッ!」


 暁は晴彦に視線さえ寄越さず答える。


「もう直ぐ東京で《世界終焉シナリオ》級の事件が起こる」

「!?」


 それは秋葉原で暁と玲呼ばれる男が話していた内容。


「俺はこれからその対処に行く。今度は自演では無く、本当の【主人公(ヒーロー)】としてな」

 その言葉が引き金となった。


「――っ。ふざけるなァッ!」


 激昂と発砲。銃は連続して弾を吐き出す。しかし――


「無駄だ」


 撃ち出した弾丸は全て暁に当たる事なく床に落とされる。

 暁は背中を向けたまま動かなかったにも関わらずだ。


「なっ!?」


 晴彦は驚愕に一瞬動きが止まる。

 が、直ぐに弾を装填する暇さえ惜しみ銃を捨てると、今度は光線銃を抜く。しかし――


「無駄だと言っただろ」


 目の前に現れた暁に腕を掴まれた。

 今度は完全に動きが止まる。

 そして振るわれる掌底。鳩尾を打ち抜かれた晴彦は膝から崩れ落ちた。


「かっ……はァッ……」


 しかし――


「きゅぅううぴぃいいっ!」


 晴彦が背中に背負うリュックサックから包丁を持ったヘチマアザラシが飛び掛る。

 完全に不意を突いた攻撃。だが暁はそれを難なく捌くと頭を鷲掴みにする。


「へぇ、あの時家に居たこいつ、ぬいぐるみじゃなかったのか」


 そして床に叩きつけた。


「ぺぎぃッ…………」


 それきりへチマアザラシは気絶したのか動かなくなる。


「くっ……」


 切り札が不発に終わり、尚且つ身動きも取れない。

 跪く晴彦の視界の端に暁が腰に差すサーベルが映る。まさに絶体絶命

 本来ならこのまま首を刎ねられてもおかしくない状況。

 だが暁はそうしなかった。

 そればかりか晴彦を無力化したと見るや再び背中を向けて歩き出す。



「ぉぃ……。とどめはさして、いかないのかよ……」


 当然の疑問に対する問い。だが暁はそれがさも当然の様に語る。


「ぁぁ。あんたの息子で俺は満足だ。それにそもそも、お前達を始末するのは俺の役目じゃない」


 その言葉と同時だった。上階で何かが破壊される轟音。そして何かが蠢く物音が聞こえ始める。


「――っ、入って来やがったかッ!」


 それは晴彦がここに来るまでの途中に閃光弾やスモーク弾で振り切った翼の使役する奇形蟲。

 森林での翼との一戦は、あの一撃をもってしても決着を着ける事が出来なかった。

 そればかりか雷撃を耐えた翼は更に数百匹もの蟲を召喚して応戦。

 手持ちの武器ではどうあっても倒しきれないと判断した晴彦は、逃げる様にこの場所までたどり着いた。


「お前らの相手は翼と――そしてあいつらだ。人の獲物を取る気はない」


 その言葉には嘗て自分が奪われた側であった事への負の感情も篭っていた。


「これで生き残るなら、次は俺が相手をしてやるよ」


 そして次に瞬きをした瞬間には、暁の姿はホールの中から消えていた。


「畜生ッ!」


 言葉通り、暁はこれから東京で起きる事件の対処へと向かったのだろう。

 攻撃を受けた腹部に走る痛みで直ぐには立ち上がれない。

 だがいつまでもこうしているわけにはいかなかった。


『お義父さん。蟲達がこちらに向かって来ます。防火シャッターを起動して時間を稼ぎますが長くは持たないです』

「っ、わかった」


 おそらく今研究所の外観は蟻の大群に覆われた砂糖菓子の様な有様となっている事だろう。


「ミア、脱出するぞ。ナビを頼む」


 この状況を二人も抱き抱えて逃げきるのは困難。十年前のようにはいかない。

 だがミアの考えは違った。


『逃げません。この先の研究エリアに移動しましょう』

「そんなところに行って何を……」

『そこにある人体改造装置を使って、御主人を生き返らせるんです』

「!?」

『この間の半永久機関に使っていた結晶は今もポケットの中に入ってますよね?』

「ああ。だが、あの装置は――」

『大丈夫です。使える事は今確認しました。それにあの装置は元々その結晶を使って不死の化物を造る事が目的だったんですよね? ならそれを応用してこの間のヘチマの様に蘇生行為にも使えるはず。違いますか?』


 その言葉に晴彦は嘗てここで行った実験の数々の記憶が蘇る。

 そして犠牲となった沢山の子供達の顔も……。


「…………ああ、原理的には可能だ」

『なら……』


 だが過去一度それが成功した事はない。

 それに先日蘇生させたヘチマの事も思い出す。

 あのヘチマも結局は最後に爆発した。


「だめだ。あれは当時から効果が強すぎて不死も蘇生も上手くいかなかった。仮にそれで葉佩が生き返ったとして、今度は完全な魔物になってしまっていたらどうする! あれには力を抑える制御装置がなきゃ駄目なんだ」

『なら、私がなります』


 その即答に、晴彦は息を飲んだ。


「なんだと?」

『私なら御主人の体内の装置とここの施設の装置、二つのシステムに干渉出来る。私が力を操る制御装置の役割を果たすんです』

「待て! 自分が何を言っているのかわかっているのか? 最悪、失敗して君が弾けて消滅してしまう可能性だってあるんだぞ」

『はい。でも私は例えデリートされても、また何時もの様に秘密の場所からバックアップを――』

「そんな嘘で私が騙されると思っているのか!」

『!?』

「君ほどの存在を保存しきれる媒体なんて今の時代何処にも存在しない。君はいつもデリートやアンインストールをされたフリをしていただけだろ?」

『…………ぁ、は、はは、気付いていましたか』


 彼女はバツが悪そうに微笑む。だが――


『でも、私の考えは変わらない。私は御主人を見捨てる事なんて出来ない』


 彼女は引かない。


『御義父さんもそれは同じのはずです』

「そうだが……」

『それにこの場所から素直に逃げようとしたところで、私以外の生存率は絶望的に低いですよ……』

「…………やっぱり、そうか」


 晴彦もミアにナビを頼んで脱出しようとしたところで、生存率がそれ程高くないだろう事は薄々勘付いていた。


「だがそっちの成功率だってそれほど高くはないだろ?」

『仮に同程度だとして、私がこれからする事を変える事の方が確率は低いと思いますが?』


 彼女の意思は本物だ。議論など、そもそも必要なかった。

 そして晴彦も、葉佩を助けたいという気持ちは変わらない。ならば――


「…………わかった」


 彼もまた決心する。そして――


『それにそもそも、もう選択の余地ももうなさそうですしねぇ』


 直後――ホールの天井に開いた昇降機用の穴から数匹の奇形蟲が顔を覗かせる。


『時間がありません。行きますよ!』


 その言葉と同時だった。

 突如昇降機が独りでに動き出し、急上昇。レール上に居た奇形蟲を轢き殺す。

 籠は尚も勢いを増し、そのまま上階に激突したのか、爆音と共に瓦礫を降らせた。

 防火シャッターの件といい、まったくミアは何処でこんな技術を覚えたのか。

 こんな能力は製作者の自分でさえ全く想定していなかったと断言しよう。

 そして晴彦は気絶したヘチマアザラシをリュックに入れ、葉佩と一緒に抱えると燈華を背負い走り出す。


「こっちです」


 ミアの命令で純白のタイル壁の一部が開閉。隠されていた一本の通路が露わになる。

 それは上階と違い、光源は道脇に取り付けられた電灯の微かな光りのみ。薄暗い細道は何処でも続いて見えた。


「近道か!」


 晴彦は躊躇わずそこに飛び込む。

 晴彦が駆け抜けた背後では防火シャッターが次々と閉まった。

 それはミアがハッキングで作るバリケード。

 そして走り続けること数秒――それは目の前に広がる。

 多様な機械の連なり。遠目にもわかる黒ずんだ鉄壁と赤く錆びついた鉄骨によって組まれた部屋だ。

 それは巨大な要塞を連想させる、この施設の中枢ともいえる研究エリア。

 壁面にうねる様に絡みつく配管や階段に梯子。

 各所からまるで呼吸の如く噴き出る蒸気や白煙。

 天井高くまで聳える幾本もの鉄塔と、そこから伸びる数百ものワイヤーやケーブル。

 室内は機械の発する熱に空間が歪み、まるで全ての機器が微かに動いている様に見えた。

 部屋全体を捉えようにも、蜃気楼のように揺らいではっきりと認識できない。

 この部屋はミアにより再び息を吹き返した。

 晴彦は当時からこの部屋に巨大な生物を連想していた。

 それはまるで御伽話に登場する魔王の城。十年の歳月が経とうとその印象は変わらない。

 今見ても不気味。それが晴彦の抱く感想。

 そしてその先にそれはある。

 晴彦の瞳に映る物。それは無数の鉄柱やパイプ、タンクとミラーに囲まれた台座の上に鎮座する巨大な球体状の装置。

 それは室内の明かりを受け、赤黒く不気味な光沢を放つ。

 節々では赤や白に瞬く無数の発光体の存在。

 それは美しくも恐ろしい光景。

 まるで無数の眼球や悪魔の果実がそこに在るかの様。

 それが晴彦達を前にして起動する。

 球体の表面に様々な形状の幾何学模様状が次々と浮かびあがり、その形状にそっておうとつが生まれ、怪しく蠢く。

 そして晴彦の目の前で蒸気を発すると花弁の様な口を開いた。

 その中は漆黒の闇。これまで何人もの子供を飲み込み、怪物へと造り変えた大淫婦の子宮だ。

 その中に再び息子を戻す……。

 晴彦の動きが止まる。だがそれも一瞬の躊躇い。


「ミア、任せたぞ……」


 葉佩を中に入れると球体はまるで彼を捕食するかの様に口を閉じた。

 そして操作盤に結晶を填め込み、ミアの姿がスマホ画面から消えたのを確認する。

 直後――建物全体を激しい揺れが襲い、振動が臓まで響く。機械が起動したのだ。

 そして台座の各所に取り付けられたミラーの表面を幾重もの光線が走る。

 鮮やかな七色の光が駆け抜けた。

 それらがあたかも魔法陣を描く様に台座の上で図形を作り、最後は球体へと収束する。

 赤黒かった球体の表面が白銀に染まった。

 それと同時に試験場から研究エリアまでの道のりで降ろした防火シャッターが破られる音を耳にする。

 轟音は少しずつ大きくなり、こちらへと近づいてくる。

 そして数秒後――最後の防火シャッターが破られた。

 晴彦は振り返り廊下を見る。

 その道は薄暗く先の方まで見通せなかったが、等間隔に壁から下がる電灯が次第に消えていく光景が、その存在の接近を教えてくれる。


「来やがったか。ミア、あまり時間はかけんなよ? とっとと戻って来い」


 そして晴彦は拳銃を抜く。

 奇形蟲が飛び出してくるのと晴彦が発砲するのは同時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ