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第28話:葉佩散る

 そして――葉佩と暁の戦い。

 両者の距離はおよそ五メートル。

 俺の脚なら首を撥ねるのに刹那の時さえ有さない間合い。

 にもかかわらず、暁は未だ笑っていた。

 彼もそれをわかっているはずなのに……。


「――――――――」


 数刻にも感じられる数秒の相対。

 その静寂を破り――


「づ、アァ――ッ!」


 俺はその無防備な暁目掛け攻撃を振るう。

 その踏み込はタイルを砕き、昨日とは比べ物にならない速度での攻撃。

 その動作に起こりはなく、溜めもさえない。

 鉤爪を生やした巨腕による横なぎの一閃は俺の肉眼でさえ残像が見えた。しかし――


「――――――――ッ!!?」


 振り抜いた俺の拳は空を切る。

 そこに居たはずの暁の姿さえ消えていた。

 ――なにッ!?

 俺の眼が暁の姿を探して彷徨う。と――


「こっちだ」


 暁は未だ笑っていた。

 そしてその笑みを崩さぬまま――


「――――ギぃ!?」


 俺は背中を切り付けられる。

 現象に理解が追いつけなかった。

 奴は残像さえ残さず、俺の背後に回り込んだのだ。

 俺は理性ではなく本能でその場からの離脱を判断。

 一瞬にして十メートルの距離が開く。

 しかし俺の心は動揺に支配されていた。

 今の動きがまるで見えなかった。どうして……。

 だが、答えを導き出す時間などない。

 俺は更なる加速力を持ってホール内の壁を数度に渡って蹴り、跳躍しつつ多角度的に暁を狙う。

 それを見上げた暁は呟いた。


「大した速度だな。まるで見えない……。だが――」 


 突如視界が暗転する。

 幾ら視線を彷徨わせようと暁の姿はない。

 何だ!? 目眩し!?

 ――否。

 俺は暁に額を鷲掴みにされていた。


「!?」

「俺に勝てる程のモノじゃぁない」


 瞬間意思とは関係ない加速力が体を襲う。

 続く衝撃が床によるものだとすぐに理解した。

 痛覚はない。そんなのは既に狂乱の彼方に置いてきた。


「――――――――グらァアッ!」


 俺は背中から尖塔を生やす。

 それは鞭のようにしなり、触手の刃となって俺の全方位を横薙ぎに裂く。


「全く。そんな事まで出来るのか」


 だが暁は一瞬にして俺の攻撃の射程外まで移動。それどころか――


「グッッ!」


 俺は右脚を知らない内に切り裂かれ、呻き声と共に片膝をついた。

 一方的な戦闘の流れ。


「言いたくないが正直がっかりだな。もっと俺を楽しませてくれると思ったのに」


 暁は完全に遊んでいる。


「――――――グッ」


 辛うじて維持する俺の理性がこの圧倒的力量差に警告を発した。

 しかし俺は己を鼓舞して前に出るしかない。


「【展開(エヴォルヴ)】――【邪悪を撒き散らす雨イビルスプリンクルレイン】」


 ならばと叫んだ技名。

 力の解放に合わせ俺の全身が粟立つ。

 途端――それが弾けて周囲に針弾となって拡散した。

 それは散弾に等しく。研ぎ澄まされた鋼の雨が俺の全身から周囲の敵を一掃せんと射出される。

 その波状攻撃に逃げ場などないく、銀光の駆け抜けた後に残るモノは何もない。

 暁は必ず何かしらの手を講じ、俺はその一瞬の隙を突く――そう考えていた。だが――


「……ふぅ」


 暁のため息。

 続く光景はまるで時間が切り取られたかの様であった。

 周囲に展開していた針弾の豪雨。

 その全てが知らない間に地に落とされていた。

 隙などまるでない。

 寧ろ隙を晒していたのは俺の方。

 暁は知らない内に銃を握り、その銃口を俺に向けていた。

 さらにその銃口からは既に硝煙が上がっている。


「――!?」


 途端胸を襲う重圧。

 胸を見る。微かな違和感。その正体は数発の鉛……。

 胸を穿とうとする銃弾だった。


「…………ぐっ」


 ――重い。

 それは大口径。肉を潰し、組織を引き裂こうとする圧力が胸に伝わる。

 俺は咄嗟に身を反らし、弾は装甲上を滑る様にして逸れた。

 火花と同時に抉れる装甲。傷は直ぐに塞がるもこの銃弾は俺の装甲を持ってしても正面から受けるのは危険だと判断すした。

 しかし俺は直ぐに次の行動に移ることが出来ない。

 一連の現象に対する違和感と恐怖心とが俺の行動を阻害する。

 ――おかしい。

 知らない間に俺の攻撃が無力化されていた……。

 避けられるならわかる。撃ち落されるのならわかる。

 だがその瞬間を俺は知らない。

 今の銃撃だってそう。

 俺には撃たれる瞬間も、それが当たる瞬間も見えていなかった。

 間の現象が完全に抜け落ちている。

 まるで自分の時間が止まっていたかの様な……。

 まさか……。

 その可能性に気付くのは最早必然だった。

 俺はある仮説を立てる。

 こいつは速いのではなく――


「周囲の、時間を止めている、のか……!?」


 咄嗟の呟き。だが……。


「半分正解だな」


 それは定説へと至らない。


「……半分、だと?」

「まぁ、仮にわかったとしても……」


 暁が一歩踏み出す。するとたったその一歩で――


「――――――っ!!?」


 右肩から左腰に掛けて痛みが走る。

 暁が目の前に現れサーベルを振り降ろしていた。


「――ぐァアッ」

「この状況は何も変わらないけどな」


 俺は暁の瞬間移動に等しき移動術に対応できない。


「ぜァア――――ッ」


 反射で繰り出した回し蹴り。しかし――


「無駄だ」


 攻撃は当たらず、代わりに振り抜いた脚から鮮血が散る。

 今度は能力ではなく本当に全身の毛が粟立った。

 実力が違い過ぎる。

 最早そこに埋めようのない戦力差が存在する事を思い知らされた。

 俺は片膝を着き、傷跡から滴る血液がタイルを汚す。

 傷付いた鎧は直ぐに塞がるも、負った傷は直ぐには治らない。

 蓄積されたダメージがここにきて心の動揺と共に一気に押し寄せる。

 だが俺は諦めない。刻一刻と悪化する現状の中、俺は考えた。

 数メートル先に佇む暁。それを倒す為の、現状を打開する為の策を。

 未だ謎に包まれる暁の能力。

 その正体は知れずともこれだけはわかた。

 例え俺が更なる加速をもって動き回ろうと意味はない。

 奴の能力は俺が見えていようとなかろうと関係ないのだ。故に――

 俺は両手をタイルに添え、その構えをとる。

 人で言うクラウチングスタート。獣で言う獲物に飛び掛かる最速の構えを。

 俺の出した答え――

 それは持てる力の全てつぎ込み、一刀のもと奴の体を断つと。

 その決意に、心に住まう獣が語りかける。


『そうか。ならばもっとだ、もっと差し出せ…………』


 獣は俺にさらなる融合を強要する。

 諸刃の剣だが最早躊躇などしている余裕などなかった。


『もっと、俺と混じワレェッ。もっと、もっと、もっどだァァ…………』


 そして俺自身、その力を欲した。


『もっと速さをォ。――もっと、狂気をぉォッ!』


 瞬間――俺の理性はさらに一歩、獣へと踏み込む。

 瞼が裏返り全身が痙攣。鎧の表面に葉脈状の模様が一斉に浮かび上がり、思考が沸騰する。

 肺から吐き出される息は蒸気となって霧散した。

 そして最後に頭からつま先まで電流が駆け抜け――


「GYOAAAAAAAAAAッ!」


 俺は弾丸の如き速度で突撃した。

 鼓膜と心を揺さぶる狂獣の咆哮。

 俺は理性も感情も方向感覚さえ投げ売った超速を体現する。

 耳を劈く絶叫。しかし今の俺には内で荒ぶる獣の波動しか感じない。

 あるのは獣の戦う本能のみ。俺の眼には暁の姿しか映らなかった。

 俺は狂気に乗って暁までの最短距離を一直線に駆け抜ける。

 それはこれまでで最高クラスの踏み込み。

 俺は途中で止まる気も、方向転換をする気もなかった。

 同時に右腕から鎌状の刃を生やし振り被る。

 狙うは敵の急所――首。

 刃は振るわれ、その一撃は風を切り、暁の首へと達した。しかし……。

 …………。

 …………。

 …………。


「残念だったな」


 暁の呟き。


「――――――ッ!?」


 俺の思考は止まる。

 そこに狂気や理性は無く、ただ頭の中が真っ白になった。

 ――何故? 俺は今全身全霊の一撃を叩き込んだ。

 にもかかわらず暁の首は未だ健在。それどころか血の一滴さえ流れていない。

 俺の刃は確かに暁の首筋に届いたはずなのに。

 ――いや。

 俺は気付かされる。その有り得ない光景に。

 俺が振り抜いた刃。それは暁の振るうサーベルによって根元から切断れていた……。

 俺が届いたと思った刃は、単なる残滓に過ぎなかったのだ。


「お前に俺は倒せない」

「そん、な…………」


 理解と同時に襲ったのは腕に走る激痛と飛び散る鮮血、心を支配する絶望だった。

 そんな俺に続く攻撃を避けれるはずもなく……。

 ゆっくりと、遅いとさえ思える一撃。しかしそれは確実に俺の胸に突き刺さる。


「………………」


 現実を理解するのに数秒かかった。

 心臓が激しく鼓動し、肺が収縮と膨張を繰り返す。

 その度に全身に広がっていく痛み。

 だがそんな肉体の苦痛さえ、今はまるで遠くの様に感じられた。

 意識が段々と遠のき、力尽きて両膝をつく。

 体を包む鋼も溶解して形を失った。

 それが床に広がる様はさながら鉛色の血液のよう。

 もう立ち上がる事さえ出来ない。

 暁が俺を見下ろす。


「些か物足りなかったが、これで終わりだ」


 そして暁のサーベルが、俺の体に深く、深く突き刺さる。


「がぁ、あ、ああ…………っ」


 その刃は背中を貫通した。――と、


『御主人――――ッ!』


 そんなミアの叫びが何処からか聞こえた気がした。

 だが今の俺はそれに応える事ももう出来ない。

 段々と意識がこの世界から遠ざかる。

 この戦いはあまりに一方的で、そもそも勝負にさえなっていなかった。


 この瞬間――俺は敗北し、死んだ。



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