『誰も行かない道を行け、いばらの中に答えはある』
うーん、考えてみたけど、そもそもこの強さのままで戦いに行くこと自体が無謀な気もしてきた。ということは、やはり何らかの形で強化を図らないといけない。ふむふむ。ゼカさんも少し前に出て行ってしまったし……。よし、ここは残った者で作戦会議といくか。
「全員集合ー! 番号1!」
『2』
ところが耳を澄ませても、続いての返事が全然聞こえなかった。僕は絵筆を取り出し、そのままじーっと見つめる。しばらくそうしていると、やがて困惑したような声が響いた。
『…………わ、わたくしもなの……? ……3、でいいのかしら……』
ただ集合をかけたのにもかかわらず、集まったのはその3人(?)だけだった。他の装備は返事もなし。くそう。ただなんか聞いてはくれてる気配はあるのでよしとしよう。関係の距離が縮まるのには時間がかかる人もいるのである。
「ではこの状況でどうやって教皇と女神をフルボッコにするか、の第1回会議を開始します」
『第1回……? 既に2回目があるのね……』
よーし、という感じの雰囲気も僕の内側から伝わってくる。そっか、君と僕ってあんまり直接会話うまくいかないもんなぁ。ということは、 水彩画家先生にこの会議が成功するかどうかがかかっている。よろしく頼むよ。
「まずどうやって強化しましょう。考えてはみたんですけど、さすがに今からランニングするとかだと間に合わないと思うんですよね」
『そ、そうね……それは考えるまでもないのではないかしら』
「むう、じゃあ何かいい考えはあるんですか」
『考える時間は!? さすがにもう少し待ってちょうだいな』
「はーい。……さすがに木に登ったら相手の攻撃が届かないとかそういうレベルでもない気がするし……」
『木の上に攻撃の届かない神はいないと思うわ』
一理ある。ならこれも駄目か。幻覚にかけたら同士討ちとかしないかな? その前に僕がやられちゃうか。それに教皇のあのビビりようからすると、女神の方が強いんだろうし。
『…………あら……?』
お。なんか思いついた?
『いえ、でも馬鹿馬鹿しすぎて……』
「今そういう意見こそ必要です。馬鹿馬鹿しいほどいいんです。『誰も行かない道を行け、いばらの中に答えはある』ですよ」
馬鹿馬鹿しいほどいい、はちょっと言い過ぎたかもしれん……。ただ、このまま考えててもたぶん正攻法じゃ無理だから。どんな意見でも出していこうじゃないか。
ところが絵筆先生はそれでも躊躇いを見せた。関係ないけど、筆なのに感情表現できるってすごいよね。さすが魔王様の持ち物。
『でもこれ、いばらの中過ぎないかしら……』
……いや、どんな案やねん。まず言ってもらわないと検討もできないから。
「笑いませんから」
『その、ね……。翻訳魔法の魔石を食べたから、今その分の魔力しかないのよね』
「はい」
『だったら、もっと食べたらいいんじゃないかしら……? だって体自体はなんでも吸収するままなんでしょう?』
「……ほう」
おおなるほど……。これは試す価値のある案では? 誰かが『君の体ってなんでも吸収するよ』って言ってたもんね。実際それで翻訳魔法の石を吸収して助かってるわけだし。同時に吸収した魔石の魔法も使えるようになったりしないかな? よし採用! 君をこの会議の名誉顧問に任命する。
「次に、教皇と女神を倒す方法についてなんですけど、その調子でポンポン出ないですか?」
『それはあなたが考えなさいよ!』
さっそく誕生した名誉顧問は、己に課せられた任務の重さにご立腹だった。
「ゼカさーん! お願いがあるんですけど!」
「どうしたの? 欲しいものがあるなら調達してきてあげるわよ。なんでも言いなさい」
部屋にやってきたゼカさんにさっそくお願いをすることにする。僕が自分で行けたらいいんだけど、まだ歩き回ると痛いし。たぶんお腹いっぱい魔石を食べたら治りも早くなるのではないか。
「魔石を買えるだけ買ってきてほしいんです。お金は後で払うので」
「……魔石って、あの? ベッドで寝てるのにそれって今必要? 何に使うの……?」
「食べるんです」
「……ん?」
僕のお願いを聞いたゼカさんは顔をしかめ、怪訝そうな表情で首を捻った。……おや。聞こえなかったのかな? 怪我の影響で僕今ちょっと声小さいしね。もう少し頑張って大きな声で頼んでみよう。
「全部食べます。それはもう、フードファイターのような勢いでもしゃもしゃと」
「……いや、聞こえなかったわけじゃないんだけど。ただ、何言ってるのかなって」
「あ、ひょっとして魔石をご存じない……?」
「知ってるわ! 知ってるからこそ困惑してるんだってば。え、なに? 緩慢な自殺なの? お腹減ったなら、おいしいパンとかの方が良くない? 焼きたて売ってるお店見つけたからさ。買ってきてあげる」
それを聞いて、ぐう、とお腹が鳴るのがわかった。焼きたてパンかぁ……。ふっくらと焼かれ、ほんわりとバターの匂いのするパン。口に含むと香ばしい風味が口いっぱいに広がる。うん、素敵じゃないか。こういうのでいいんだよ。
「パン食べます」
「よろしい」
「魔石はおかずにしましょう」
「主食にするしないの話じゃないんだよなあ」
その後、ゼカさんは魔石を5個だけ買ってきてくれた。なんでもこれ、高いんだって。どうやら1個、日本円に換算して10万円くらいするらしい。……友人に軽く50万円をパシらせてしまった……。ゼカさんごめん……。
そんなものを立替払いで買ってきてもらうのもさすがにアレなので、僕は自分の部屋にお金を取りに行くことにした。ゼカさんがいない隙に、ベッドを降り、部屋を出る。それでわかったけど、ここってトアの武器屋の裏側だ。どうやらここもトアの家らしい。たぶん仮眠室みたいな感じなんだろう。さてさて、では我が家に帰りますか。それにしても久しぶりの外は日の光が眩しい。
そして、ゆっくりゆっくり歩いて、僕は懐かしの我が家に帰ってくることに成功した。ここにはウルタルからバイトで巻き上げたお金がどっさり置いてあるのだ。日本円にしていくらだろう……? えーっと、わからないけどとにかくたくさん。
ところが、僕が自分のお金を手に入れてほくほく顔で戻ろうとした際、ロランドと居間で接触した。彼は僕の方をじろりと睨む。……あれ? なんか不機嫌? また友達無くしたの? いないものは無くしようがない気もするけど。
「おう、帰ったか」
「ただいま」
「ちょうどいい、お前を学校に連れて行こうと思っていたところだ」
「へ……? なんで?」
あの魔境に? 僕を? ……嫌がらせ? だとすると大変効果的だと思う。何か悪いことしたっけ? 僕はこんなに友好的に接してるのに……。
「いいから行くぞ。お前の能力向上にもなる話を持ってきた」
「あ、別にいいや。自分で何とかするから」
そうぱたぱたと手を振りながら答えると、なぜかロランドはガーン! と頭の上に出そうなくらいにはショックを受けた顔をした。いやいや君、今までの前科から見るともう信頼0なんやで。聞かなくても却下だよそんなの。
「今度こそ任せろ!」
「もう、行かないって言ってるのに……!」
ぐぐぐ、と引っ張り合いをしたものの、普通にぐいぐい引き負ける。おおう、なんてこった。ロランドに腕っぷしで負けるとは。体格的にはこれで普通なんだろうけど、ショック。引っ張られて意識が逸れたことで痛覚遮断が解けたのか、ズキズキと腹部が痛みを主張してくる。
「……あ、いたっ……」
「よし、なら背負って行ってやろう。これで安心だろう」
「違う違う違う降ろしてというか痛い痛い痛いって……!」
なんか振動でうまく集中できないというか余計響くっていうか何これ拷問? ロランド拷問器具に転職したの? 先にこれゼカさんの買ってきてくれた魔石食べたらよかった……。
そして道中ずっと揺られていたせいか、学校に着いたときにはもう痛みで動けないくらいぐったりしてしまった。お腹に穴開いてるのに振動加えるとか、こいつ頭ロランドかな? ロランドだから頭ロランドなのは当然なんだけど。じわりと自分の目に涙が浮かんだのがわかる。というか普通に泣きそう。
「……痛い……ぐすっ……痛いよ……」
「よしよしもうすぐ何とかしてやろう」
「もうやだ……降ろしてほしい……」
ざっ、とその時ロランドの行く手を阻む人が現れた。……あ、ロイだ。なんか久しぶりに見る気がするけど。西部劇で悪者の前に現れる正義のガンマンみたい。
「待ちなよ。まるで誘拐犯だぞ」
「自分の使用人を誘拐する人間がいるか? 普通いないだろう」
「お前は普通じゃないからな……それよりも聞きたいことがある。大事な話だ」
ロイはそれはそれは真剣な顔をしていた。今まで見たことないくらいに。……なんだろう。ひょっとしたら女神攻略に関係する何かだったり……。
「サロナさんが弱体化して、普通の女子になったという話を聞いたが……本当か?」
「ほう、耳が早いな。俺は何人かにしか言っていないというのに」
やばい話だった。しかもお前なんでそれ何人にも言ってんねん。広まってるやないか。女神攻略に1ミリも関係ないし。絶対これまずい話になりそう。というか誰が正義のガンマンだ。誘拐犯同士の小競り合いやんけ。
僕はそろそろとロランドの背中を降り、代わりにテラスの椅子を持ってきて背負わせておく。もちろん降りるときに幻覚をかけて、2人には僕がまだ背中にいると認識させておいた。思う存分取り合ってくれ。座ってよし、物を置いてもよし。頑丈さには定評のある寡黙ないいやつだよ。
「そうかそうか。ということは、今なら彼女を倒せると、そういうことか……ふふふ、その背中の人を置いて行ってもらおうか」
「そういう訳にはいかんな。ククク、前に無様に負けたことを忘れたのか? もう1度同じ目に遭わせてやるとしよう」
そう言いながら睨み合う2人を、級友たちは不思議なものを見る目で見ながら横を通り過ぎていた。それを背に、僕はその場を脱出する。それにしても、まずいぞ。ここを脱出しないとだけど、痛覚遮断と幻覚ってなんか同時にしづらいから難しいかもしれん。どうしたものか……。
「……という訳です。あの、仮眠の邪魔しないので匿ってくれませんか……?」
僕はトアの部屋にとりあえず逃げ込むことに成功した。というかあのままだと、絶対門までたどり着けなかった気がする。そんな僕の訴えをなぜか額に手を当てながら聞くトアは、ちょっぴり疲れてるみたいだった。うん、まずはゆっくり休んでほしい。無理して動いても、あんまりいいことって起こらないみたいだから。




