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原点

 ……痛い。痛い。いった! いったい! いたたたたたた! ななななな、なに!?






 腹部に滅茶苦茶な痛みを感じ、僕は目を覚ました。見覚えのない天井がぼんやりと視界の中に浮かぶ。……えーっと……海底で……あ。思い出した痛い痛い痛い! 痛覚遮断! そう意識すると、すうっと痛みが薄れていくのがわかった。……おお。



 なんかばったばただったけど、どさくさに紛れて痛覚遮断を習得することに成功したらしい。ふうやれやれ。自分の才能が怖いぜ。と同時に、ぐわあああ、と心の中で七転八倒している気配に気づく。……あ、ごめん。君のこと考えてなかった。もう痛みやんでるよ。……でも、ありがとう。お腹掻っ捌かれる時には何も文句言わなかったもんね。気絶してただけなのかもしれないけど。


 しかしここどこだろう。痛いってことは生きてるってことだと思う……けど。周りをきょろきょろと見回してみる。僕がいるのは殺風景な小部屋で、ベッド以外には椅子くらいしかない。壁は一面に白い。……なんか壁が一色だと虹の祭壇を思い出して、なんだか嫌だ……。





「おはよー! って起きてるぅぅぅ!! おはよう!! 大丈夫!? 痛くない!? 生きてる!?」


「あ、ゼカさんおはようございます。ここどこですか? 今何時ですか?」


「トアー! 起きたよー!!」


 ゼカさんが部屋に入ってきたかと思うと、僕を見て目を丸くした後に。すごいスピードで叫び、すごいスピードで飛び出していった。そしてすごいスピードでトアをどこからか呼んでくる。




「おはようございます。具合はいかがですか。痛みはありませんか」


「ありがとうございます。なんとかおかげで生き残れました」


 ベッド脇で僕の顔を覗き込んでいたトアが、安心したようにふう、と溜息をついた。どことなく目の隈が出来てる気がする。これは心配をかけてしまったような。


「あの後、どうなったんですか」


驅魔客(ゴーストザッパー)は取り出した宝石を食べると大人しくなりました。今も海底神殿にいると思います」


 あ、そうなんだ。絶対しばらく近寄らないでおこう。





「ちなみに今っていつですか?」


「あれから、既に1週間が経っています」


 ふむふむ。けっこう寝てたな……。その間に何か状況に変化とかある?


「ウルタル氏が学会で『どんな魔法も研究対象にすべきである。特に魂に関する研究とか』と言って大バッシングを受け、雲隠れしました」


「へ、へー……」


 後半に欲望駄々洩れやろ……。でもそういや我慢できない人だっけ。ルート先輩がいないとここまで暴走するとは……。駄目な大人だ。でもどうやら、結局先輩は止めなかったらしい。あの人は、いったい何を企んでいるんだろうか。聞いても「秘密だよー!」としか答えてくれない気もするけど。





 ふーむ、と考え込んでいると、ゼカさんも心配そうにそろそろとこちらに屈みこんでくる。


「痛まない? 大丈夫?」


「……大丈夫ですよ?」


「これ絶対嘘ついてるやつだ!」


「傷の治りが遅いんですよね……やはり魔力がないせいでしょうか……」


 トアも口に手を当てて、深刻そうな表情で下を向く。……お、なんか今さらりと重大な発言があったような。


「あ、やっぱり魔力無くなっちゃったんですね」


「今のあなたって、翻訳魔法1個分の魔力しかありませんからね」


 そういや食べてたっけ。あれがこんな形で役に立つとは。そういう意味ではウルタルには感謝しないとなのかもしれん。もう会えるかどうかも分かんないけど。


「……でも、そのさ……。これから女神様と戦うのに、それって大丈夫なの……?」


 そう、ゼカさんが口ごもりながら懸念を表明した。そうだね。その意見もわかる。ただ、ああしないと脱出できなかったのも確かだろうし。……いや、もう少し注意深く行動すべきだったっていうのが最適解なんだろうけど。すまんかった。切腹も(他人の力で)したわけだし許してほしい。




「えーっと、とりあえずどれくらい能力が低下したか、とかわかります?」


「……どうしても聞きたいですか……?」


 そう、深刻な顔でトアが呟き、目を逸らした。……うわぁ。なんかとっても駄目そう。聞かなくてもなんとなくわかったけど、これはいちおう確認しておかないと。


「現状を把握したいので! 包み隠さず教えてください!」


 そんな僕の質問に、トアは珍しく歯切れが悪くなってたけど、答えてくれる。


「…………まず、魔法防御、物理防御、力。あれは全部、魔力に由来していたので……その……今はどれもほぼないというか……」


 全部ないらしい。ダイジョーブ博士の手術失敗してもここまでステータス落ちないぞ……。逆に何が残ってるの? って聞いた方が早かったみたい。


「残ったのは体と、翻訳魔法1つ分の魔力だけです。……そして魔力の少なさが影響して、体は一般の女子よりさらに弱いというか……その……」


「ぶっちゃけどれくらいの強さなんですか? たとえば魔物で言うと……?」


「ホーンラビットにギリギリ負けますね」


 その強さ、なんか聞いたことある……。僕は、部屋に差し込む日光に手をかざしてみた。だいたいわかった。とっても想像しやすい、懐かしい弱さだった。たぶん3回くらい転んだら死ぬんだろう。





「まあいいや」


 僕のその反応を見て、2人はひそひそと深刻な顔で何か内緒話をし始めた。聞こえないけどわかるぞ。僕の正気を疑ってるやろ。失礼な。せめて見えないところでやりなさい。


「落ち込まないんですか……? 世界中見渡してもここまで脆弱な生物ってなかなかいませんよ。今までとの落差が……」


 なんか辛辣過ぎない……? さすがにもっと弱い生き物いるやろ……。世の中にはその強さで戦えと1人敵地の街に放り出される人もいるんやぞ。でもまあ、無くなったものは仕方がない。それに、力がありすぎても正直持て余してたっていうか……。それだけ弱いなら、女神と教皇相手には、何か抜け道を探して戦うことになるだろう。でもきっと僕には、こっちの方がお似合いだ。


「いいんです。生きてただけで。……それに私、こういう弱さ、慣れてますから」


 ニッコリ笑うと、それが嘘でないことがわかったのか、トアもほっとしたように微笑んだ。でも「慣れてるって何?」って同時に思ってるのが伝わってくる。……あ、そうか。なんかそのへんの経緯的なのも戻ったら話すって言ってたような。トアの寝不足が解消されたら話そう。まずは副隊長は寝てほしい。もう僕起きたし。





 そして僕はトアを拝み倒して、なんとか睡眠を取りに行ってもらうことに成功した。大変だった。だって部屋出る時も、2歩くらい進むたびにこっちをちらちら振り返ってきたもん……。なんか犬と泣く泣くお別れする飼い主みたいになってた。2歩では容体は変わらんやろ。……たぶんだけど、やっぱり自分で切った患者って気になっちゃうんだと思う。……さて。


 僕はトアを見送った後、さっそくこれからのことについて考え始めた。……さてさて、じゃあ対女神の対策を考えなければいけない。この世界がゲームならバグ技的なものを考案したら何とかなったんだろうけど、今回はそうじゃないからなぁ……。攻撃が当たったら死ぬ。ふむふむ。ということは、当たらなければどうということはない……?




 僕がベッドで考えこんでいると、横にいるゼカさんがリンゴを剥いてくれながら、何かを思い出したように口を開いた。


「そういえば、サロナの同居人が1度お見舞いに来たんだけど、なんかおかしくなってたよ」


「ロランドが? いつものことじゃないですか」


「いや、そういうのじゃなくて。弱くなった、って聞いて、じゃあ俺が何とかせねばならんな、って言って帰っていった。真剣な顔だったよ」


 ……なんとか? だってあいつ何とかしたことないじゃない。住民票の件、うやむやになったようだけど僕は忘れてないぞ。報酬だけ持ち逃げしよって。……まあ、でも起きたよ、って報告くらいした方がいいのかもしれん。


「じゃあ治ったら魔法学校に…………ん?」


「どうしたの?」


「私って今、一般の同年代の女子より弱いんですよね?」


「うん……。納得しててえらいと思ったよ」


「まずいです。えらいことになりました」


「あれ? 納得してない……? 分かってなかっただけ?」


 …………なんか、僕って色んな人に結婚申し込まれた時、「素手で勝てたらいいよ」とか言ってなかったっけ? 今逆にどんな人にも負けるでしょ。そしたら結婚しないといけないの? 異世界の姑に常識知らず、とか言われて毎日いびられるの? 絶対嫌だ。誰だよそんな結婚条件出したやつ。


「ゼカさん、どうしましょう……」


「ああもう、そんな顔しないでよ……。さっきまでなんでもなさそうだったのに……」


 オロオロとする僕と、それを見てオロオロとするゼカさん。ただ1つわかったのは、魔法学校は今や魔王城とか海底神殿より危険地帯になったということだった。絶対行かない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不本意な結婚をしないためにどうすれば…… ↓それだ!
[一言] トアに素手で負けてそれを口実に百合結婚
[一言] ウルタルはこれで最終的に異世界に行くことになるのかな。ただどうやって異世界に行くのだろうか。主人公たちと一緒にトアの船に乗るだったりして。 主人公はトアに自分のことを話すようだが、主人公の…
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