表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/120

戦いは量か、あるいは質か

「それで、その大きな剣ってどうなの?」


 てくてくとみんなで森の中を歩いて行く途中、ゼカさんが僕の手に持った大剣をしげしげと覗き込んできた。どう、ってちょっとふわっとした聞き方だよね。どう、って?


「いや、まずどうして鞘に入れてないのかとか。鞘に入れて背負ったらいいじゃない。なんでそのまま抜き身で持ってるのよ。通り魔みたいだよ」


「だって大きすぎてこれ背負ってたら鞘から抜けないんですもん……」


 今の僕の身長くらいあるからねこれ。そして通り魔って、武器そのまま持ってる人ってわけじゃなくない? まあいいけど。






 そして僕らは森の中を1時間ほど歩いたのち、岸壁にある洞窟にやってきた。


「ここの洞窟は実は地下に伸びてまして。普段は水が溜まってるんですが、今の時期は引くんですよ。ここから海底神殿に行くことができます」


「……ひょっとして、ここから海まで歩くの……? 一番近い海辺でも馬車で2日かかるんだけど」


「ふふふ、素人はそういう質問をしてしまいがちです。ところが、ここの洞窟を歩くといつの間にか海の底のトンネルに続いてるんですよ」


 なお、原理は不明な模様。なんでだろうね。そういえば近くの村に、ここの洞窟は神聖なもので、神隠しが起こるという伝説があった気がする。神隠しに遭った人ははるか遠くの異国の地に迷い込む、だったかな。その辺の前提ぶっちぎって速攻で来ちゃうとゼカさんみたいな疑問も出るのは当然と言えよう。

 

「海の底の神殿って、水はどうなってるのかしら?」


「なんか普通に神殿ありますけど……えーっと……確か周りに障壁があったはずです。水中じゃないですよ。でも大変良い質問です。シャテさんは目の付け所がいいですね」


「なんでそっちには素人だって言わないのよぉ……」





 そして洞窟の中に入り、しばらくぞろぞろと並んで歩いていると、不意にトアが目線を上げた。


「……確かに、今空気が変わりました。転移したようです。どうやら洞窟内で一定の距離を移動するのが発動条件となっているようですね。普段は水に満たされているということでしたから、その条件がなかなか満たされないのかと」


 ……あ、そうなんだ。全然わからなかった。僕はもっともらしくトアに向かって頷く。なかなか目の付け所がいいぞ。後ろからのゼカさんの何か言いたげな視線を一所懸命スルーしつつ、僕は道を急いだ。ええい、早く神殿につかないかなぁ。それか、誰かこの空気を変えてくれないものか。





 するとその願いが天に届いたのかはわからないけど、歩きながらふとシャテさんが僕の顔をまじまじと見た。……おや? 何か気になることでもある?


「なんですか?」


「そういえば、結婚話がいくつか舞い込んでるらしいじゃない」


「誰が結婚するの?」


「誰もしませんよ。というかしてたまるか」


「あ、サロナの話なんだ。……結婚!? いつ!? 誰とよ!? ……あ、ひょっとして、まさか……嘘でしょ……」


「誰を想像したのか知りませんが……しま! せん!」


「で、どうやって断ったのよ?」


 そうシャテさんが面白がってるような口調で僕に尋ねてくるので、僕はこの話題を終わらせるべく、端的にそれに答える。もう空気変われとか言わないから、一刻も早く神殿に着いてほしい。


「単純です。私に素手で勝てたらいいですよ、って」


「じゃあ大丈夫そうだね! サロナに素手で勝てる人ってもうそれ人間じゃないよ。そもそも傷ついてるところも見たことないし」


 おいこらやめろ。そういう言い方すると僕が無神経みたいに聞こえちゃうだろ。







 そしてさらに小一時間ほど暗い洞窟の中を歩いて行くと、前方に光が見えてきた。


「あ、出口が見えてきましたよ」


「海底なのに、どうして明るいんだろ?」


 出口を出ると、その答えが目の前に広がる。海の底の更地に建てられた、城のようにも見える巨大な神殿。その周りにはかがり火がいくつも焚かれていた。永遠に消えることのない、オレンジ色の魔力の光。その揺らめく灯りに照らされて、神殿はこうこうと明るい中にその威容を佇ませていた。明るい光に照らされているが故に、陰影も強調されている。影になっている部分は真っ暗で、何かがそこからこちらを窺っているようにも思わせた。


 そして周囲を取り巻く障壁の向こう側は、これまた真っ暗な海の底。かがり火の灯りに惹かれたのか、時折大きな魚影が障壁のすぐ近くまでやってきては引き返すのが見える。その光景を見て、隣で誰かが息を呑むのが聞こえた。そのとき、ふとかすかに何かの気配を感じて僕は振り向く。僕らの後ろには、影がいくつも長く伸びていた。ただ、そこには誰もいなかった。当然ながら。





「さて、では行きますか」


「ちょっとー、急ぎ過ぎじゃない?」


 ……うん、急いでる。なんでかというと。……気になっていることがある。ここで血まみれになるとかいうあの予言。あれってどういうことなんだろう。確かにほとんど傷なんて負ったこともないのに……。傷って言えるほどのものってこの前の教皇に斬られた傷くらいだもんね。


 ……ひょっとしてここって教皇の家だったりする? 神殿だし。ならさっそくリベンジの機会がやってきてしまったというもの。ふふふ、倒すついでに神殿自体もこの愛剣でバラバラにしてくれる。僕の腕を斬った罪の代償として、家がないのにローンを払い続ける苦しみを味わうがいい。





「ちなみにここの魔物のボスって?」


「ヒュドラです。なんか首がいっぱいある蛇で、ヤマタノオロチみたいな……」


 ちなみに火じゃなくて、水と毒のブレスを吐いてくる。吐かれる水が真水なのか海水なのかはわからない。再生能力あるけど、まあ、勝てる相手だと思う。ただ慎重にいくべきだろう。


「神殿って一番奥が礼拝のための広場になってるんです。そこにボスはいるんですけど、扉を開ける前にちょっと待ってもらっていいですか」


「いいけど、何するの?」


「扉を開ける前に巨人を大量に召喚して、戦力を整えてから一気に突撃して殲滅するというのでどうでしょうか」


 戦いは数だ。巨神兵がいかに強力でも王蟲の群れには敗れたのである。でも王蟲の群れってその後でたった1人に鎮圧されてなかった? とか言ってはいけない。戦いは数だよ兄貴! とどこかの偉い人も主張している。作戦を聞いてなんか引きつっているゼカさんに、僕はニッコリと微笑んだ。


「何か質問は?」


「いや、ないけどさ。ここのボスってそんなに強いんだ、って思って」


「強さ的に言うと、ゼカさんも頑張ったら1人で勝てるくらいだと思いますよ」


「……あ、そうなの? ならなんでそんなに……」


 そうか、そういえばゼカさんって予言知らないもんね。何も知らないと確かにちょっとやり過ぎ感はあるかもしれない。説明したらいいんだろうけど、なんか嫌な予言って口にしたら実現しちゃいそうだから気が進まないんだよね。困っている僕を見かねたのか、唯一予言を知っているトアが横から口を挟んでくれた。


「まあ、念には念を、ということでしょうかね」


「そうそう! そうなんですよ!」


「なんかあたし仲間外れにされてる気がするんだけどなぁ……気のせい?」


 不審な顔をするゼカさんを何とかなだめ、僕らは神殿の奥に向かって歩き出した。……確かに、ちょっと悪いことしちゃった気もする。結果的に仲間外れっぽくしてしまった。後で何か埋め合わせをしてあげなければ。僕は心の中でゼカさんにこっそり手を合わせた。





 そして何度か魔物と遭遇するも、ゼカさんのナイフ、シャテさんの槍の氷魔法、トアの剣と僕の大剣により苦戦することもなく。僕らはあっさりと神殿の奥に辿り着いた。僕はそっと大きな扉に耳を当て、中の様子を確かめる。ひんやりと扉は冷たかった。……しかし、ふむ、何も聞こえないか。


「ここの奥が礼拝の広場です。……では。30体くらい召喚できます?」


『可能だけれど、入り口で詰まってしまわないかしら……?』





 結局、 水彩画家(アクアレリスト) 先生のアドバイスに従って15体を召喚し、僕は大扉を勢いよく開け放った。身を屈めながら中に突撃していく巨人たち。よし、行け!


 中にいたヒュドラは、大量に自分に駆け寄ってくる巨人の集団を見て一瞬硬直し、少し後ずさりをした。なんだか困惑しているように見える。サイズ的にはヒュドラと巨人はほぼ同サイズなので、そんなのが15体も駆け寄ってきたら確かに困惑するかも。……それでも気を取り直したのか、複数ある首のいくつかが口を開き、ブレスを巨人の群れに吐きかけた。


「あ、大勢でかたまってるからまともに喰らっちゃってるよ」


「大丈夫です。彼らには毒耐性がありますから。魔王軍って周りに毒のお堀があるじゃないですか。彼らはあそこに浸かるのが大好きなんですよ」


「魔王城にあんなやばそうなのいたっけ!? 見たことないんだけど!」







 ……結局、15体の巨人により、海底神殿のボスであるヒュドラはあっさりと鎮圧された。「見ててかわいそうだった」というゼカさんの素直な感想が、その戦いの内容をよく表していたと思う。


 …………なんか何事もなく終わっちゃったんだけど。これってもう予言外れてるんじゃないの? 僕がトアの方をちらりと見ると、彼女も少し首を傾げる。ただ、その表情はまだどこか硬かった。






 まあ何もないならそれに越したことはない。さて、とりあえず神器を確保しておかねば。奥の壁の隠し扉の向こう、虹の祭壇に、 占板(ウィジャボード)はあるはず。みんなが広場を探索しにぱっと散るのを横目に、僕は礼拝の広場、ヒュドラの残骸が横たわっている隣を抜け、奥にある壁の窪みをごそごそと探った。……えーっと……このへんに……ボタンが……。



 カチッという手ごたえを感じ、僕は壁に開いた入り口をくぐって中の部屋にささっと入る。そしてすぐに扉を閉じた。ゼカさんに見つかったら言い訳しないといけなくなっちゃうし。そろそろ神器のことも話しちゃってもいい気はするけど。魔王軍もなくなりそうだしね。




 ……さて、ここが予言の場所、虹の祭壇なわけだけど……。さすがに神器があるので来ないわけにもいかなかった。そこは、奥に祭壇があるだけの殺風景な空間で、岩でできた壁は一面に青い。祭壇の上には、何やら燭台や謎の像がいくつも並んでいた。その手前に、小さな台のようなものがあり、そこに丸い物が置かれている。僕はその祀られていた円盤のようなものを手に取り、まじまじと眺める。なんか目盛りみたいなのが縁に刻まれてる。これが……。




「それが 占板(ウィジャボード) ですか」


「ひゃっ!?」


 突然後ろから声がして、僕は飛び上がった。振り返ると、いつの間にいたのか、トアがちょっと申し訳なさそうにこちらを見ていた。


「すみません……そんなに驚くと思っていなくて」


「いや、だってここって、予言の場所だし……。それにしても、ついてきたんですか?」


「ええ。心配ですから」


 そう、さらりと言ってトアは笑った。彼女は奥にある祭壇の方が気になるみたいで、顔を引き締め、油断なさげにそちらを窺う。やがてその視線が、どこか一点を見つめた。


「これ……ひょっとして……」





「ねー! ちょっとー!」


 そのとき、入り口の方からゼカさんの声が聞こえる。あ、見つかった。僕はひとまずトアを置いておいて、ゼカさんに呼ばれるままに入り口の前に向かった。しかしここを見つけるとは、ゼカさんの嗅覚って凄すぎない? まあ、入るとこ見てただけなのかもだけど。そしてどうやら扉越しにもわかるくらい、彼女は大変ご立腹のようだった。


「もう! またあたしだけ仲間外れにして! これどうやって入るの? 開けてよ!」





 まあ……もう神器は手に入ったし、いいか。僕はボタンをポチっと押す。出口がすっと開き、間髪入れず、何かが勢いよく飛び込んできた。同時にぐいっと手を引っ張られる。


「…… 自家飛(セルフフリット)!」


 トアのその言葉とともに、景色が切り替わる。その直前に見たのは、僕が今までいた場所に喰らいつく、一匹の大きな黒い獣のような何かだった。

中途半端なところで切れてしまった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] oh...これはヤバい
[一言] あぶな! トアナイス!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ