元上司で最後の敵で心中相手だった、って言ってもどんな関係か1度で理解しづらい
今日2話めです。
「……具合はどう……? 目を覚ましたようだけど。……その子……かしら?」
「すみません、ありがとうございます。この子も、どこも痛みはないようです」
あ、アルテアさん、アルテアさんじゃないか! かつてお世話になった元上司(あと心中相手)とこんなところで会えるとは! せめてこちらではきちんとした関係を築きたいものである。こういうのって第一印象が大切だからね。さてと、まずは挨拶から……。
「アルテア様! お久しぶりです!」
そんなことを考えていると、いつの間にか勝手に僕の体がアルテアさんにぎゅーっと抱き着いていた。……だから初対面なんだってば。今言ったやん。
しかしまずいぞ。いかにアルテアさんの心が太平洋くらい広いといっても、見知らぬ人間から抱き着かれてニコニコ笑ってくれるわけじゃないはず。いや、もしその対応を取れても「心が広い」という評価にはならないか。視覚か触覚か心のどこかに不具合がある方になってしまう。でも今は僕って女子だからまだましだけど、男のままだと通報事案やぞ。僕は抱き着いたまま、そろそろとアルテアさんの顔を見上げた。……ちょっと表情を見るのが怖いんだけど……。
「……よく、帰ってきたわね」
ところがそう言って、アルテアさんはぎゅっと力強く僕を抱きしめてくれた。……!? え、なに、どういうこと!? いつの間にかここは地球だった……? いや、ゲームの中? さっぱりわからん……。状況に頭が追いつかない。
「ち、ちょっと! どういうことなんですか!? その人とは知り合いか何かですか……?」
硬直していたトアが僕とアルテアさんの間に無理やり入ってきて、いったん僕らは分けられた。
……えーっと、現状を整理すると。ゲームの中では知り合いというかめっちゃお世話になった人だけど、こっちでは初対面で。でも向こうはおかえりなさい、って言ってくれてる以上、知り合い以上……? やばい全然わからない。
「いえ、自分でも正直わからないというか……私が世界で一番大好きな人です! それだけです!」
その僕の言葉を聞いて、トアはもう1度ピシッと硬直する。……いかん、台詞後半取られた。わからないけど大好きって何やねん。そしてしばらくして再起動を果たしたものの、トアは僕の顔をまじまじと眺めた後に、くっ、と悔しそうに呟いた。
「こんな嬉しそうな笑顔、初めて見ました……」
……悪かったな、普段あんまり嬉しそうじゃなくって。くそう。なんか悔しい。これは後で笑顔の練習をしなければ。……しかし、まずは現状を把握するのが先か。
「あの、すみません。よく帰ってきたとはいったい……そんなことよりおやつ食べませんか!?」
「はいはい、また後でね。今ちょっと忙しいから。……あんたの部屋もまだおいてあるから、そっちで待っておいて。……ほら、ついてきなさい。……お友達もご一緒に。もちろん屋敷内で過ごしていただいて構いませんから」
「はい!」
「……はい……」
何が何だかわからないまま、アルテアさんに連れて行かれている途中で、トアがひそひそと僕に尋ねてくる。
「かつてここに住んでいたことがあるんですか? ……ここが故郷、とか?」
「うーん……そういう訳でも……。あ! アルテア様、手、繋いでいいですか!?」
「もう繋いでるじゃない……まあ、いいわ。今日だけよ」
「はい!」
「……ふーん……」
「さ、じゃあ行かないと。仕事を終えたらすぐに戻ってくるから、それまで大人しくしてなさい」
「そんな……! いつになったら戻ってきてくれるんですか……? 早く帰ってきてくれないと寂しくて死んじゃいますよ……」
「……へー……」
やがて僕とトアは大きな屋敷の一室に案内され、アルテアさんは去っていった。どうやらここが、「おいてある部屋」という訳らしい。僕は部屋の中をとりあえず見渡してみた。……なんかやたらもこもこの服やらぬいぐるみやらが綺麗に並べて置いてある。
……ふむ、だんだんわかってきた。たぶん僕の予想だと、ここってこの世界のサロナ、僕の同居人の部屋なんじゃないかな? ……あ、そうだ。さっきトアとアルテアさんって、なんか挨拶してなかったっけ。きっとここがどこかとか、アルテアさんについてもきっと知ってるに違いない。
「ねえ、トア……トア!? どうしたんですか!?」
なぜかちょっと目を離した隙に、僕らの副隊長は部屋のベッドにぐったりとうつ伏せに倒れ込んでいた。……ひ、貧血!? 貧血ってうつるの!? 僕はベッドに駆け寄り、こわごわと声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか? アルテアさんに頼んで治療とか診察とかしてもらった方が……」
「……いえ全く問題ありません。ちょっと吐き気と頭痛と動悸が止まらないだけですから。私のことは気にしないでいいですよ、むしろ気にしないでください」
うつ伏せになったまま、そんな返事がトアからは返ってきた。……全く問題ないようには全然聞こえないし、見えないんだけど……。でも確かに、空間を切り裂くって疲れるのかも。僕はやったことないからわからないけど。えーっと……これって相談とかできる体調? 休んでからの方がいい? 大丈夫とは言ってるけど……。いちおう、返事を期待せず喋ってみるか。僕もぽすんとベッドに腰かけ、独り言のように話し出す。
「実はですね、あの人って私の世界ですっごくお世話になった人なんですよね。それで、この世界では初めて会ったのに、ああいう対応だったので、正直困惑しています」
「……その相手にいきなり抱き着く方が、困惑しますよ……」
一理ある。まあそうなんだよ。そうなんだけど……。
「えっとですね、それは私の中のもう1人の人格がというか」
「……ゼカユスタさんと同じですね」
いや、あの子はただの中二病やろ。しかも吹っ切れてないやつ。ああいうのって中途半端があとで一番恥ずかしいんだぞ。夜中に急に思い出して叫びたくなったりしちゃうから。……おっと、話が逸れてしまった。自己嫌悪ってやつだね、たぶん。
「いえ、ほんとにいます。探ってもらえればわかるかと」
「……いいんです、そんなわけ…………ん? …………んん? ……あれ……? ……嘘、本当にいる……」
「でしょう。……それで、そのもう1人がアルテアさんを崇拝しているというか、無限大に愛してるというか。目の前にいるとテンションが上がって、勝手に体や口が動いちゃうんです」
「……なるほど。よくわかりました」
そう言って、トアはベッドから急にがばっと体を起こした。……おお。なんか知らんけど突然復活したぞ。ちょっと前髪にくるんと癖ついちゃってるけど。まあ、副隊長が元気なのに越したことはない。さて、ではあらためて作戦会議といこう。
「まず、教皇が予想以上に強かったですね。彼を何とかしないと女神には辿り着くのは難しいでしょう」
「普通に無視して女神だけボコボコにすればいいのでは? だってあの人も女神が怖いんですよね」
「後で『なぜ助けに来なかった』と責められることが怖い、それだけで彼がわたし達を邪魔する十分な理由になります」
……なるほど。確かに。ということは、あいつをまず排除しないとなのか。あのメガ粒子砲と聖剣だけでもまずはなんとかしたいところ。ビグザムみたくゼカさんに特攻してもらうわけにもいかないので、これはちょっと保留かな。でもなんであいつ聖剣使えてたんだろう。
「彼には悪意はありませんからね。あるのは死への恐怖と、人を救うということへの熱意だけです」
……なんて迷惑なやつなんだ。自覚がないやばい人って余計困るよね。そして困らされるのは決まって僕らみたいな常識のある人。参ったものだ。
僕の顔をちらりと見て、トアはなぜか一瞬黙った後に話を続けた。……え、なんか言いたいことある感じ? まあいいか。
「それで、ここがどこかという話なんですが。あの後、そもそもあの金属製の台のあった森、覚えてます? あの森の隣の草原に出まして。ここは、そこから一番近い街です」
あ、そうなんだ。やっぱりここって始まりの街だったらしい。確かにこの屋敷まで来る途中の道には見覚えがあった。ゲームにはこのお屋敷ってなかった気がするけど。じゃあ、この世界のアルテアさんは、いったいどういう人なんだろう。
「あの人は、この街の領主のようで。……なんでもあの人の命令で、行き倒れがあると全て街で保護されるようです。そして、わたしがあなたの名前、……サロナ、を街の人に伝えると、あの人が呼ばれてやってきました。そしてその到着の直前にあなたが目を覚ましたと、こういう訳です」
なるほど。だいたいわかった。ということは、この世界のサロナは今いないっぽいね。たぶんだけど、どっかで迷子になってるらしい。……ん? でも、なら僕がサロナとして迎え入れられるのはおかしいか。だって、いなくなった方の立場がない。……まあ、そのへんも確認していこう。あとはせっかくだから 天空深處も手に入れて、これで完璧だね。
「そういえば。あの人とは、向こうの世界でも知り合いだったんですよね。……どんな関係だったんですか……?」
「えーっと……元上司ですね。あとは最後に戦った相手で、私の心中相手でもあります」
「……ちょっと待ってください。心中相手って何ですか!?」
まあまあ、細かいことはいいじゃないか。僕はベッドからよいしょと勢いをつけて立ち上がり、相棒に対して笑顔を向けた。さっき言われたことが気になるので、いつもより2割増しの笑顔と声のボリュームで。きっとこれならトアも気持ちよく乗ってきてくれるのではなかろうか。
「さあ、ではちょっと調べ物が増えましたが、頑張りましょうか! ほらほら、一緒に頑張りましょー!」
「……わたしもやるんですか? めんどくさいんですけど……」
「えーそんなこと言わず……一緒に!! やりましょうよ!! ……あっ……」
「もう、馬鹿! 貧血なのに突然立ち上がってそんな大声出すから……!」
そうして僕は結局その部屋のベッドで休ませてもらうことになった。隣には看病してくれるトア。……なんかこれって、場所が変わっただけで今日目を覚ました時から全然進んでないような気がする……。
……そして僕はやがて知る。どうしてここが、始まりの街だったのかを。
明日は夜遅いので更新できませんm(__)m




