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約束

「おや? もう作戦会議は終了したのですか? 再開して構わないのでしょうか?」


 ずっと後ろの方で教皇がそう言っているのが聞こえたけど、無視して置いていく。どうせついてきそうだし。……あ、そうだ。僕は背後にポポポン! とオーガを次々に召喚し、広い廊下を埋め尽くした。興味があったみたいだし、存分に観察して、どうぞ。


 早速追ってきたらしき教皇が振るっている聖剣の音がフォンフォンと後ろから聞こえる中、僕たちは石造りの廊下を抜け、そのまま階段を駆け下りる。


「全然どっち行ったら門とかわからないんだけど!」


「次の角を右で、そのまましばらくまっすぐです!」





「…… 空烈弾(エアブラスト)!」


 走りながら後ろを向き、アレットさんが魔法で教皇を狙い撃つも、あまり効果はないみたいだった。さっきトアの魔法が直撃しても服が焦げるだけだったもんね。……あ。いいこと思いついた。


「アレットさん。私の手を握って、魔法を撃ってください」


「え!? ……まあいいけど。ほら、じゃあ手出して」


 そして片手をアレットさんとつないだことで、トアがちょっとずり落ちる。おっとっと。そのままもう片方の手でしっかりトアを支えつつ、全速力で走った。やがて廊下を抜け、大きく広がったホールに出る。吹き抜けにぶら下がるいくつもの豪華なシャンデリアの下を、僕らは駆け抜けた。


空烈弾(エアブラスト)! ……えっ?」


 走りながらもう一度放たれたアレットさんの魔法は、大きさがさっきの10倍くらいあった。そして操作をちょっとミスったらしく、天井にそれは直撃し、ゴゴゴとなんと天井自体が崩れ落ちた。それにより、僕らが出てきた廊下の入り口も完全に瓦礫で埋まる。僕らはそれを見て、足を止めた。


「ナイスです! あとはこのまま門まで――」




「―― 黄金の光(クリューサオール)





 教皇のその声が聞こえたかと思うと、キュイイイイ、という音とともに、瓦礫の隙間から金色の光が漏れ、溢れた。……ん? 次の瞬間、ボッ! と瓦礫を貫いた極大の黄金の光が僕らの頭上をかすめ、ついでにその向こうにある天井を全て蒸発させ、空に消える。


 ……何あれ。メガ粒子砲? あいつひょっとしてビグザムの生まれ変わりか何か? ……しかしまずいぞ、あんなん直撃したら絶対死んでしまう。つのドリルと同じで、ただ攻撃が外れるのを祈るのみ。これは急がないと。





 その後も何度かビームに晒されながらも、僕らはなんとか無事に門に着いた。ぜーぜーはーはーと両肩で息をしているアレットさんを横目に、僕はそっとトアを下ろす。そして、トアはその場でじっと集中し始めた。……さて。



 あと少し、教皇を足止めしないといけない。トアは魔力を溜める、アレットさんは体力切れっぽい。なら……僕が行くしかないな。しゃーない。




 僕はもう一度城に入るべく、階段を上がっていく。すると、その階段の途中でなぜかトアに思考で呼び止められた。


 ……なんだろ? そう首を傾げていると、トアがさらに思考を飛ばしてきた。『1人では危険なので戻ってこい』らしい。どうやら魔力を溜めていると、歩くのも集中の妨げになるんだって。そうじゃなきゃお前の襟首を掴んで引き戻すところだ、というけっこう切羽詰まった感じの意思だった。




 いや、でも近くまで来てたら誰かが止めないといけないし。ちょっとだけ、様子見だけならいいでしょ。聞こえなかったことにしよう。その後もなんかやたら思考が飛んできてるのをスルーしつつ、僕は城の入り口から顔を出してそーっと中を覗いた。……あいつ、どの辺にいるんだろう。


 すると、なんと僕の真ん前に教皇の顔があった。その金色の目と正面から目が合う。


「おやおや、何かお探しですか?」


「ひえっ……!」


 もうそこにいるやん。早いよ。くそう途中で迷ったらよかったのに。……でもよく考えたらここってこの人のホームだったよね。さすがに家では迷わないか。……しかしどうする。このままだと門ごとメガ粒子砲で薙ぎ払われてしまう。なんとか気を逸らさねば。とりあえず、僕は階段の下にある門を背に、教皇と向き合った。







 そして僕は教皇と1人、対峙する。彼は聖剣をすらりと鞘から抜いた。さっき斬られた時の記憶が蘇る。……まな板の上の鯉って、こんな気分なのかな。思わずその刃先をチラチラと見てしまう。ああしまった、僕も刃物を何か持っておくべきだった。


「さあ、始めますか。作戦タイムとやらも終わったようですから」


「くっ……」


 まずい。勝てる気がしないし。えーっとそうか、作戦タイムが終わったら開戦なら、そうでなければいいんだ。


「……お、終わってませんから」


「おや? そうなのですか? 一斉に走り出したので、てっきりそうなのかと……ではなぜ、終わっていないのに、逃げたのでしょう」


「……私の国の伝統として、作戦タイムはいつも門の前でやるというふうに決まっているんです。うん、そう、そうなんですよ。ここまで来たのは単なる準備だったんです。だからまだ終わっていません。……あ、駄目です、作戦を盗み聞きするのは。離れてください。準備についてこられて正直困惑していますよ私たちは。大いに反省してください」


「なんと、そうだったのですか……。確かにそういった伝統は大切です。異界の文化は奥が深いですね……大変素晴らしい……」


 そう言って教皇は何度も感動したように頷いた。……え、信じたの? 頭はあまり良くないのかな? いやひょっとして、僕の言い訳が完璧すぎたのかもしれない。しかし反省したならここから離れてほしい。一刻も早く。なんかすぐにでも輪切りにされそうで、正直生きた心地がしない。


 僕がそう思いながらもなんとか表情を変えずに、教皇の顔をじーっと見つめると、彼は微笑んで両手を広げ、肩をすくめた。


「……いえ、それではもう少しかかりそうでしょうか。では、ごゆっくり」


 そして笑顔のまま一礼すると、教皇は剣を下ろし、どこかにゆっくりと歩いて行った。僕はドキドキしながら、その背中を見えなくなるまで見送る。……あ、でもほんとにいいんだ。とりあえず、作戦タイムが終わるまでは様子見してくれるらしい。たぶん、普通ならここから抜け出せないとわかってるからだと思うけど。







 僕がほっと胸をなでおろして階段を下りていくと、トアがなんだか血相を変えて僕を呼んだ。……なんだろ? なんか、怒ってる? 僕は慌てながら、ててて、とそちらへ駆け寄った。どうしたんだ副隊長。


「魔力が充填できました。もう発動できます。……さっき、教皇と話していませんでしたか。……どこか、怪我は!?」


「ああ、大丈夫です。……なぜか」


「もう……! いえ、時間がありません。……では行きますよ!」


 彼女が剣を振りかぶり、空中を斬りつけると。そこに空間の裂け目のようなものが、ぱくりと開いた。裂け目の向こう側はもやもやしてよく見えない。……おおー。


 ……えーっと、ここに入ったらいいの? そう目線で尋ねると、トアはこくりと頷く。……よし。そして僕らは3人とも手を繋いで、その中に飛び込んだ。


 その中はなんだかもやもやとした霧が漂っているような感じで、目の前もあんまり見えない。ただそれでも、握ったお互いの手の感触だけが、自分以外の存在を僕に教えてくれた。そしてやがて目の前が突然ぱあっと光で満たされる。そしてその眩しさはいつまでたっても収まらず、やがて何も見えなくなった。














 ……あれ?


 ふと目を開けると、僕はいつの間にかベッドに横になっていた。トアが隣で椅子に座って、こちらを覗き込んでる。……ひょっとして、僕寝ちゃってた? なんでだろ? ……契約する前のトアじゃあるまいし。




 そのトアは僕と目を合わせると、ほっと大きな安堵の溜息をついた。


「……起きましたか……! 良かったです……。何回呼んでも何も返事がなかったんですよ」


「あの……ここどこですか?」


「脱出した後、ぱたりと倒れたんです。……貧血だそうです。出血が多かったのに、動いたからということで。……すみません……そんな状態で背負わせて……」


 あ、そうなんだ。貧血だって。……なんでも、空間の裂け目からはすぐに出られて、他の2人には別に眩しくもなんともなかったらしい。あの時点で貧血だったんだ。けっこう血が出てたもんね。……まあ、良しとすべきか。無事に帰ってこれたし。めでたしめでたし。




 ところが、椅子に座るトアは、なんだかしょんぼりしているようだった。正直、背負ったのって何にも関係ないと思うんだよね。軽かったし。


「あの、気にしなくていいですよ。これまでそれ以上に助けてもらってますし。……それより、その服、片方だけ袖破れちゃいましたね。そのままだとバランスが悪いので、また今度一緒に買いに行きましょう。袖が揃ったやつを」


「……もう……。……あの、腕、痛みませんか」


「大丈夫です。もう元気です」


 そうですか、とだけ呟いて、トアは目を閉じた。……しばらく、そのままお互い、何も喋らない時間が経過する。窓から部屋に差し込む日の光だけが、僕らを明るく照らしていた。窓の外から、チュンチュンとなんだかスズメっぽい鳥の声がする。……あ。そういや結局ここってどこなんだろう。





「1ついいですか。自分でもよくわかっていると思うんですが」


 ここどこ? という質問を再度しようとしたその時、トアに先手を制される。よいしょ、と僕はベッドの上で体を起こし、話を聞く体勢になった。……なんでしょう? 教皇を見事に追い払った僕の口の上手さを学びたいとかそういうやつかな? よかろう。報酬はパフェ2杯でいいぞ。


「……これからは、ああいうことはやめてください」


「ああいうこと?」


 あら違った。やめてほしいこと……? なんだろう。まったく思い当たらん……。でもトアが真剣な顔をしてるので、僕も合わせて真面目な顔をする。全然わからないと言ったらなんか怒られそう……。ここは少しの心当たりでも拾った方がいいな。


 ……あ、ひょっとして、玉座をボッコボコにしたこと? まあ、自分のスペースが壊されてるのを見てるのはいい気分しないかもしれない。僕も自分の部屋の模型が巨人に踏み荒らされるのを見せられたら、ちょっと「えっ」ってなっちゃうだろう。なんで目の前でやんねん、みたいな。





「これからはトアの前では、魔王城と玉座は大事にすると誓います」


「…………は?」


 僕の誓いの言葉を聞いて、一瞬ぽかんとした後、トアが真顔で僕の肩をガッと掴んだ。そして怪我人だということを思い出したのか、すぐに手を放す。……どうやら不正解らしい。やばい、トアの顔、めっちゃ怖いんだけど。僕は何をしてしまったんだ。そして今元気なら何をされたんだ。


 とりあえず、布団の上にぺたんと平べったくなって謝罪の意を示してみる。……申し訳ない気持ちはあるよ。何に対してはわからないけど。


「反省してます……このとおり……」


「……わかっていませんね」


 なぜなんだ。すぐバレたぞ。肩を揺らした僕の方を見て、トアは大きく溜息をついた。そして、気を取り直したように、僕の方に鋭い視線を向ける。


「ですから。どうして門のところでわたしの制止を聞かなかったんですか」




 ……制止、って、危険だから戻ってこい、みたいなあれ? でもあれって……。


「誰かが身を張ってでも、時間稼ぎしないといけなかったんじゃないかなーって」


「わかっていませんね」


 なんか2回も言われた……。だって他の2人動けなかったやん。消去法で僕やん。3-2=1なのだよトア君。以上、証明終わり。


 ところが、トア助手としてはどうやらそれは間違った方程式のようだった。引き算なのに。数字も3つしか登場しないのに。彼女は、僕の方に身を乗り出して、珍しくムキになったように強い口調で主張する。


「あの時点での最終目標は、3人とも無事に脱出することだったんです。なら、3人で門の前で迎え撃つのが最善でした。……1人で向かえば、死んでも、おかしくなかったと思います」


 ……まあそうかもしれないけど。結果オーライでよくないかな? 全員生き残ってるわけだし。まあ正直、聖剣を鞘から抜かれたときは死んだと思ったけど。しばらく刃物は見たくない。




「……本当に、心配したんです。そんなに軽く、考えないでください。1人で勝手に、先に行かないでください。……もう2度とわたしを、置いて行かないで」


 そう言ってこちらをじっと見るトアの青色の瞳は、今まで見たことがないくらいに揺れていた。そして僕は彼女に、僕が思っていた以上に心配をかけてしまっていたことを、知った。


「……反省してます」


「よろしい」


 再びぺたんとなって謝罪の意を示す僕を見て、トアは頷いてくれた。よかった。大変申し訳なかった。そして彼女はさらに僕の方に身を乗り出した。もう目の前に彼女の顔がある。……あれ? まだ何かある?


「……では、約束してくれますか? もうこれからは、1人だけで無茶をしたりはしないと。さっきみたいなのは、もう駄目です」


「また新しい会則、ですね」


「いいえ」


 え、違うの? そう思ってトアの顔を見返すと、不意に彼女は微笑んでいるような、はにかんだような、そんな不思議な表情をする。ただそれは今まで見たことがないくらいに透明で、どこまでも優しかった。そして彼女はすっと僕の手を取り、ぎゅっと握りしめながら。もう1度、僕の目を覗き込む。


「これはあなたと、わたし、2人だけの約束です。……守ってくれますか」


「…………はい」


 僕は、日の差し込む暖かい部屋で。トアの透明な笑顔と握ったその手のひらの温かさに、この世界に来てから初めて。個人的な約束を、誓った。








 そして不意にバタバタと足音が聞こえ、僕らはばっと手を離した。


「……行き倒れていた怪我人が寝ているのは、こちらです」


「そう。ありがとう。……ここでいいわ。もう自分の仕事に戻ってもらったら」


「いえ、そんな! 是非ご同席を……はい。わかりました。わかってます。そんな目で睨まないでください。怒られる前に退散しますから」


「別にそんなことで怒らないわ。もっととんでもないのに慣れてるんだから」


「……そうでしたね。では、……私も、祈っていますよ」


「ありがと。じゃあまた後でね」


 そんな会話が聞こえた後、ドアがガチャリと開いて誰かが部屋の中に入ってくる。それは、金髪碧眼の美少女だった。しっかりしてそう。なぜか不幸な目によく遭いそう。部下にとんでもなく優しそう。……そして、僕がよく知っている人。ゲームの中では僕の直属の上司だった、最後に戦った、相手。




「……アルテア様……?」



とんでもない約束しよったで

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにアルテアさん登場!? [一言] 魔王様もといトアさんがすごくヒロインしてて好き
[一言] ここで再会!? とは違うか。
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