女神フルボッコ隊、いきなりの解散危機
人はどんな環境にも慣れるもので、開けろ開けろ、とドンドン窓を叩かれる日々にも慣れてしまった。要は開けなきゃいいんでしょ。ヘーキヘーキ。……しかしこうなるとこれって欠陥兵器なのではないだろうか。初見殺しだけど。ふふふ、女神は無駄な時間を過ごしたようだな。徒労乙。
「そういえば、空間を超えるブーツ、 天空深處を取りに行きたいんですけど……あれって確か『始まりの街』にあったと思うんです。シャテさん、あの街どこにあるか知りませんか。始まりの街とその隣の森だけ、私の覚えてる名前と場所じゃないみたいで……」
「いきなり言われても。だいたいそんな名前の街があるわけないでしょうに。……わかった、わかったわよ。そんな顔しないで、聞いてあげるから。……その街の特徴は?」
「……えーっと。石畳の街で」
「それから?」
「街の周りの草原にはウサギがたくさん出ます。このウサギがほんとに強いんですよ。ものすごい高さまでぴょんぴょん跳ねますし。あと街は岩山で周りを囲まれてて、大きな断崖が近くにあって。隣の森は昆虫と動物たちがいっぱいいます。カマキリやバッタ、トカゲとか。……あ、そうだ。森の真ん中は空き地になってて、草原があって」
「……いちおう最後まで聞くわ」
いかん、魔物の解説につい熱が入ってしまった。シャテさんの表情が既になんか駄目っぽい。ここは僕のアドバイザーの経験を生かして街のことを詳細に説明して、なんとかわかってもらおう。
「街は初心者向けの装備が安価で買えます。宿も安く、井戸の中では隠しアイテムがもらえるイベントがあったり、これは内緒なんですけど武器屋の裏から話しかけるとおじさんが麻痺の追加効果のあるナイフをくれたりしますよ。そして街の領主の館には、かつて空間を超える能力を持ったブーツがあったという伝説が……」
「ごめんなさい、とても力になれそうにない……って、待って。訂正するわ。1つだけ心当たりがあるかもしれないわよ」
え、マジで? なんか本当に聞こえてるのかなってくらい全然ピンと来ない感じだったのに、いきなりわかるとかそんなことあるの? そんな彼女は、思案顔で僕の方にちょいちょい、と手招きした。……お? しかも内緒な話?
シャテさんはなぜかひそひそと僕の耳元でその「心当たり」とやらを話し出す。
「そういえば、今ね、噂になってる森があるの。私は用事があって行けないんだけど……」
ふむふむ。噂になってる森がある。それからそれから。
「森の真ん中の空き地にね、草原があって。その中心にぽつんと金属の台座があったんですって。そこに、その日から一週間後の日付と時間が記されていたらしいの。その日時、そこにいた者のどんな願いも叶える、どんな悩みからも解放する、とも。女神の名前と一緒にね。……それでなんでもその森は、昆虫と動物の魔物しか出なかったって話よ」
「……怪しくないですか?」
「そうなんだけど……それを見つけたのはね、3賢者の1人、シーヴ様だったの。その方がどうやっても台座は破壊できなかったんですって」
いやでもそれ怪しいー! それで集められた人、利用するだけ利用された挙句に全員爆殺されたりしそう。「解放してやったぜ、恐怖からな」とか言われそう。……あれ? でもその噂知っててシャテさんは何で行かないんだろう。「乗るしかないこのビッグウェーブに」って、列に並んだりしないのかな。
「あの、シャテさんはどうして行かないんですか?」
「だって単純に怪しいじゃない」
……かしこい。いや、普通はそうなのかもしれないけど。僕なら「ひょっとして」と思って行くだけ行っちゃうな。でも、とりあえずその森かな。だいたいその台座ってあれでしょ。始まりの街の横の森にある、転送装置みたいなやつ。あれってこっちでもあの森に普通にあるんだ。
よし、何か知らないけど女神が動いたらしい。なら、こっちから逆に乗り込んでいくのみ。
「……その話ならアンナちゃんから聞きました。……まさか、真に受けたんですか? 女神に願いをかなえてもらおう、って? あれがどんな存在だか、もう忘れてしまったんですか」
……さすがに自分を殺した存在のことは忘れないと思うの。だからその、可哀想なものを見る目を止めるんだ副隊長。いいから聞いてくれたまえ。
「あっちが自分で現れてくれるなら、これってチャンスだと思うんです。だって、今のままなら我々女神フルボッコ隊はどこで破壊活動をしたらいいかわかりませんから。このままだとせっかくつけた会の名前が泣いてしまいますよ」
「……まあ、言いたいことはわかりますが……。あとその会の名前、初めて聞きました。ひょっとしてその我々って、わたしも入ってるんですか? ……わたしがその名前の会の……副隊長なんだ……。うわぁ……。わたし、抜けていいですか?」
「いえ、ずっといてください!」
よし、トアも了解してくれたことだし、ゼカさんと3人で囲んで袋叩きにしよう。腕が鳴るね。いや待て、せっかくだからたくさん召喚もして、大勢で囲んでボコボコにしたれ。とすると、他にもできるだけ戦力が欲しいな……。ルート先輩なら、誘ったら来てくれないだろうか。もはや僕にとって心を読む魔法については先輩が師匠みたいなもんだし。
ところが、僕が先輩を探して研究所や上級生の教室、クラスメイトに聞いても、先輩の所在は見つからなかった。なんでも、数日前からいなくなって、誰も行方を知らないらしい。ついでにウルタルもいなかった。まあこっちはどうでもいいけど。……でも先輩どうしたんだろう。たぶん大丈夫だとは思うんだけど。ちょっと心配だ。
……そんな中、僕が先輩について聞きまわっていると、最後に会ったらしきご友人からたまたま話を聞くことができた。
「……なんかね、笑顔だった。いや、いつも笑ってるんだけど、それ以上にっていうか。ちょうどあなたを連れてきた時くらいにはご機嫌だったかな。ずっとクスクス笑ってるし。だから『何かいいことあったの?』って聞いたのね。そしたら……」
「そしたら?」
「……お日様みたいにニコニコ笑いながらね。『ううん、これからあるんだよー。もうキャンバスに絵は描き終わったから』って……。あの子が言ってたのはそれだけ。……何だったんだろうね、あれ」




