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世の中生産性のない会が多い、そう思わないか

 僕の相談は主に3つ。魔法の使い方、なぜこのスペックで負けるのか、勝手に自分から生えてた魔力の線について。僕の話を聞き終わったトアは、ふむふむ、と何度か頷いた。


「まず、魔法の使い方についてなんですが……あなたにとって簡単なのは、何かを手元に呼ぶ魔法でしょうか」


「……えーっと、火とか水とか出したいです。あと、暗黒魔法で黒いビーム出したりとか」


「なぜそれが選択肢に……何もないものを魔法で作り出すのは中級以上です。既に存在するものを手元に呼ぶ方が、簡単ですから」


 あ、そうなんだ。アイテムに空間を飛び越えさせるわけだから、そっちの方が難易度高そうだけど。


「いえ、生物を呼ぶのは難しいんですが……物を呼ぶだけなら比較的簡単なんです。あなたもすぐできると思いますよ」


「おおー」


 すぐできる! ……なんと、遂に僕も魔法使いへの第一歩を踏み出してしまう時が来たらしい。ちょっとそわそわしてしまう。椅子に座ったままで、自分の足がぱたぱたと空中で揺れるのがわかった。思わず笑顔にもなっちゃうね。そしてトアは僕のその表情を見て呆れたように、ふう、と溜息をついた。


「……他の2つの議題については、戻ってからにしましょうか」


「え?」


「あなたの顔を見てると、話に集中できなさそうなのが丸わかりですから。……ほら、練習しに行きましょう。付き合います」






 そして僕らは、昼過ぎの白い光が降り注ぐ中庭にやってきた。トアの部屋でやったらよかったのでは、と思ったけど、どうやら散らかりすぎてて足元が安定しないだろうという判断らしい。……あ、いちおう散らかってる自覚はあったんだ。お世話になってるから、片付けくらい僕がするんだけど。


「ほら、始めますよ」


「あ、はーい。よろしくお願いします! 先生!」


「……ほう……ふふっ、悪くないですね」


 僕のそのやる気満々な宣言を聞いて、彼女は感銘を受けたように顎を撫でた。その前に背筋を伸ばして立ち、僕はトア先生の次の指示を待つ。




「まず、呼び寄せたい物をしっかりイメージしてください。なんでも構いません」


 ……何でもと言われると、逆に難しい……。「何食べたい?」って聞いて「何でもいいよ」って返って来たときと同種の緊張を感じる。なんか駄目出しされそうで。何でもいいって言うのに、いざ提示したらなぜ人は「そこはちょっと……」と言うのか。


「えーっと……」


 僕が迷っているのを見て、トアは苦笑しながらアドバイスをくれた。


「最も愛用している武器、とかでいいですよ」


「あ、ならこの 水彩画家(アクアレリスト) にします」


『当然ね』


 はい、と僕は絵筆をトアに手渡す。よし、ではあの絵筆を僕の手元に呼び寄せたらいいのか。……えーっと。イメージイメージ。絵筆をはっきりと頭の中に浮かべる。


「色も、形も浮かびましたか? 味も?」


「味!?」


 ……絵筆の味なんて知らんぞ。どうしたらいいんだ。……あ、そうか。今確認したらいいじゃない。





 僕はトアからいったん絵筆を取り戻し、口に持っていった。ちょっと恥ずかしいけど、魔法を使うためなら仕方がない。それに味を聞かれるということは、異世界ではスタンダードなことなんだよ、たぶん。


『ちょっと!! やめてやめてやめなさい! 何をしようとしてるの!? 思い直しなさい!!』


 あーん、と口を開けると、絵筆の金切声が僕の耳元で思いっきり響く。あ、なんか久しぶりにこんなに喋ってるところ聞くかも。元気そうで何より。


「いえ、やる方も恥ずかしいんですよ。お互い様です」


『わたくしは損しかしないわ! いいからやめなさい!』


 ……確かに。このまま話していると説得されそうだったので、そのまま無理やりもぐもぐと口に含んだ。『ぎゃー!』『ひぃぃぃ』『あははくすぐったいやめて』など、多彩な叫び声をBGMに、僕は一通り味を確認する。……うーん、なんか無機質な感じ?


『……汚された……』






「では、あらためて。味は?」


 えーっと、鉛筆と金属を足して2で割ったみたいな……。でもだいたい理解した。僕は絵筆をトアに再度手渡す。


「結構。では目を閉じてあなたの手元に、今思い描いた絵筆があると、そう認識してください。……強く、深く。どうですか? もっと強くイメージできはしませんか? ……そう。そこで魔力を込めるんですが……そうですね、全身の力を抜いて、でも手には、意識を集中してください。……はい、では目を開けて」





 目を開けると、いつの間にか僕は絵筆を持っていた。……おおー! 思ったよりあっさり。だけどなんか感動。遂に僕もこれで魔法使いを大手を振って名乗れるというわけか。僕はさっきよりちょっと濡れてべたべたしてしまった 水彩画家(アクアレリスト) を掲げ、日に透かした。なんだか誇らしい。


 ……ん? でもこれって呼び寄せるのって、味知ってるのじゃないと駄目なの? よく漫画とかで狂ったキャラがナイフをペロペロしてたりするけど、あれにもちゃんと意味があったのか。


「慣れてこれば頭の中に、形をイメージするだけで呼ぶことはできます」


「なるほど」


 普通はペロペロしないらしい。そりゃそうか。毒ナイフ持ってるゼカさんとかヤバいもんね。お腹壊しちゃう。








「トアさん! ちょっといいかな? ……大事な話があるんだ」


 その後も練習を続けていると、トアに、見知らぬ若い男性が声を掛けてきた。……ん? ひょっとして、弟子入り希望者かな? そりゃ未来の魔王様の指導を受けられるなんてめったにないからね。


「……いえ、すみません。……せっかく声を掛けていただいたんですが、今少し忙しくて」


 ニッコリ笑うトア。……あ、猫かぶりモードになってる。ということはこの男は級友か。王子様みたいなイケメンである。その彼は、僕の方をちらりと横目で見た。……おや、僕ってひょっとしてお邪魔? というか、この人、ラブレターくれた人っぽい気がしてきた。大事な話って言ってたし、たぶんそうだよね。


「……ちょっと休憩します?」


「あら、気を遣わせてしまいましたか……? サロナさん、ごめんなさい」


 そう申し訳なさそうな顔で謝るトアを置いて、僕はさっきの、端っこの方にある池に向かった。イカとエビのあいのこよ、君に触らせてもらってもいいかな。僕の相棒がどうやら恋人を作りそうなんだ。


 ところが僕が池の中のえびいかミックス(仮)に手を伸ばすと、彼らは一様にさっと僕の手元から去っていった。なんてこった。あわよくば炭火焼きにしたい、という気持ちを見透かされたのかもしれん。




 ……でも、トアはどう答えるんだろう。なんか想像がつかない。そう思って僕が彼女たちのいるはずの方向に目線をやると、唐突に頭の中に映像が浮かぶ。トアとさっきの男が2人きりで木陰にいるのが、実際に目にしているみたいに、見える。……なにこれ? 契約したから相手の様子が見えるとかそういうやつ? いやいやこのタイミングはアカンやろ。


 僕はどうにかしてこの接続を解こうとするも、全然方法がわからなかった。なんでつながったのかもわからないんだから、それもそうなんだけど。僕の努力をよそに、頭の中の映像で2人は話を進める。いや、ちょっと。ちょっと待って。




「……手紙、読んでくれたかな? ……返事が欲しいんだ」


「……そうですね……申し訳ありませんが、私たち、これまで通りいい友人でいられたらと」


 そう言って、困ったように笑うトア。その返事に、イケメンはショックを受けたようだった。


「……俺じゃ不足だった?」


「いえ、私。今、他にやりたいことがあるんです。あなたの気持ちは嬉しいんですが」


「……ひょっとしてさっきの子? ……君の優しいところは美点ではあるが、それも行きすぎると良くない。あんな出来の悪い、頭の悪そうな子の面倒を見る必要なんてないんだよ。時間は有限なんだ」


 ……なんと、知らない人に頭が悪いと言われてしまった。お前僕が気遣ってその場を離れたこともう忘れてるやろ。お前も同類やぞ。……でも、トアの時間を割いてもらってるのは確かだしなぁ。ちょっと考えた方がいいのかも……。




「頭が悪いのは否定しません」


 ごふっ。そう思っていたら相棒から追撃が飛んできた。何これ、僕を木陰で糾弾する会とかそういうやつ? そんな生産性のない会は即解散だよ。やめなさい。時間は有限なんだ。


 僕が流れ弾によりダメージを受けていると。トアは顔を上げ、見たことのないような冷たい目でイケメンを睨みつけた。


「……ただ、あなたにそう言われる筋合いはありません。不愉快です。二度と私に話しかけないでください」







 僕が池のほとりでえびいかミックス(仮)との友好を深めていると、トアが戻ってきた。うわ、すごい無表情。……猫かぶりモードはどうした。そして彼女は、そのままぽすっと無言で僕の隣に腰を下ろす。


「……なんか不機嫌じゃありません? 親戚と名乗る男からの突然の借金の申し込みだったりしましたか」


 そうじゃないのは知ってるけど、いちおうそう言ってみる。すると、彼女は呆れたような顔でこちらを見てきた。……あ、わかるぞ。また頭悪いと思ってるやろ。


「……馬鹿」


「池のほとりで私の悪口を言う会、反対」


 それを聞いて、トアは少し考えこみ、はっとこちらを振り返った。


「……見てましたか?」


「……さ、さあ……?」


 なんで今の一言で気づくんや。ちょっと唐突過ぎてうまく対応できなかった。そして僕の反応で、彼女は僕が見ていたことを確信したようだった。色素の薄いその顔色が、みるみるうちに真っ赤に染まる。彼女はそのまま手を振りかぶった。


「この、……馬鹿!!!」


 バチーン!! と真っ赤になったトアから顔をひっぱたかれた衝撃で、僕は池にばしゃんと落ちた。着水の瞬間、日差しが目に入って、僕はなんとなく場違いなことを思う。


 ……うん。今日が天気が良くて、本当に良かった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 百合すこ
[一言] トアさん可愛すぎでしょ
[一言] 恥ずかしがってるトア可愛い
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