異世界にも早く寺が出来たらいいな、改めてそう思った
「それで、トアが気になることって何ですか」
「……噛まれた、とはいったい何にでしょう?」
いや知らないけど。飼ってる犬にでも噛まれたんじゃないの? あの女神、たぶん犬から見た家庭内の序列低そうだし。そう思ったのが伝わったのか。トアは溜息をついて僕の顔を見た。なんか最近よく色んな人に溜息をつかれてる気がする。そしてトアはうーん、と目を閉じたまま何かを考え、やがて首を振った。
「そもそも……いえ、これは仮説ですから……そうですね、1度、わたしにもその女神と話をさせてもらえませんか」
自殺志願者かな? 今のゼカさんの話を聞いた後で会いたいとか。それともまさか、将来の(?)魔王として「世界を滅ぼしてやろう」とか、いきなり宣戦布告を……。
「あの、嫌なことがあったなら聞きますよ。ほら、なんでも共有するのが私たちですもんね。ねっ」
「あなたが何を考えているのかは分かりますが、そうじゃありません。……特にこちらに攻撃的でもないんでしょう? うまく聞きますから」
「まあ確かにトアならうまくは聞けそうですけど」
ただゼカさんも別にそこまで迂闊だったわけでもないんだよなぁ。まあ、お願いしなきゃまだ大丈夫か。その一方、ゼカさんは引きつった顔でしずしずと手を上げた。
「あのあたし、まだちょっと怖いかも……」
「ゼカさんは別に今回は無理に参加しなくても大丈夫ですよ。また結果は知らせますし」
「それはやだ! あたしも参加したい!」
……自殺志願者かな? 君、もう1回失敗してるやろ。ところがその後もゼカさんはいやいやと首を振って、2度目の女神との話し合いに参加したがる。
「やだやだ! 仲間外れ反対!」
「あーもうわかりました。じゃあ、ちょっとゼカさんのメンタルが復活したらということで。……では今日は解散、ですかね?」
「いや、あたしの契約の話は?」
……あ、そういやその話からだっけ。いかんな、僕はすぐに本題を忘れてしまう気がする。気を付けねば。じーっと僕の顔を眺めるゼカさんの視線に気づかないふりをしながら、僕は1人自戒しつつ話を戻した。
「もちろん覚えてましたよ。……えーっと、私たちの間に魔力が繋がる瞬間を把握する、でしたっけ。ちょっとやってみましょうか」
「えー、わかるかなぁ……」
僕とゼカさんは向き合って、お互いの魔力とやらの動きを探った。……ただ僕はよくわからないので、とりあえず目を閉じて何か感じないかを待ってみる。……うーん……でもよくわからん……。
瞼の裏に映る、なんか幾何学的な模様が動いてるのをなんとなくぼーっと追ってみたりしつつ、そのまましばらく待った。そうしていると、ふと、自分の中の何かが糸のようにトアと繋がっているのを感じる。……あ、これが魔力の繋がり? ふむふむ。ならこれっぽいのがないのかを探せばいいのか。どれどれ、糸っぽいのがないのかなっと。
そうして自分の中を一通り探していると、ふと何かが僕の意識に引っかかる。……あ、何かあった。すごく細い糸みたいなやつ。えーっと、これがゼカさんと繋がってれば成功なのかな? まだ何もしてないけど。意識せずとも成立させてしまうとは、これは僕ってひょっとして契約の天才だったのかもしれないな。ふふふ、敗北を知りたい。
しかし、それはゼカさんには繋がっていなかった。その細い糸みたいな魔力の線は、僕から出て、ここからどこか離れた場所に伸びている。どこに行ってるかはわからないけど。……え、じゃあ何なんこれ。なんか変なのが僕の中からどこかに繋がってるんだけど。……こわっ。ちょっと待って。
「あの、いったんやめていいですか?」
「え゛っ、もう? まだ始めたばっかりなのにそんなすぐ諦めないでよ……もっといけるはずだよ! ほら本気で頑張ってみよう!」
ゼカさんはストップを提唱した僕に対し、熱血な体育会系の先輩か松岡修造みたいな感じで励ましてくる。でもゼカさんついさっき1分で諦めてたのに……。
「いえ、そういうのではなく。なんだか怖いものを発見してしまいました」
「……怖いもの? え、やめてよ。どうせ壁に浮かんでくる大量の死者の顔とかでしょ」
「人の家でそんなものを勝手に浮かべないでください。眠れなくなるじゃないですか」
そう言いながら、引きつった顔でトアが僕の袖をやたらにぐいぐいと引っ張ってくる。……なぜみんな袖を引っ張るんだ。このワンピース伸びないからいいけど、普通やったら今頃だるんだるんやぞ。
「なんで私の方を睨むんですか。浮かべたのはゼカさんですよ。しかも大量に」
しかしなんでゼカさんもそんな絵面的に怖い発想をするんだ。あれ、でもトアって心霊系駄目だったっけ? そういやお化けがどうのって、ゲームでの初対面の時にも言われたような気が……。
「……で、怖いものってなに?」
「え、トア大丈夫ですか? 聞いても夜ちゃんと寝れます? 今日私泊まりましょうか?」
「ば、馬鹿にしないでください。幽霊だろうが切り裂けるのがわたしの剣ですから。出てきてもこの世から木っ端みじんに消し飛ばしてやります」
そう言いながら剣を握りしめるトアだったけど、ちょっとプルプルしてるような気がした。そして幽霊ならどっちみちもうこの世からは消えているのでは……。まあいいや。しかしあの剣ってひょっとしてそういう心霊的なものにも対応できるようにわざわざ作ったのかな? めっちゃビビってるやんけ。でもそういうところはなんだか可愛い気もした。なんか年相応っぽくて。……あ、いかん、怖いものの話だった。
「えーっと、自分の中から覚えのない魔力の線がいつの間にか生えてて、どこかに繋がってます」
「うわぁ……怖いというか気持ち悪いね」
「妙ですね……覚えのない、ということは、最初からあった? 御使い関係でしょうか」
さっきまでと違って落ち着いたまま、ふむ、とトアは首を傾げた。どうやらこの案件は心霊系でないという風に判断したらしい。ほう、判断が早いな。でもトアって頭文字だけだとTさんだから、心霊系にはむしろ強そうだけど。異世界生まれのTさんみたいな。でもトアは破ぁ! とか言わなさそう。やはり寺生まれでないと駄目なのか。彼女の心の平穏のためにも、早く仏教が異世界に広まってほしいものである。
「さっきからあなたの考えてることがよくわからないんですが……」
「あ、ごめんなさい。異世界にも早くお寺が出来たらいいなと思ってました」
「どういうことなの……」
ゼカさんも顔全体に「?」を浮かべたような表情でこちらを見てきた。まあこれが通じたら怖いわけだけど。どうやら翻訳魔法も全能ではないらしい。よし、ここは僕が将来の足掛かりのためにも説明しておいてやろう。
「いいですか、お寺というのはですね……」
「なるほど、つまりは異教の神殿ですか」
「そんな大掛かりなものじゃなくて、街の教会みたいな。県警本部じゃなくて派出所みたいなもんです」
「……いや、それはそれでいいんだけどさ。結局、あたしの契約の話って、どうなったの?」
「はっ」
そうだった。ゼカさんとトアの両方からじっと覗き込まれて、僕は悟った。……この何かと本題から逸れる僕の癖って、直すの大変かもしれない。
結局、トアが契約の方法を考えてくれる、というので落ち着いた。やっぱりこの会は副隊長にかかってしまっている。感謝せねば。……そして、僕ももう少し何かできるようになった方がいいな。海底神殿で何か起こるなら、準備しておくに越したことはない。あと、何かできるようになること……。なんだろう。ゲームの中ならシステム的なバグで不死になってたけど、ここではそういうのはないし……。ふむむむ。…………あ。そうだ。
考えていると、ふといい考えが浮かんだ。僕が一番使い慣れてる能力。こっちでうまく出来たことがない能力。幻覚を見せることができる、認識阻害を習得できないだろうか。あれさえあれば、だいぶ幅は広がる気がする。……しかし、どうやって習得しよう。




