会則「親友を武器の試し斬りに使ってはいけない」
「……昨日ほんとに怖かったんだから!」
「なるほど。……で、結局、2人は魔力を繋いでみたんですか?」
「いや、それが……やり方がよくわかんなかったというか……」
だからごめん教えて! と手を合わせるゼカさんを、トアは何かを考えてるような風でじっと見つめた。そのままなぜか黙っている。……あれ? 「こーんなことも知らないんですか? まったくセンパイはわたしがいないと駄目なんですから」みたいな感じでいそいそと教えてくれるのかと思ったら。
「あなたの後輩になった覚えはありません。そもそもわたしはそんなことを言ったりしません」
「あ、また読まれた」
ご本人から否定されてしまった。ならそうなんだろう。トアはそんなこと言わない。ちょっぴり残念ながら。
「そういうのがお好みですか」
「……否定はしません」
「……へー。……ふーん……」
なんか生ぬるい目で見られてしまった。……いや、いいやん後輩キャラも。だってトアってちっこいから外見だけなら後輩っぽい雰囲気あるし。まあ今の僕も同じくらいの身長ではあるんだけど。
……それにしてもなんで僕の周りにはそういう人がいないんだろう。あらためてカウントすると知人の属性で一番比率が高いのが「ヤバい人」って。こんなの絶対おかしいよ。……特別学級かな? しかしその考えを進めると僕もそこの住人だということになってしまいそうなのでやめておこう。そうそう、みんな違ってみんないいんだよ。
「え、なに、そういうのって」
「もう。そんなことより早く聞きましょうよゼカさん。いちいち脇道に逸れてないで」
「なんであたしは怒られたの?」
「そうですね、はやく本題に入りましょうか」
「あたし一言しか逸れてないと思うんだけど……。あれひょっとして、あたしがおかしいのかな?」
何やら苦悩しているゼカさんをよそに、僕はトアから魔力の繋ぎ方についてあらためて教えてもらう。
「方法はなんだっていいんです。踊っても、瞑想しても。集中していれば、ふと相手と魔力が繋がる瞬間が掴めるはずです」
「ふと?」
「そう。近くにいる相手とは、混線するみたいに、たまに魔力の線が細く繋がることがあるんですよ。その瞬間を逃さない集中力を保つための踊りであり、瞑想です。そして一度相手と魔力が細くても繋がったなら、あとはそれが切れないように注意しながら、少しずつ太く、補強していくだけです」
なるほどわからん。……たぶん、僕に魔力があんまりよくわかってないから、というのもあるんだろうけど。……しかし集中力か。ということは、どういう時にゼカさんが集中しやすいのかを確認するところからかな?
「ゼカさん、集中するのって得意ですか?」
「え? なんで?」
……あ、駄目だ、なんか苦手そう。さっきのトアの話をきちんと聞けていない時点で、もうなんとなくわかった。いや、まだあきらめるには早いか。
「いえ、魔力を繋げるためにはゼカさんに集中してもらわないといけないみたいで」
「そうなんだ。んー、あたしってあんまり1つのことをずっと続けられないんだよね……」
それを集中力がないと世間では言うような。いやしかし、やらせてみたら眠っている才能が目覚めるかもしれん。よし、説明はおいおいに、まずはチャレンジしてみようではないか。
僕はパンパン、と手を鳴らしてゼカさんに指令を送った。ちなみに鳴らした意味は特にない。
「では、私の前でゼカさんはとりあえず踊ってみてください」
「え!? 今すぐ!? どうしたらいいのかわからないんだけど!?」
まあそりゃそうだ。とりあえずそこで踊れ、なんてオーディションとかでもないと言われない台詞だろうし。いやほんとのオーディションでそんなん言われてるかは知らないけど。……でも天才はこういう時に思わぬ才能を発揮して審査員一同の度肝を抜くものなのだ。さあゼカさんよ、ここから世界に羽ばたいていくがいい。
僕とトアの視線を受けながら、ゼカさんはぎこちなく手を上げたり下げたりし始めた。ところが1分ほどして突如やめる。そして顔を真っ赤にして、その場に座り込んだ。
「知ってる誰かの前で踊るとか無理! これ恥ずかし過ぎるよ」
……この前「これ」を6時間くらい続けてたトアの前でその台詞はまずいぞゼカさん。僕はそっと隣のトアの顔を見た。するとトアがやたらニコニコしながらゼカさんの方を見ていたので、僕はトアからそろそろと距離を取る。トアは笑顔を保ったまま、ゼカさんの方にゆっくりと歩いて行った。
「そんなに恥ずかしかったですか」
「うん……ちょっと勘弁してほしいかなぁ……もうね、いたたまれないというか」
「へー……」
「特に友達の前っていうのが致命的だったかも。恥ずかし過ぎて死んじゃうかと思っちゃった」
「ふーん……」
やめるんだゼカさん。なぜ墓穴の底でさらに墓穴を掘るんだ。このまま行くと君の死因は恥ずかしさじゃなくてもっと別のになりそうだよ。
「あの! みんな違ってみんないい! ですよ!」
「どうしたの急に……?」
悲劇を避けるべく、大声で僕が叫んだにもかかわらず。なぜかおかしい人間を見るような目でそのゼカさんから見られてしまった。いやいや君、女神と話してた時より今の方が危険なまであるんやで。
「ふふっ。ゼカユスタさんってわたしの愛剣『支配者の器』の切れ味に興味とかありません?」
「なんでそんなこと唐突に聞くの?」
唐突じゃないんだよなあ。つぶらな瞳でトアの方を見るゼカさんは、何もわかってない風でこくりと首を傾げた。……なんで君、女神と魔王の両方相手に連続でピンチになってるの。ある意味レアだよ。
「ストップ! 親友を武器の試し斬りに使ってはいけない! それがこの会のルールですよ」
「そんなの初耳です。……わたし、抜けていいですか」
「いえ、ずっといてください!」
「試し斬り……?」
不思議そうな顔をするゼカさん。いや、気づいてなくてもいい。今1つの命が救われたのだ。まあ、ほんとにはさすがにやらないだろうけど。
「そういえば、トアって不機嫌な時って、『へー』とか『ふーん』って言うこと多いですよね」
「……そうですか?」
「え、トアって不機嫌だったんだ。そういえば今日よく言ってるよね」
……そう? そういや今日、ゼカさん切り刻み前にも言ってた気がする。えーっと、何の時だっけか。
その時不意にシャッと音がして、僕の前髪がはらりと一房落ちる。……? とりあえずしゃがんでそれを拾ってみた。……何これ。まるですっぱりと鋭い刃物で切られたような……。
僕が首を捻っていると、なぜか鞘から剣を抜いたトアが目の前に立っていた。……ニコニコ笑ってるけど、ゼカさんに詰め寄ってたさっきよりなぜか迫力を感じる。なんでや。僕はこわごわと彼女に合言葉を投げかけた。
「親友を武器の試し斬りに使っては……?」
「いけない。……まあ、良しとしましょう」
「よかった! いやよくない! なんで私いきなり斬られたんですか?」
「そんなことよりも、気になることがあるんです。女神の話について」
「そんなこと、で処理しないでください!」
「もう。いちいち脇道に逸らしちゃだめだよ」
そうゼカさんにたしなめられてしまった。……えぇ……いやこれ絶対僕悪くないやろ。




