前世占いってけっこうリアクションに困る
「それにしても、どうしてこの武器の名前を知っていたんですか?」
復活したトアから、さっそくそんな質問が僕に飛んできた。しかし彼女は続けて自分でその疑問に答えを出す。
「ああでも以前に、ここと同じような世界があなたの世界で再現されていた、という話をしていましたね。それで……そこにこの剣があった、ということですか?」
「はい。……どういうことなんでしょう」
「ふむ。……この剣を使っていたのは、ちなみに誰ですか? ……そちらの世界の、わたし?」
「それはそうですね」
なら最初会ったときに知り合いだと気づけよ、という疑問がふわっと伝わってきた。……いや、だって、あっちの魔王様って顔わかんないし。声もなんかもうちょいキリっとしてるっていうか。でもたぶん今になって考えてみると、あれって魔王としての役作りめっちゃ頑張ってたんだと思う。この子、頼まれたらなんだかんだで全力を尽くしてくれそうな気はするし。
「まったく、人をそのまま再現するなんて、聞くほどに規格外ですね……そんなのどうやって……」
感心したように、何度も彼女は頷いた。と、不意にその頷きが止まり、じーっと僕の方を見る。……お? なになに? 何か気になることあるの?
「ちなみに好奇心から聞くんですが、そちらのわたしはどんな人でしたか? 知り合いなんでしょう?」
うっ。どう言ったらいいんだろう。君、別の世界で「この世界を粛清する」って言ってたよ。……と聞いて嬉しい人ってあんまりいないと思う。いやそんな台詞を言ってはいないけど。まあ魔王だから似たようなもんだろう。さて、どうしたものか。
「……なんだか言いにくそうですね」
「いやそんなことないです! ほら、その、当てられるかなーって」
いかん、余計なことを言ってしまった。これで絶対言わないといけなくなっちゃった。……ふむ、とトアは首を傾げ、目を閉じて独り言を言いながら予想を始める。
「聞く限り、魔王がいて、それを勇者が倒す世界設定なんですよね。……なら、わたしは勇者に武器を斡旋する商人でしょうか」
「武器が好きそうではありました」
「違う、と。なら、魔法剣士、工芸家、遺憾ながら魔法使い……。いえ、……言いにくいということは、まさかひょっとして、武器を使う大量殺人鬼とか……なーんて。ふふ、さすがにそれはないですかね」
「あ、最後のが一番近いです」
いたずらっぽく笑っていたトアの表情が、僕の一言でピシッと凍り付いた。あ、いかん。また余計なことだったかも。でもこれヒントないと辿りつけないから……。そしてそのヒントを聞いて、ゼカさんもクイズに突如参入してくる。
「トアってそっちだと殺人鬼なの!?」
「いえ、正確には殺人鬼の親玉というか……」
「親玉!? 殺人鬼の親玉って何!?」
「あの、このクイズ、やめましょうか。それより紅茶でも飲みに行きましょうよ」
僕が笑顔で方向転換を進めるも、ちょっと遅かったみたいでトアから普通に反対されてしまう。まあ確かに、さすがに無理があったか。
「行きません! はっきりさせてからにしてください!」
「えーっと、その、はい。……魔王でした……」
「……魔王……」
トアはそれを聞いて、なんだかずーんと落ち込んだように見えた。なんかそういうの気にしなさそうなのに。……と思ったら、小さな声で「……くっそめんどくさそう……」という独り言が聞こえてくる。……確かに。そして落ち込むのそっちなんだ。
「えっ、トアって魔王様だったんだ! ……あ、な、ならさ、あたしとトアってそっちだと同僚なんだね! それって楽しそうじゃない?」
ちょっと焦りながらゼカさんが、ブルーになってるトアの方をちらちら見ながらフォローをしてくれた。いつもながらナイスだゼカさん。……ただ、問題が1つある。君って僕の知ってる魔王軍にいないんだよ。というかそれ以外の場所でも見たことない……。自己主張激しいから忘れないと思うので、この子と会ってないのは間違いないと思う。
「……いえ、ゼカさんは魔王軍にはいませんでした」
「なんで!? ……あ、そっか。ひょっとして、魔王軍が少数精鋭だったのかな。3人とか!」
いやさすがに3人は少なすぎるわ。それってもう軍じゃなくて単なる仲良し3人組やろ。
「いえ、私も含めて、魔王軍の幹部だけで50人いましたよ」
「50人!? 多すぎ!」
せやな。その感想もわかる。そして僕の話を聞いたゼカさんは、気に入らないと言わんばかりにその場で足踏みし始めた。
「もう、ずるい! サロナとトアは一緒なのにあたしだけ違うなんて! ……なら、あたしはどこにいたの? ひょっとして、勇者とか? ……悲しい話になりそう……」
……勇者だと基本的にプレイヤーだから、もしゼカさんが勇者なら転生組になってしまうけど、そうじゃなさそうだしなぁ。……えーっと……。期待に目を輝かせてこちらを覗き込む彼女から、僕はふいっと目を逸らした。なんかめっちゃ言いづらい……。ただ、いつまでも言わない訳にもいかないか。
「……私の知ってる人の中にゼカさんはいませんでした」
「え゛っ……なんで?」
「その……きっと他所でご活躍されていたのかと」
「その言い方止めて! 距離感じる! そんなぁ……お願いだからあたしも探してよ……。それで魔王軍にあたしも入ってさ、3人で楽しく活動しようよ」
「そうですね……帰って時間があったら、探してみます」
「それやらないときの言い方でしょ……」
じとっと彼女から横目で睨まれた。いや、いちおう探す気はあるんだけど。……そして僕はちょっとだけ想像してみた。確かに向こうで、適当に活動してみるのも楽しい気がする。色んな所に行ってみたり、たまに悩み事を話してみたり。3人であーだこーだ言いながらふわっとした感じで集まって。……こっちで今こうしてるのと、同じように。
「いえ。……約束します。帰って、落ち着いたら絶対に」
「ならいいや! ……それでね! 最初にあたしたちが行くなら、火山がいいな」
「えーっと……いいんですか?」
あんまりいい思い出ないんじゃない? 他の場所の方が楽しくないかな?
「もちろん! えっとね、前の記憶を、もっと楽しい思い出で上書きするの! そうすれば楽しい場所が増えるんだって、お姉ちゃんが言ってた!」
「なるほど。一理ある」
思わず同意してしまった。せやな。今日のゼカさんはなんだか冴えてる。いや、今のはお姉ちゃんの台詞だけど。……でも、それならゼカさんを見つけたら、最初に火山に一緒に行こう。よしよし、何があっても覚えておかねば。
それからしばらくして、トアが本日何度目かの再起動を果たし、無事復活した。まるで酷使して故障寸前のパソコンのような……いや、それだとやばいか。不死鳥みたい、にしとこう。トアはふふ、と乾いた笑いを浮かべながら目を閉じて言い切った。
「他の世界のわたしがどうなろうが知ったこっちゃないという結論に達しました」
「おおー! さすが!」
「素晴らしい考えだよ! 自立してる!」
「もう励まし結構です。……それで、問題は、わたしの剣の話でしたよね」
……そうだった。ついつい他の話に逸れてしまったけど、そもそもはそうだったよね。どうしてゲームの世界に、今できたばっかりのこの剣があったのか、って話。
「現時点での可能性としては3つあります」
「3つ!? すごい、さすが副隊長です!」
聞いたばっかりなのにもう3つも出てきたらしい。これもう1日監禁して考えてもらったら答え出るやろ。僕がそう感心しつつ危険な計画を立てていると、ゼカさんがなぜかぐいぐいと僕の服の袖を引っ張ってきた。……いや、伸びる伸びるから。僕の袖は別に驚きを表す機能とかついてないんだけど。
「別に数が多いと勝ちじゃないよ! 肝心なのは内容だし!」
「おお、ということはゼカさんも何か思いついたんですか?」
「……ぐうう、まだだけど……時間が、時間が足りないんだよ……もう少しあればきっと……」
いや、僕ももっと時間あったけど、全然出てこなかったぞ。これって残念ながら時間の問題じゃないみたいなんだ。僕はそれを彼女に伝えるべきかどうかを悩み、そしてふと1つの可能性について気づく。……僕が考えても何も出てこなかったのって、こうしていつも脇道に逸れちゃうからなんじゃなかろうか。




