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地獄の宴

「大変申し訳ありませんでした」


「……もう、いいですけどね、なんでも」


 ぼっさぼさになった髪の毛もそのままに、トアはコートを羽織って立ち、目を閉じる。その前に座る僕は、反省の意思を示すべく自主的に正座していた。そういえば、体力回復するコートの存在をすっかり忘れてたね。いや申し訳ない。でも無事回復したようで何よりである。


「で、契約でどう変わるんでしょう?」


「どうでしょうか……。私、ちょっと能力も含めて検証したいというか。もし魔力が上がっているなら、試してみたいことがいくつかありまして。少し寝た後で始めますから、……そうですね、2日後に、武器屋の方に来てください。そこでお互いの変化をお互い持ち寄って確認しましょう」


 少しと言わずここはゆっくり眠っていただきたい。なんなら僕が枕元で子守唄を歌ってあげてもいい。5時間くらい。僕がそんな贖罪計画を練りながらそろそろと目線を上げると、トアは「やれやれ」と「もう」を足して2で割ったような顔でこちらを見降ろしていた。


「いえ、ですから。……契約しなければ、そもそも試すこともできなかったんです。それがあなたのお陰で、できるんですから。ありがとうございます。……あと子守唄はやめてください。いいですか絶対にです。やったら怒りますから。……ほら、もういい加減に立ったらどうですか」


 そう言って、彼女は苦笑しながらそっと手をこちらに伸ばす。その瞬間、過去に同じ光景を見たことがあるような感覚を僕は味わった。……確信する。僕たちは、かつてどこかで会ったことがある。間違いない。ただそのはずなのに、僕は、彼女を見たことがない。……そんなことあるんだろうか?








 翌日、家でゆっくりしながら検証しようと思っていたら、ロランドからの伝言を受け取った。なんでも、学校に来てほしいらしい。


 道の途中で職質されそうになってダッシュで逃げたことを除けば、おおむね何もなく僕は無事に学校に着いた。そのまま、寮のテラスで落ち合う。ロランドはいつから来ていたのか、テラスの椅子に無駄にふんぞり返って座っていた。


「どうした。遅いぞ」


「警察みたいな人たちに見つからないよう来たからね」


「……それは見つかるとどうなるんだ?」


「この前なんて追いかけまわされて身柄拘束されそうになって」


「お前何かしたのか!?」


「いや、違うから。ただ単に身分証がないだけだし」


 失礼な。僕が何かするわけないじゃないか。だからその目を止めるんだ。僕とロランドだと留置場に近いのはぶっちぎりでロランドだと思うぞ。


「お前、俺と一緒に街に入ったんじゃないのか……なんで登録してないんだ……」


 だってそんなんあるってことすら知らなかったもん……。


「早く追いかけられない生活がほしい……」


「……まあ、何とかしてやろう。身分証があればいいんだろう。俺にはその程度たやすい」


「ほんと!?」


 正直駄目な人としか思ってなかったけど、見直した。なんていい人なんだ。


「その代わり、1つ頼まれてくれ」


「……内容によるかな」


 なんか嫌な予感。冒険に行こうとか言い出したら言い切る前に何発殴ってでも止めなければ。目を覚まさせないといけない。ついでに契約で僕の方がどう変わってるかの検証にも使ったれ。お、なんと一石二鳥ではないか。


「せっかく寮に部屋が出来たのに、誰も来ないんだ。せっかく準備もしてあるのにこれでは無駄になる。……そこで、客を集めてきてほしい。15人までなら入れる」


 なんでも、最上位クラスに移動したことでロランドは寮に部屋を1つ貰えたらしい。しかし部屋めっちゃ広いね。15人て。……まあ、このまま待ってても永遠に客は来ない確率の方が高そう……。といっても僕もそんなに知り合いがいるわけではないけども。よし、でもこれならいいか。ロランドも冒険と言い出さないのは学習してると見ていいな。それともうっすらと命の危機を察知したのか。


「ふふ、命拾いしたね」


「……?」


 怪訝な顔をするロランドを置いて、僕は部屋を後にした。







「あ、シャテさん。私の自称主人の部屋に遊びに来ませんか」


「自称!? ……まあいいわよ。テヴァンも来るわよね」


「ああ、行こう」




「クララさん! ロイさん! と、えーっと、その……皆さん! 私の主人の部屋に遊びに来ませんか?」 


「俺、名前覚えられてなかったんだな……」


「サロナさんの部屋だと! 行こう!」


「お誘いありがとう。……ひょっとしたら助けを求めてるのかもしれないしね。行くわ」




 さっそく5人も釣れてしまった。これだけいたらロランドも大喜びだろう。5人をロランド部屋に案内する。あ、そういえば。シャテさんとテヴァンにお礼を言わねば。僕は歩きながら2人にお礼を伝えた。


「御使いの資料、ありがとうございました。役に立ちました」


「昔の記録がどう役に立つのかわからないけどね」


「とりあえず、寝てる間に食いちぎられないよう、ジャンプみたいに厚い雑誌をお腹に入れて寝てます」


「……何が書いてあったのよ!?」


 そんな話をしていたら、すぐに目的地に着いた。さて。僕は部屋の扉を開けて皆を中に案内した。






 部屋は7人が入るとさすがに狭いというか、そもそもなぜか椅子が用意されてなかった。何度探しても見当たらなかった。……マジかよ。ロランドは1つだけある椅子に自分だけ座って、鷹揚に手を広げ、僕たちを迎える。こやつ正気か? 


「よく来たな」


「あの……お客様が来たんですけど。どこに座ったらいいんでしょう」


「その辺に立ってればいいだろう」


 ……この瞬間、理解した。この場でよほどうまく立ち回らないと、連れてきた僕と皆との関係にヒビが入りかねないと。というか、先に部屋を見せてもらうべきだった。15人って客全員立たせた場合の収容人数かい。地獄に落ちろ。


 僕は急いでテラスから椅子を大量に強奪してきた。ごめん、すぐ返すから。もうお茶だけ出して帰ってもらおう。テーブルの上をぱっぱと片付けて、椅子を適当に配置する。ここで食堂のバイトの経験が生きた。でも全然嬉しくない。まあとにかく狭いけど、詰めたら6人座れそう。


「お待たせしました! では座ってください! すぐお茶出して、すぐ帰ってもらいますから!」


「あ、ああ……」


 皆はとりあえず座ってくれた。ただ、シャテさんとかロランドの方を見て明らかにちょっとピキッとなってるのがわかる。……あと1つ、何か起こったらまずい。ここは最適解を選んで帰ってもらうのみ。





 僕はそれぞれの求めてる飲み物を察知すべく、能力を展開した。トアにアドバイスをもらって練習した結果、だいぶ使いこなせるようになったのだ。……ふむふむ。なるほど。冷たい紅茶1、温かい紅茶3、お茶1、水1か。……水1!? 減量中のボクサーでも混じってるのかな? まあいいや。


 飲み物を準備して運ぶのも食堂のホールの仕事である。僕は危なげなくそれぞれに配膳を終了させることに成功した。ほら、飲んで早く帰って。


「……お、うまい……」


「意外ね、正直ちょっと構えてたけど」


 好評なようで結構である。街の西にある食堂で同じものが飲めるから、よかったらどうぞ。後で営業して、店長に臨時ボーナスとか請求してもいいかもしれん。というか、台所に色んな飲み物が準備されてて、ロランドが来客を待ってたの自体は本当だったんだな、と一瞬しんみりしてしまった。一瞬だけ。





 そして僕の自主帰宅を求める視線にはあんまり気づかれなかったのか、みんなは普通に飲み物を飲みながら、クラスの話とかをし始める。


「というかどうして立ってるの? あなたも座りなさいよ……ってそうね……ごめんなさい」


 そう、スペースがないんだよ。まあいいや。だって今僕ってバイトモードに入っちゃってるから、立ってるのがむしろ正しい。ウエイトレスが座ってる食堂って客来なさそうだもんね。この地獄の宴が終わるまでは立っとこう。僕が座る気がないのを察したのか、シャテさんはもうそれ以上言ってこなかった。





「それにしてもお前は、どうして水なんだ」


「いや、昨日飲み過ぎたから……あれ? でも俺それ言ったかな?」


 僕の方に視線が集まるのがわかる。……まずい。適当に言ったれ。


「顔色を窺ってそうかもしれないなと思い、失礼ながら水をお出ししました。また是非、体調の良い時にもお越しくださいませ」


 そう言って笑い、お盆を抱えたままお辞儀をしておく。こうは言ったけど真に受けないで。わかってるよね。もう2度とこんなところに来るんじゃないぞ。ここは地獄の一丁目だ。……そこに誘ったのは僕だけど。ごめん。早く避難した方がいいよ。


「私もちょうど温かいのが飲みたいと思ってたの」


「俺は逆に冷たいのでよかった」


「見事に好みで別れてるんだな。片付けも見事な手際だったし、さすがメイド。……おい、家事もできるらしいってよ。よかったな。いつでも嫁に来れるぞ」


 何もよくない。お前、この地に伝わる古い子守唄になぞらえて5等分にしてやろうか。もう水くらい部屋で飲めや。いちおう褒めてくれたんだろうけど、それと反比例して僕の中でのロイ友人の株価は暴落の一途を辿る。……しかし暴落友人のその言葉を聞いて、ロイは真剣な顔をして立ち上がった。そのまま立っている僕の方に近づいてくる。……どしたの急に。


「あ、お代わりですか? なら言ってくれたら……」


「サロナさん、結婚を前提に俺と付き合ってくれないか」


 そしてお前は、何を忘れてんねん。そしていきなり僕に何を思い出させてんねん。テーブルの方から、ロランドの驚愕したような声が聞こえてきた。


「俺の部屋で俺のメイドに求婚するとは……こいつ、常識というものがないのか……?」


 せやな。わかる。その1点については僕はロランドに同意した。僕はとりあえず笑顔で、待ったとロイを手で制する。


「確か、そのお願いについては条件があったはずです。お忘れですか?」


「俺が、君を倒すこと……」


「はい。無理ですよね」


「いや、……この1回だけ、俺が君を害することを許してほしい」


「あれ? この前の中庭の勝負、見てませんでしたか」


「あれは召喚だろ? 勝負は素手のはずだ」


 馬鹿野郎。この馬鹿。一緒だから。なにちょっとルールの隙をついたった、みたいな顔してんねん。あなたの選んだルートはどっちにしろ行き止まりだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] ぼこぼこにしよう!
[一言] んーやっぱりトアさんって……なんかかわいいからどうでも良くなってきた魔王軍入りたいです
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