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何も言えない時でも、目から伝わることがきっとある

 この街にある教会に向かいながら、僕らはゼカさん魔王軍で避けられてる説について検証することとした。まずは現状の把握が大切なのだ。しかし、現状の聞き取りにはなかなか難航を示した。


「……あたし嫌われてないもん……」


「いや、まだ疑惑ですから。……で、近くに寄ってこない、というのは何かきっかけがあったんですか?」


「まだ、とか言わないでよぉ……。知らないよ。魔王様はお腹壊してから寄ってこないし、№1はあたしのお姉ちゃんなんだけど」


「お姉さんにも避けられてるんですか……?」


 ゼカさんの現状がどんどん重たくなってくる。……いや待て、同じ職場に兄弟がいたら僕も避けるかもしれん。なんか話しづらいのは分かる気がする。ほら、年上の後輩みたいな。……ちょっと違うかな。


「違うよ! ただ、いつも出掛けてて忙しそうにしてるから会えないの。真面目で優しいお姉ちゃんだよ」


 なるほど。常識人に仕事が割り振られてしまうのはこっちの魔王軍でも一緒らしい。№1の人に会ったら優しくしてあげよう。僕はひそかに決心する。





「それで、№2の人? 人は……その、怖くて。何言ってるかもわからないし。どんな生き物かもわからないの……いきなり生き血とか吸ってくるような気がして」


「どんなんやねん」


 どんな生き物かもわからない、ってなんなんだ。生き血て。なんなの? 蚊が大きくなったみたいな感じなのかな? いやでもそれならどんな生き物かもわからない、ってことはないか。ちょっと想像できない。ゼカさんの職場恐ろしいな。そんなよくわからないのがいるなんて。


「怖いですね……まだ外見も全然イメージがわかないんですけど」


「うん、なんかピロピロ言ってて。お皿みたいなのが頭の代わりに浮いてるの……」


「……ん?」


 あれ、その外見を持つ人は2人といない気がする。僕の同僚のUFO先輩じゃないか。僕の魔王軍で常識度2位にランキングするお人だ。3位が僕として、4位以下が空席であることを考えるとこれは貴重な存在である。


「その人すごくまともでいい人ですよ! 私の先輩なんですけど、面倒見が良くて、紳士です。性別わかんないですけど。そもそも人かどうかもわからないですけど」


「……急にどうしたの!? あんな外見の人がまともなわけないでしょ。そもそも何言ってるかわからないのに紳士って言われても……」


「私には分かります! なんなら会わせてもらったら通訳しますよ!」


「あの人と会話するときはいつもサロナを持ち歩いとかないといけないの? ……不便……あ、でも悪くないかも……」


「いや持ち歩くて。……まあとにかく、いい人です。避けずにどんどん話しかけて行きましょう。……それで、次は?」


「えっとね、№3から№10は変な人」


「雑にまとめないでください。あとその略し方だとあなたも入ってますけど」


 少し先を1人で歩いていたトアが、呆れたような顔でゼカさんを振り返る。あ、ちゃんと聞いてくれてたんだ。





「そもそも、今の話だと魔王軍が変な人揃いなのはわかりますが、避けられている理由は分かりません。全然話が進んでいないじゃないですか」


「お姉ちゃんは変な人じゃないもん!」


「自分はいいんですね」


「……あたしとお姉ちゃんは変な人じゃないよ!」


「……それで、避けられている原因として思い当たるものは?」


 そう静かに尋ねるトアの視線を受けて、ふいっとゼカさんは視線を逸らした。……あ、これ自分でも原因分かってるやつだ。その場がしばらくしーん、とした後、その沈黙に耐えられなかったのか、ゼカさんは下を向いて真っ赤になりながら「心当たり」を話し出した。


「みんなの前で自己紹介したとき、上がっちゃって、舐められちゃ駄目だと思って……『私の中に違う人格がいるんだけど危険な性格なのでいきなり斬りつけてしまうかもしれません』って……澄ました顔して言っちゃった」


「……あっ……」


「うわぁ……」


「反省してるから! 2人ともそんな目で見ないで何とか言ってよ! なんであんなこと言っちゃったのかもわからないし……。もう、あの時の自分を殺したい……」


 ゼカさんのメンタルという多大な犠牲を払って、さっそく原因が判明してしまった。違う人格がいてもいなくてもその発言をする時点で危険な人物なのは明らかなので、それは確かに距離を置かれてしまいそう。……いや、待てよ……。僕はさらに恐ろしいことに気がついた。


「ちなみに、その場にお姉さんもいらっしゃったんですよね……?」


「うん……顔を覆ってすごく悲壮な顔してた……」


 じゃあその後、話をしないのは優しさなのでは……。傷が癒えるまで合わす顔ないやろこんなん。



「それで、しばらく後に魔王様から猛毒のナイフを貰って、あたしの近くには誰も寄らなくなったの……」


「なんで自己紹介で『突然斬りつける』とか言った人間にわざわざ毒ナイフを……」


 とどめ刺されてる。これもう魔王が共犯みたいなものなんじゃ……。え、ゼカさん魔王に嫌われてるの? 何かしちゃった? 脅かしたりおやつ食べた以外にもこれ何かしてるでしょ。


「ううん、たぶんその前に、魔王様とあたしで、『毒を扱うのってかっこいいですよね! 闇っぽい!』とか言って盛り上がったからだと思う。魔王様だけ、あたしの自己紹介大好きって言ってくれたから……すごく嬉しそうに毒ナイフくれたもん」


「その親切がとんだ裏目に……」


 やばい。魔王のエピソードで有能なのがこれまで出てきたことないぞ。そこまでアレならさすがに心当たりがあるはずだけど、わからないということは僕の知り合いではない、か。






 そんな話をしているうちに、僕らは魔法都市の教会に着いた。ゼカさんの件は後ほど、ということで。ここからは御使いの話を調べる目的に切り替える。


 僕が教会の神父っぽい人に目的を告げて尋ねると、快く資料室に案内してもらえた。なんでも、宗教都市の神殿に御使いが出てくる話の本編はあるらしいんだけど、ここにも布教用の資料はあるとのこと。子どもにも知ってもらうためわかりやすく書いてある、だとか。本編は聖典にも載ってるそうな。……どれどれ。




「人々は虫害による飢饉で苦しんでいました。御使いが天を指さすと、信徒の元に穀物が山ほど降ってきました。そしてそのまま御使いは虫を全て連れ、暗い穴の方へ去っていきました」



「御使いが天を指さすと、1月間続いていた雨が止み、あっという間に空が晴れ渡りました。久しぶりの日の光が強く、信徒が苦しんでいたので、御使いが薄い雲になって影を作りました」



「国の北、信徒を惑わせる存在がありました。心を操り、記憶を覗き、それを受け渡すこと。それは神の領域を侵すことです。そのため、御使いがこれを倒してくれましたが、倒した代わりに呪いを受けてしまい、やがて闇の中に消えていきました」





「……なるほど、何もわからん」


 幼稚園児の作文かな? 題名は「昨日見た夢」みたいな。熱で寝込んでる時ってこんな変な夢見るよね。これが堂々と聖典に載ってる……? やべえ国だぜ。


 あ、でも日本も古事記に 因幡(いなば) の白ウサギの話が延々載ってるから一緒か。あれもなんで載ってるんだろ。けど白ウサギって古事記原文では皮じゃなくて着物を剥がされてるんだよね。着物を着た、人ではない何か。……それって本当に、白ウサギ、だったんだろうか。知ったとき、ちょっと怖かった覚えがある。




 そんな僕を置いて、トアは何度か頷きながら、資料を真剣な顔で追っていた。


「……ふむ。普通だと明らかに無理なことが起こる、天を指さす、黒い何かになって消える。共通点はこの辺りですか。……どうも、最後が気になりますね」


「なんでですか? 私には全部おかしいようにしか見えませんよ」


「……どうしてこの部分をわざわざ残しているのか、です。他は分かります。御使いが神の力を行使して、信徒が助かった。教会万歳。それでいいじゃありませんか。……なのに、この記載をあえて残しているとしか」


「でも影になったからって、何か意味があるんでしょうか?」


「意味がないとしたら、可能性としてはもう1つ。……事実なんでしょうね。影となって消えるのが。ここで、影というのが一体何か、というのが、次の問題になりますが……」


 ふむむ。僕らはしばらく考えたけど、答えは出ず。トアはあたりを見回して、僕の耳元で囁いた。


「そして次なんですけど、これは出てからしましょうか。特に神話の3つ目は私たちに関係ありそうですが、ここで話すのは恐らく危険です」







 僕らは、僕のバイト先であるカフェに場所を移した。僕ら以外に客はおらず、奥のテーブルに案内される。そこで注文を済ませた後、トアはひそひそと話を続ける。


「……まず、おかしいと思いませんでしたか。御使いは、はっきりと信徒しか、救っていない」


「まあ、でも教会なんだからそう書くんじゃないですか」


「けど、あたしは皆を助けてくれる存在だって聞いたけどなぁ」


 ……そして、女神はこうも言っていた。「私は誰にも使命なんて言ったりしてない」とも。それなのに、御使いはみな使命を聞いて現世に降り立ち、それを叶えるためにその力を振るったという。……その結果として、信徒しか救われていないのであれば、きっと。トアがあっさりと結論を口にする。


「この件、教会が絡んでるのは間違いなさそうです」


「ですか。……正直、あまり教会っていうのを今まで意識したことがなかったんですよね。そういえばゼカさんって教会に入っても大丈夫なんですね」


「えっ……うん。なんでそんなこと聞くの?」


「私、以前教会に入ってそのまま浄化されそうになったことがあるんです。死ぬかと思いました。同僚は実際それで死にましたし」


「どういうこと!? あとあたしは教会に浄化されそうだと思ってるの!?」


 その抗議はスルーしたまま、僕は出た情報について整理する。他の2人もそうだったのだろう、しばらく全員が黙って飲み物を口にした。……カラン、というコップに入った氷の音がやけに耳につく。じっとりした空気が肌に触れ、店内には僕ら以外誰もいないのに、じっと、誰かから見られているような気がした。僕は軽く溜息をついて気分を切り替える。さて、あと、共有しておくべき情報は何かないかな。





「そういえば、女神が前に『自分の渡した魔力はどこまでも膨らむから、御使いはそれで頭がおかしくなる』とも言ってました」


 字面にするとあらためてすごい。しかもその欠点をわかってるのに直す気0だったもんね。やっぱりあの人やばい気がする。……いや、やばい、というのも少し違うか。……気にしていない。御使いがおかしくなろうが、それで地上が荒れようが、彼女はきっとそれに興味がない。そんな気がした。


「……なら、余計おかしくないですか?」


 女神の道徳的意識が、という意味かと思ったら、どうやらそうではなさそうだった。トアはもう1度、ひそひそと僕に囁く。


「膨らんだ神の魔力を持つ、頭のおかしくなった御使い。……ならいったいそれは、どうやって止まるんです? それこそ、誰にも倒せない存在なのでは」


 そうか。それを止めるのが、影なのかな。御使いを無理やりにでも消去する、そんな存在。……え、いやいや。


「じゃあ私やばくないですか? そのうちそんなとんでもないのがやってきて消されるってことですよね? だって、過去の御使いは全員そうやっていなくなってるわけですから」


「……」


「……」


「2人ともそんな目でこっちを見て黙らないで! 何か言ってください!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 翻訳魔法使ってもUFOさんとは話せないのかな?
[一言] 悲惨な結末が予想できてしまうとか。 魔王、サロナじゃね?
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