会議は踊る、されど進まず
さて、このまま考えてると答えも出そうにない。うーん、ここは僕の事情を共有して相談する相手が欲しいところだけど……。
僕は後ろをついてきてるゼカさんをちらっと見た。……たぶん親身にはなってくれそう。でも、解決するかというとちょっと心もとない。……よし。助っ人を勧誘しに行こうか。
「すみません、入ります」
僕が寮の部屋にノックして入ると、そこにはいつものようにベッドの上でぐーたらしてるトアがいた。そして僕の方を見て、うわぁという顔をする。いや、出てる出てる。顔に思いっきり出ちゃってるから。
「暇ですか? 暇ですよね。実は相談したいことがあるんです。ちょっとよくわからないことも出てきましたし」
一方、僕の後ろからひょこっと顔を出して部屋の中を覗いたゼカさんは、心底驚いたような声を上げた。
「うわっ! 何この部屋!? ……地震でもあったの?」
「……増えた……」
僕とゼカさんの顔を交互に見た後、トアの顔が絶望に染まった。……いや、そんなに嫌がらんでも。そして僕とゼカさんは同じカテゴリじゃないと思う。僕の方がだいぶしっかりしてるし。濃度の異なる食塩水混ぜたら何%になるかとかも計算できるし僕。
ベッドに寝たままのトアは、見るからに渋々といった様子で。彼女は、ベッドの脇のスペースに何とかといった感じで置いてある椅子を指さした。
「どうぞ。そこの椅子に座ってください」
……椅子1個しかないんだけど。とりあえず僕とゼカさんは、ぎゅうぎゅうにくっついて1個の椅子に半分ずつ座る。お互いそんなに幅はないんだけど、それでもきつい。ゼカさんがめっちゃ体密着させてきてるのもなんか僕の精神的にやばい気がするので、早めに終わらせなければ。
……でもこの前来たときは部屋に椅子なんてなかったよね。……前回って僕そういや立ちっぱなしだったし、来た時のために用意してくれたんだろうか。いい人。
「そんなんじゃありませんから。変なことを考えるのはやめてください」
プラスの評価だったのに変なことらしい。厳しい。……でもそう言いつつ、次に部屋に来たときは椅子が2つになっているような気がした。なんとなくだけど。
僕はとりあえず、トアにざっと事情を説明することにした。といっても詳しいことを話していたらきりがないので、この世界とそっくりな場所が僕の世界でも再現されていたのだけど……という感じで詳細はぼかして。
「……でもそれにしては、当てはまるような人がいないんです。これだけ再現されているということは、その人はここから私の世界に来てるはずなのに。痕跡が全くないなんて……もう、どういうことなのか……」
トアはふむ、と言ってちょっと首を傾げて目を閉じた。……うーん、やっぱり難しかったかな。一部を伏せてるからなんかよくわからない話になってしまったかもしれない。テレビとかでも、伏字が使われてスタジオだけが盛り上がってるとこっちは置いていかれた感満載だもんね。しまったかも。
「確かに妙ですね。その人が作った場所がたまたまこの世界に似ていた、というのはさすがに偶然が過ぎる。そういうことですか」
「そう!」
すごい。そうそうそういうことなんだよ。ただ、それがわかったはずのトアは、その後のとても簡単なことがわからないようだった。彼女はもう1度逆側に首を傾げる。
「え、それで……? なんでここに来たんですか?」
「いや、なんていうか。手伝ってください。おかしいということは、きっと何かあるはずなので。他にも分からないことがいっぱいありますし」
「えー……」
なんかすごい嫌そうな顔をされてしまった。ただ、すぐに嫌だと言わないのは自分も僕に神器を探すのを手伝ってもらってるからかな。そしてそれでも嫌そうなのは、きっと厄介なことになる、という予感のせいか。
「あたしも手伝う!」
そう言ってゼカさんが元気に手を上げてくれた。……おっと、椅子に2人で無理に座ってるところそんなに動いたら落ちる、落ちるって。……今後の見込みとか自分の肩書きとか何も考えてなさそうだけど、そう言ってくれるのは嬉しい。ゼカさんだけに上げさせるのはなんか悪い気もしたので、続いて僕も手を上げてみた。
「これで、あと1人ですね!」
「おおー!」
そして、僕ら2人にわくわくしながら見つめられたトアは、困惑したようにあたりをきょろきょろと見回す。……いや、次、君だから。他に誰もいないから。
それからしばらく目を閉じた後、トアも渋々ながら手を上げた。おっ、遂に観念したか。
「……いや、めんどくさいんですけど」
「……すみません、それでも、お願いします」
そう言って僕が頭を下げると、彼女は枕と僕を5回くらい交互に見て、5分くらい天井を眺めて考えた後。最終的には「あーしょうがないな」という顔をしながら言ってくれた。
「……ああもう、わかりましたよ」
「ほんとですか! やったー! みんなで頑張りましょう!」
「おー!」
トアはそんな僕らを見て溜息をつき、それでも頷いて渋々もう1度手を上げた。律儀に掛け声も上げてくれる。小さな声だったけど、それは僕らの耳に確かに届いた。
「……おー」
――僕らは、授業が別棟で行われているせいか、他に何の音もしない静けさの中。床に物が散らばるぐっちゃぐちゃの狭い部屋で。3人の固い結束を、それぞれがお互い上げた腕とともに、誓った。……約1名は最後まで、気が進まなさそうだったけど。
「……で、何を頑張るんです?」
「そこなんですよ」
「そこからなんだ……いやあたしもわかってなかったけどさ」
僕らはとりあえず2人ともベッドに上がらせてもらい、3人で額を突き合わせて作戦会議を開始した。部屋の持ち主が、「離れてると大きい声を出さないといけないからめんどくさい」と主張したせいである。……この人マンボウの生まれ変わりか何かかな? 息をするのがめんどくさい、とそのうち言い始めないか心配である。……あ、でもいつも寝てる人のベッドだけあってめっちゃふかふかだ。これどこで買ったんだろう。あとで教えてもらわねば。
「議長、今議題と関係ないことを延々と考えている人間がいます」
「……なんと、それはいけませんね! ただ、その人もきっと反省していると思います。今回だけは許してあげましょうか」
「えっ? えっ……あたし? いやいや考えてたもん!」
けどそもそも議題って何だろう。トアがさっき言ってたように、何を頑張るか、っていうことかな。あ、そうか、何を考えるかをまず議題にしたらいいんだ。というかそれならゼカさんは今何を考えてたんだ。
僕は2人に提案する。僕以外の問題もせっかくだから3人で考えて解決していったら、きっと1人でやるより手っ取り早いんじゃないだろうか。うん、そういう会にしよう。ということで、まずは。
「えーっと、3人の現在の心配事や問題を挙げていきましょうか」
「あたしは……魔王軍で誰もあたしに話しかけてくれないこと……かな……あはは」
おおう。一発目から重いの来ちゃった。神器が見つからないとかじゃないんだ。何とも解決が難しそうだけど……。うーん、なんでそうなってるかの要因を考えて、対策を講じるところから?
「わたしは今後の自分のゆっくりした生活が脅かされそうな気がすることです」
ということはそれ以外にはあんまりない感じか。留年とか気にしないで大丈夫なのかな? まあそれで手伝えることって一緒に教室に行くくらいしかないんだけどさ。そしてその悩み、たぶんこの会にいる限り解決されなさそう。……あ、次は僕か。
「私は、さっき言ってた痕跡がないことの違和感と、血みどろになるという予言を貰ってることと、今後追い回されるっていうことへの対策と……」
「多い多い多いよ」
「平等にまずは1人1つずつでいきましょう」
……1つずつ、か。1番先に来るのって何だろう。……僕が考えながら部屋をなんとなく見回していると、ふとトアと目が合う。すると、なぜか以前に見た夢を思い出した。あなたがいるそこは危険だ、と僕に警告していた魔王様。彼女は最後に何と言っていたか。女神の声がどうこう、だったと思う。危険な何かには女神が絡んでいる、ということ?
そしてその直後の女神の声はなんて言ってたっけ。確か……『あなたをもとの世界に返す。育つのに3か月くらいかかると思う』と言っていた。そこで疑問が1つ。……そもそも、育つ、って何が? なんだか元の世界に返すのとあんまり関係ない単語のような気もする。
……聞いてみたらいいと思うんだけど、なんとなく、今女神の声と話すのは怖かった。……それにしても。彼女のあの声、僕が「帰りたい」と言っている現状に慣れている感じもしたような。そうしようか、って軽く言ってたし……そうか。
「まず、女神が私たちの敵か味方かをはっきりさせたいんです」
「そこ私たち、で括られるんですか」
「え゛っ、あたし達、女神さまの敵になりそうなの!?」
「いえ、まずは。……過去の御使いがどんな様子だったかを、調べてみたいんです。きっとそこにヒントがあります」
「その記録は全て教会が持っているはずですが……ああ、そうか。あなたなら通してもらえるかもしれませんね、御使いですし」
「サロナって御使いだったの!? ……御使いにあたしはお腹をいきなり殴られたんだ!? 皆を救う天使だってお姉ちゃんは言ってたのに……」
「その皆を救う天使に初対面で『殺す』とか言ったのが他でもないあなたですよ」
「議長、個人をヤジるのはやめてください」
……そして出た意見を取りまとめたところ、まずは教会に向かいながら。その道中で、ゼカさんが魔王軍でハブられてるのはなぜなのかというのを考えることとなった。道中でするような話題でもない気もするけど、そこはあくまで効率化を主張するトア隊員の意見が通った。
「ゼカさんはいいんですか?」
「いいの! ……だって、どこで話しても落ち込んでいきそうだし……」
せやな。場所の問題ではもはやないか。
「それに、誰かと一緒に何かするっていうだけで、なんか楽しいから。最近こういうの多くて嬉しいんだ。……ありがとう」
そう言って照れながら僕の方を振り向く彼女は、率直に言って可愛かった。話しかけられないというのが、信じられないくらいに。……そして、僕ら3人は、問題の解決に向けて一緒に歩き出す。それが何に繋がっているかは、まだ知らずに。




