怖い話ってだいたいパターンが決まってる気がする
まず、4つの神器のうち、 意思 は昨日手に入れた。あと3つ。………うーん、次に行くとすれば、ベルデ火山かな。他の2つのある場所は、入るために色々条件があるし。ベルデ火山で 奇異光芒を先に手に入れておいて、条件を満たした時に他の2つを手に入れる、と。よし、完璧な計画ではなかろうか。
僕が自分の部屋でベッドでゴロゴロしながらのんびりと次の予定を考えていると、急にドアがバーン! と開いてロランドが入ってきた。なんだか興奮してるように見える。……お、魔法学校で何かいいことあったの? 給食のわかめご飯のわかめが多かったとかかな?
「どうしたの?」
「おお、いたか! 実はな、魔法学校に入ってもう3日なんだが、誰とも話していないんだ」
「あ、そうなんだ……?」
……ならなんで入ってきた時嬉しそうだったんだろう。その状況を喜べる精神状態ならもはや1人でも何も問題はない気がするけど。
「それで、俺だけではこの状況を突破できない。そこでいいことを考えたんだ。手伝ってほしい」
「いや無理でしょ」
ここで無理というのは、その状況を突破するのが無理っていうより、僕ってそもそも教室に入れないと思うんだよね。学生じゃないわけだし。よってできることはない。頑張って。僕がそう結論付けて布団の中に戻ったら、足を掴まれて無理やり引きずり出される。……そういうとこやぞ。足じゃなくてせめて手にせんかい。いちおう僕は体は女子なんだから。
僕はベッドに腰かけて、ロランドに手伝えない理由を説明した。
「……ということで、入れないので無理です」
「いや、普通に使用人は教室まで入って来てるぞ。講義中はさすがに駄目だが」
「あ、そうなんだ。混み具合凄そうだね」
「頷きながら布団に入ろうとするのをやめろ」
だって嫌だし……。今日はもう研究所も行ったからゆっくりしときたいんだけど。
「お前が一緒にいたら、『隣にいるそいつは誰だ?』みたいに会話が発展するんじゃないかと思うんだ。あとは俺がやる」
「あー……」
まあそれくらいなら……? いいよ、と頷くと、ロランドは嬉しそうに去っていった。
……そもそも話したことのない相手に「隣のそいつ誰?」と聞くのって相当ハードル高いんじゃない? ということに僕が気づいたのはもう少し後だった。
翌日。僕はロランドと一緒に使用人として魔法学校に赴いた。僕もいちおういつものワンピースじゃなくて使用人らしくメイド服を着用である。歴史のあるらしい大きな門を抜け、レンガ造りの校舎の中に僕たちは入っていく。……おお、なんか気が引き締まるね。僕は学生じゃないけど。
教室の前でロランドと作戦会議をする。どうやら新入生というか、今回入学した人たちはここの予備クラスでしばらく別で授業を受けたのち、それぞれのクラスに編入されるらしい。
「……で、どうしたらいいの?」
「俺と一緒に中に入って、まず俺にどんな感情をみんなが抱いているか確認してくれ」
こやつ、カンニング目的で僕を連れてきよった。僕の嫌そうな顔が表に出てたのか、ロランドは慌てて続ける。
「いや、最初さえうまくいけばなんとかなるはずなんだ! ずっととは言わない」
「まあ引き受けた以上、ある程度は付き合うけど……あ、でも僕の用事が入ったときはそっち優先ね」
しぶしぶと僕は教室に入っていくロランドの後ろに続いた。教室には長机がいくつも設置されており、ロランドは窓際の前の方の席に陣取る。周りはまだ授業が始まっていないのか、ざわざわとそれぞれ友人と気ままに喋っているようだった。
……確かに誰も寄ってこない。僕はとりあえず、周りの人間がロランドにどういう感情を抱いているのかをこちらに向けられる視線から感じ取ることにする。
……ふむふむ、なるほど。こっちを見てひそひそしてる集団とか、あの子誰? って思ってる人は何人かいるみたいだけど、聞いてこないと意味がないよね。そしてロランドはそもそもどういう人かも知られていないみたいだった。
「ところで、私も他にやりたいことがあるので……手伝う期限を決めましょうか。いつまでにします?」
「俺に友人が100人できるまで、とかはどうだ?」
「……期限を決めてと言ってるやろが」
僕はとりあえず、後ろの席で喋ってる男性グループの会話に耳を傾けることとした。こういうのは近くから攻めていくのが王道なのだ。彼らは今何に関心があるのかな?
僕が見る限りどうやら2人が何かを熱弁していて、他の人たちはそれを聞いている様子だった。
「……でな。俺たちがその子に気づいたのは、しばらく経ってからだった。見つかったことがわかったのか、向こうは姿を現したんだけど。……可愛い子だった、でもそれ以上に、……おかしいんだよ。冬山の洞窟なのに、ワンピース一枚だったんだ。ここまでどうやって登ってきたんだよ」
「で、こっちがおかしいと思ったのがわかったんだろうな。……笑ったんだ、その子。楽しくて仕方ない、っていう顔だった。それが逆に、ただただ恐ろしかった」
「……それで、どうしたんだよ」
あ、なんか怖い話してる。僕はそ知らぬふりをしてその話に耳を傾けた。ちょっと興味あるし。そしてふと気づく。
……冬山にワンピース姿ってどっかで聞いたことあるな……。聞いたことっていうか、最近やったことがある。なんか嫌な予感が……まあ、僕以外にもそういう人がいるって話かもしれないし。僕はそっと顔を伏せ、ますます耳を澄ませた。
「このままだと恐ろしいことが起こる気がして。次の階まで全速力で走って逃げたんだ。あんなに早く走ったのは生まれて初めてだった。後ろを振り返っても、誰もついてきてはいなかった。絶対にだ」
「ところがだ。ふと前を見ると、さっきの女の子っぽい人影が、いつの間にか立ってるんだよ。あそこが一本道なのはお前らも知ってるよな。勿論、追い抜かれてもない」
「で、その子がこっちを見たんだけど、またおかしいんだよ。さっき会った子は、ワンピース姿だったけど、それ以外は普通だった。でも今度はその子……血みどろだったんだ。血みどろのまま何もなかったかのようにこっちを見て、『あれ、さっき会いましたね』って」
「マジかよ」
「その子は血だらけのまま笑って、一緒に行こう、怖くないよって言って、こっちに手を差し出してきた。どこに連れて行くつもりだったんだろう。その後は……背中を向けて、無我夢中で走って、気がついたら地上階だった。あんなに早く走ったのは生まれて初めてだったよ。……それで、洞窟を出たんだけど、そのときにまたその子の声が聞こえたんだ。『……もう少しだったのに』って」
生まれて初めてが話の中で更新されとる。……なんかその話、聞いたことがあるっていうか。なんだろう、体験したことあるような。ただそんなホラーな感じだった……? パーティー加入を勧誘する、とっても気さくな場面だったはずなんだけど。あと最後に聞こえてるのは幻聴じゃないかなぁ。病院に行くことをお勧めしたい。
「で、その子、可愛かったって?」
「そこかよ。……ちょうどそこに座ってる子みたいな奇麗な金髪でさ……長さもちょうど、あんな雰囲気……で……」
僕の方を見た話し手がなんだか言葉を止めたので、僕もそろそろと振り向いて彼らの方を見る。……あ、やっぱり洞窟で会った2人組だ。……とりあえず会釈をして、僕は笑って聞いてみた。
「ひょっとしてそれ……こんな顔でした?」
うわああああ!!! と大声で叫んで、2人は走って逃げて行った。……あ、彼らの人生最速がまた塗り替えられたような気がする。なんとなくだけど。
「お前何やってるんだよ」
ひそひそと隣に座ったロランドが僕に文句を言ってくる。いや、だってあそこまで行ったらもうああ聞くしかないと思うの……。でも後ろの席の人ならどっちにしろ時間の問題だったよこれ。……けど確かに今のは僕にも責任がある気がした。申し訳ない。
しばらくしてその2人は教室に戻ってきたけど、こっちを見ながら後ろの方でうろうろしている。……うん、ここに座りにくいのはわかる。だって彼ら的には怨霊みたいのが至近距離にいるわけだもんね。これで平然と席に戻ったなら、それは記憶に障害があるか心が壊れてる。
僕が彼らの席に座ったらどんなリアクションになるんだろう、とちょっと気になったけど。僕は彼らの怪談のネタを増やすためにやってきたわけではないのでやめておくこととする。んー、どうしたらいいのかな。
僕がそう考えこんでいると、2人組はおずおずと近寄ってきて、向こうから話しかけてきた。おお、勇敢。その後ろから、さっきの怖い話のギャラリーが遠巻きになって、こっちを興味津々で眺めている。
「……なあおい、何でここにいるんだよ……洞窟にだけ出るんじゃないのか。ひょっとして俺たちを呪い殺しに来たんじゃ……」
まあ、確かに幽霊って生息地が限定されてるのも多いけども。それにしても、呪い殺しに来たの? ってどんな質問やねん。そうですよ、って答えたらどうなるんだろう。なんだそうだったのか、とはならない気がする。
「いえ、私は別に怨霊とかじゃなくて……というかさっきの話は大いに誇張があります、やめてください。……今日初めてこの教室に来たんですよ、私。それなのに、他の人に誤解されちゃうじゃないですか! こんなの……酷いです……」
僕が憤慨して抗議すると、後ろのギャラリーはちょっと揺れた。2人組に対してどこか責めるような視線が送られる。よし、このまま押し切ったれ。
「いや、どこが誇張があるんだよ、事実そのままだったろ」
「そんなことないと思いますけど」
僕とその怖い話をしていた男子の視線が宙でぶつかる。事実そのままはさすがに言いすぎ。ただ、向こうも自信があったのか、指を立てて提案をしてくる。
「……待て、なら1つずつ確認していこう。まず、雪山の洞窟にあんたは2日前、ワンピース一枚でいた。これは合ってるか?」
「まあ、それはそうですね」
……ざわざわとギャラリーがちょっとざわめき、ちょっと僕に対する同情の視線が薄れた気がした。むう。この世界には魔法効果で寒さを遮断するワンピースはないのだろうか。
「次に、追い抜かずに俺たちの前に現れた。これは?」
「あ、それ! 実はね、あそこ抜け道があるんですよ!」
僕が勢い込んでそう言うと、相手は胡散臭い物を見る目で僕を見てきた。
「抜け道なんてない。俺たちは王国が出してる公式の地図を見ながら進んだが、あそこは一本道だった。……次に、血みどろで現れた、これは?」
「それもまあ、間違いではないですけど」
「じゃあ全部本当じゃないか」
いや、起きたことを羅列したらそうかもしれないけど、結論が間違ってるんだって!
「だから怨霊じゃないです。それにあれって、返り血ですよ。だから怖くないと思います」
「余計怖いわ! 誰のだよ! そもそも平気な顔だったのがまずおかしい」
「あ、血は魔物のでしたよもちろん。え、人のだと思ったんですか……発想が怖い……」
「なんで血まみれだった側が引いてるんだよ」
相手はなかなか自分の過ちを認めなかった。それに僕も平気な顔っていうか、気がついたらもう血みどろだったんだから、怖いっていうより気持ち悪いが先に来たし。……僕ら2人の話し合いは、なんだか平行線のまま進まない。
「だいたい、なんであんた洞窟にいたんだ?」
……神器を手に入れるためなんだけど、あそこにあるってことすら知られてなさそう……どうしようかなぁ。王国公式の地図とやらにあの隠し部屋は絶対載ってなさそう。
いや待て。僕がドラゴンと戦ったことは大勢に見られてるわけだから、それは認めるべき? でも理由が思い浮かばない。一般的にドラゴンと戦う理由ってなんだろう……。宝はいらないってあの場で言っちゃったからそれ以外だと……あ、俺より強い奴に会いに行く、みたいな?
僕はとりあえず満面の笑顔で誤魔化しつつ、拳をぎゅっと握って宣言した。
「私って素手でドラゴンを倒せるのかなぁとふと疑問に思ったので、試しに行ったんです」
「近くの流行りの店に帰りに寄ったみたいな口調でドラゴンを倒しに行くな」
「ちなみに倒せましたよ」
「嘘つけ!」
僕たちの論戦は決着がつかず、僕とロランドの周りに座っている人はいつの間にか誰もいなくなった。じろりとこちらの方を見ているロランドの視線を感じながら、僕はそそくさとその場を後にする。……次の休み時間にまた来よう……。
僕は廊下にあるテラスで、太陽の光が降り注いでいる外の風景を眺めながら溜息をついた。……失敗してしまったかも。このままではロランドは怨霊に取りつかれているヤバい奴、というレッテルを貼られてしまう。……まあ後半部分は合っているにしても。そうなっても別にいいんだけど、ちょっと今回は原因が僕だし悪い気もする……。
ここから逆転するにはどうすればいいんだろう。怨霊じゃない証明か……。あ、普通に触ったらいいんじゃないかな? だって肉体があれば幽霊じゃないでしょ。よし解決。……ふふふ、さっきの目撃者よ、目にもの見せてくれるわ。
次の休み時間、僕が教室に入ってロランドの隣に座ると、彼はなぜか興奮していた。
「俺は死霊術師だと言っておいたぞ!」
その手があったか。そう言われる前提としては僕が死霊になっちゃうんだけど、彼の笑顔はそんなことは1ミリも理解していないようだった。ただそういう流れになった責任はこっちにある気がするのでちょっと文句を言いづらい。
とりあえず、僕は笑顔で彼の前進を祝福した。だってそう聞かれたということは会話する相手ができたってことだ。任務終了だね。
「よかったですね。じゃあ帰ります」
そう言って僕が席を立つと、ロランドは僕の服の裾をなぜかがっちりと掴んできた。
「いや頼む、もう少しいてくれ」
「なぜですか?」
「どうやって使用人にしたのかを聞かれててな。考えてくれ」
「自分の嘘には自分で責任を持つべきです。さよなら」
僕はずるずるとロランドを引きずったまま、出口を目指した。……っていうかこの時点で死霊だっていうのは破綻してるような……。物理的な力をめっちゃ行使してるんだけど。
そして、僕が教室の出口に着くと、ちょうど中に入って来ようとした背の高いがっしりとした人と目が合う。
……あ、ドラゴンと殴り合った時にいた人だ。けっこうあそこにいた人って学生が多かったのかな? どうも、と僕が頭を下げると、相手もこちらが分かったのか、顔を輝かせた。
「……君は! あの後大丈夫だったのか? 助けてくれてありがとう。また会えて嬉しいよ。あ、すまない。俺はロイという」
「私はサロナといいます。それでこっちの引きずられてるのがロランドです」
ロイは床に突っ伏したまま僕の足首を掴んでいるロランドをチラッと見て、それでも握手を求めた。おお、紳士的ではないか。ロランドもキリっとした顔で立ち上がり、それに応じる。……服の前面が埃まみれになってるから、顔だけ真剣だと余計にやばい人に見えるよ……。
「よろしく。俺はロイ。先日サロナさんに命を助けられた者だ」
「ロランドだ。魔法使い兼死霊術師だ。サロナは俺の使用人だ」
あ、その設定捨てないんだ。まあいいけど。じゃあ、あとは2人で仲良くやって。
僕がその場を去ろうとすると、がっしりと肩に手を置かれる。振り向くと、ロイだった。なんでか知らないけどめちゃくちゃ顔色が悪い。あれ、ついさっきまで顔輝かせてなかった? 浮き沈みが激しい人なのかな?
「死霊……? まさか、あの後死んでしまったのか……?」
あの後ってドラゴンとの殴り合いの後ってこと? ……いや、なら今あなたが手を置いてるのは誰の肩って認識なんだろう。それともこの人は霊に触れる特殊技能でも持ってるのだろうか。
僕が首を傾げていると、ロイはロランドに食って掛かっていた。
「お前がこの人を使用人にしたのっていつだ? 2日前か?」
「そういえばそうだった気もするな。それがどうかしたのか?」
おいやめろ。設定が固まってないからって相手の話に即乗っかるな。……あ、ロイが地面に手と膝ついて崩れ落ちた。さっきまでと違ってめっちゃ情緒不安定。でも僕が死霊だということにショックを受けているみたいだったので、彼の肩にぽんと手を置いて、現実を見るよう促してみた。
「あのですね、違いますよ。だってほら、触れますもんね。幽霊なら触れないでしょう」
「……死霊術師が契約した霊は肉体を得るから、それは何もおかしくない。……どうして俺は……あの時留まっていれば、助けられたかもしれないのに……」
なんかうずくまった後に頭を抱えてぶつぶつ言い始めてしまう。……え、これどうするの……? ちょっと怖いんだけど……。
と、ロイは急に立ち上がり、ロランドに頭を下げる。……さっきからなんて忙しい人なんだ。
「頼む、この人を解放してくれないか」
「お断りだな。こいつはもう俺の使用人だ!」
一足遅かったな! と僕の両肩に手を置いて高らかに笑うロランドに向けられている、クラスの人たちの感情を僕は感じ取った。……あ、完全に悪役として見られてる。
まあ、誰かもよくわからない状態ではなくなったよね。めでたしめでたし。……僕はそう考えながら、収拾がつきそうにない目の前の出来事から目を逸らし、窓の外に視線をやった。それにしても、今日は本当にいい天気だなぁ……。
そういえばタイトルをきちんと考えたいとか言ってた気がします。4年前に。
ただ、題名変更ってたぶん1回までですよね。完全にしっくりくるいいのが思いつかないんです。
今の題名を回収できるのってたぶん最終話あたりでそれはいいんですけど今のってわかりにくいし。
……主人公の姿も2回変わってるんだし、別に2回までなら変えてもいいんじゃない? という気がしてきました。とりあえず、まあありかなと思うのが浮かんだらつけて、完結後にもっといいのを思いついたらまたつけましょう。




