魔王軍、ポンコツ集団疑惑(2回目)/ 邂逅
僕は背負ったリュックの中にあるものを確かめる。ルート先輩が作ってくれたお弁当、水筒、財布、おやつ。……よし。さあ、行こう。
シャテさんたちにトアを紹介してもらった翌日、僕はさっそく雪の都に向かった。あそこには、 意思 、空間を捻じ曲げるとかいうよくわからない能力を持つ腕輪があったはず。ただその前に、北の村に行って大剣を取っていきたい。
魔法都市の城門から出発して、走って30分くらいするとあっという間に北の村が見えてきた。魔法都市と比べると小さな、門だけの村の入り口から僕は中に入る。
村の入り口からすぐの中央通りは屋台がずらっと並んでおり、なんだかおいしそうな匂いがしていた。……ここっていつもお祭りやってない……? まあいいけど。とりあえず、僕は屋台を眺めながら中央の方にあるバザー会場へと歩いて行った。確か祭りの景品だったような……。
「……祭りの賞品は本番まで見せることはできません」
僕は屋台で買ったカステラの袋を小脇に抱えて村長に話を聞いた。まあそうかもしれないけど……。見せてもらうのが駄目なら、譲ってもらうのってもっと駄目そう……。諦める? 一応聞いてみよう。
「えーっと、困ってることとかありませんか?」
「いえ、特には。さっきも『賞品を見せてくれ』と同じようなことを言ってきたおかしな人たちがいましたが、お断りしました」
「おかしな人たち?」
「ええ、顔が青かったり、角が生えていたり、体長3メートルを超えていたりと」
「……人……?」
さすが村長だ、全然動揺していない。……あれ? そこまで変なことでもないのかな? この世界では僕は人族以外あんまり見たことないんだけど、異人系の種族もいるのかも。
お引き取りください、と言う村長にお礼を言って僕はその場を退出した。駄目ならしょうがない。お祭りを見て、すぐに雪の都に行こう。
その後、ベンチでホーンラビットの串焼きをもぐもぐ食べていると、何やらドッカンドッカン遠くの方でおかしな音が聞こえてきた。……なんだろ?
なんだか気になったので、串焼きを片手に音のする方を見に行ってみると。さっき村長が言っていたおかしな人たちがいて。さっき僕が訪れた村長の家の隣にある、倉庫らしきものの扉をハンマーや剣でぶっ叩いていた。でも扉は魔法でも掛かっているのか、なかなか壊れない。しばらくして村長が家から出てきて、その光景を見て顎を一撫でし、感嘆の声を上げた。
「ほう……」
さすが村長、全然動揺してない。……え、これも別におかしいことじゃないのかな? ああやって倉庫の扉を武器で叩くと攻撃力が上がるとか、全員若いからこれが一人前になるための儀式とかなんだろうか。そんなわけない……と思うけど、ここの文化がわからないし。あれだけ村長が落ち着いてるんだ、きっとそうだろう。
僕が彼らを見守っていると、村長がゆっくり歩いてこっちに近づいてきた。僕らは2人で並んでその儀式を眺める。彼らは果たして成功するんだろうか。頑張っていただきたい。……すると、隣から落ち着いた声が聞こえてきた。
「今、困っています」
「ん?」
「あれは強盗です」
「どうしてゆっくり眺めてるんですか!?」
「あなたも眺めていたじゃないですか」
「私を共犯にしないでください!!」
僕はともかくお前は眺めてたらあかんやろ。なにゆっくり歩いてきてんねん。今年の稲の出来具合はどうかな? みたいな顔で見守りおって。
とりあえず、僕は儀式に挑む若者改め強盗3人組の後ろに立ち、呼び止める。
「待ちなさい。強盗行為はやめてまずはこっちを向きなさい」
ところが、3人組はちらりとこちらを見て、再びドッカンドッカンと扉をぶっ叩く作業に戻った。
「何も見なかったことにして祭りの買い食いに戻るなら、俺達はお前に何もしない」
僕が買い食いをしていたことをなぜ知っているんだろう。ひょっとして村に入ったときから監視されていた……? 強盗かつストーカーなの? 僕はなんでこうストーカーに縁があるんだろう。しかし並の監視くらいなら気づくはずだけど。
「私は見なかったことにしないし、邪魔もします」
「マゼイド、その娘をちょっとの間黙らせろ」
その命令を受けて、強盗3人組のうちの1人、3メートルを超える体格の大男がこっちを向いた。……ん? 僕は首を傾げて素直に疑問を口に出した。
「あの、この人って力持ちっぽいんで倉庫を壊す側に回したほうが良くないですか?」
「なるほど、お前いいこと言うな。よし、じゃあデニス行け」
そして次に青い顔の男性が僕の方に向き直る。その時ちょっと後ろから視線を感じたので僕もチラッと後方を確認すると、村長が顎を撫でつつ僕の方を見ていた。……絶対、「何アドバイスしてんねん」って思ってる……。いやだってさ、素直に聞くとは思わないし……。
「お前に恨みはないが、死んでもらう」
「さっきの人の命令は『ちょっとの間黙らせろ』でしたけど、そのへん大丈夫ですか?」
「……」
青い顔の男が、角の男を困ったようにちらりと見る。なんだろう、この人たち頭がとっても悪そう……。真昼間に犯行に及んでることからしてもそうだけど。そして3人組……もしかして。外れておいて、お願い。
「あなた達、ひょっとして魔王軍の幹部ですか?」
「!? なぜわかった!?」
駄目だこの人たち。たとえそうであってもすぐ認めるなよ。僕は心の中で涙が止まらなかった。……そうか。僕がいた魔王軍ってまともだったんだ。……でも待てよ。うちの方も部下とおやつの区別がつかないのが何人かいた気がする。話し合いができるという意味ではこっちの方がましなのかな……? いやまさか。絶対僕たちの方がまとものはず。僕が代表してそれを証明せねば。
「なぜここを狙うんですか? そしていつから私を監視していたんですか」
「いや、監視なんてしてないが……?」
「ではなぜ私が買い食いをしていたことを知っているんですか? 矛盾したことを言わないでください」
そう言いながら僕は手に持ったホーンラビットの串焼きを相手に突きつける。……ん? あ、なるほど。僕は串焼きをごそごそと袋にしまった後、改めて彼らを問い詰めた。
「そんなことより、さっきの質問に答えなさい。なぜここを狙うんですか?」
「なかったことにした……」
「なかったことにしたよな……」
「なかったことになんてならないのに……」
「もう!! 3対1なんて卑怯ですよ! とにかく倉庫を壊すのを止めなさい!!」
話し合いではうまくいかなかったので、僕たちは倉庫脇にある空き地に移動する。ふむ、3対1か……。どうかな。№7が腹パン1発だったけど、あれって不意打ちみたいなもんだしね。
僕がぐるぐると腕を回していると、角の男が両手を上げて言った。
「待て、誤解がある。俺たちはただここに神器がないか確認できたらそれでいいんだ」
「神器はないですよ、って言っても納得しないですよね。当然」
「まあな。それで、見せてもらいたいんだよ。確認して、なければ帰るさ」
「うーん……」
相手との力関係がわからない以上、見せるだけで帰るならそれが一番いいのかな? 僕が村長の方を見ると、彼はふむ、と顎を撫でた。
「あの倉庫は特殊です。というのは、中は魔法で拡張されてまして。この村の半分くらいの面積がありますが、その中に広がる全ての品を確認されますか?」
それを聞かされて、彼らと僕は大いに動揺した。平和的解決が……。それにしても、魔王軍幹部3人がかりで壊れなかったことといい、この倉庫オーバーテクノロジー過ぎない?
「お、おい。どうするんだよ……」
「私に聞かないでくださいよ……わかるわけないじゃないですか。あ、そうだ。神器の見分け方ってなんですか? 何か見分ける機械みたいなのがあって早く終わるならなんとか」
「魔王様が描いた絵がある」
「絵なんだ……。すみません。ちょっと見せてもらっていいですか?」
「おう、これだ」
角の人は素直に渡してくれる。僕が破ったらとか考えないのかな? まあそんなことはしないけども。どれどれ……。
僕が紙を広げると。そこに描いてあったのは、なんだか歪んだ形のおにぎりみたいな何かだった。
「あの、これってどの神器なんですか……?」
僕は一応5つ全ての神器を知ってるけど、その中にこんな形のはなかった気がする。ひょっとしたら彼らは違うものを探しているのでは。例えば床に2回落としたおにぎりとか、そういうやつ。
「 意思 だ」
「ああ~なるほど……、はい、そうですよね。そういえばこんな形だった気がしてきました」
この人たちがこの倉庫を探しても神器を見つけることは絶対にできない。色んな意味で。というかこれ今わかったけど、この世界の魔王軍っていうか魔王がそもそも駄目なんだたぶん。僕は元通りに紙を折って、角の男に返した。すると、相手はちょっと顔をこわばらせる。
「待てお前、形を知ってるのか。しかも、どの神器、だと? 全部知ってるのかよ」
あ、しまった。角の男に、そのまま肩をがっちり掴まれる。
「いや、実はこの絵で探すことに限界を感じててな。手伝ってくれないか? もちろん礼はする」
「嫌です」
「なんでだよ。本当に困ってるんだよ」
えーっと、どうしよう。とりあえず適当に誤魔化すか。
「私、倉庫の扉を剣やハンマーで殴る人が嫌いなんです」
「なぜそんなにピンポイントなんだ」
「いえ、他にもたくさん嫌いな人の種類はありますけど、その中の1つがたまたまそれだった、それだけですよ。たくさんありすぎて誰でもたいていどれかに該当しちゃうんです。だから会う人はみんなだいたい嫌いです」
「お前見た目によらず闇が深いな」
「どうも」
しかしどうしたものか。この人たちをどこかにやらないと僕は 海鳥 を村長からもらえない。どこかにやるには、本当にある場所を教えてあげたらいいんだけど、それは駄目。ここにないのを納得してもらう方法……?
「あ」
「なんだ」
「私、実は占い師なんですけど」
「ほう珍しいな。大変だろう」
「どうも。それで、占いによるとこの倉庫にはありませんね」
「お前いつの間に占ったんだ」
「本当に凄腕の占い師は、客に気づかれないうちに占いをすませるものなのです」
絶対違うと思うけどまあいいだろう。別に占い師の知り合いもいないから適当に言っても……あ、1人いたっけ。また謝りに行こう。
そして僕は3人やその武器をちょんちょん、と触る。何か、何か手掛かりはないか。ここからどこかに向かわせる理由が何かあれば、それが合っていれば、僕の占いもある程度信用はされるだろう。
一方、角の男は何かを頷きながら納得していた。何を理解したのかはわからないけど、たぶんそれ違うと思うよ。
「最近は占い師にも速さが必要なのか。せわしないな」
「このご時世ですし当然ですよ。それで、占いによるとですね。あなたの剣って地属性の魔法剣ですよね。倉庫の結界と相性が悪かったらしく、かけてある魔法の綻びがヤバいです」
「なんと」
触ったら『し、死ぬ……』って声がかすかに聞こえたから。というか僕の能力は武器の心も読み取れるのか。初めて知ったけど。
「……それでですね。魔法都市の表通り、西側の端の方にトアって子がやってる武器屋があるんですが、そこに相談するといいと思います」
「最近の占いはいやに具体的だな……」
そして彼ら3人は魔法都市の方へ向かって去っていった。……去っていったふりをしただけなんじゃないかと思い、しばらく僕は彼らがいなくなった方向を見つめていたけど、帰ってこず。……よし。
「ふう。なんとか追い払いましたよ」
「ありがとうございました。感謝いたします」
そう言って家に戻っていこうとする村長の肩を僕はがっしりと掴む。絶対そうくると思った。こういう人には直接言った方が早い。
「お礼をください。具体的には、倉庫の中にある武器を1つ頂きたいんです」
「ほう……もし嫌だと言ったら?」
「あの3人が戻ってきたら、『村長の家を更地にしたら神器発見に一歩近づく』という占いが出ちゃうかもしれませんね」
「差し上げましょう」
村長はあっさりそう言って、倉庫の鍵を開けた。
「ただし自分で探してください」
僕が倉庫の中に入ると、そこはごっちゃごちゃに剣やら盾やらが積み重なった棚がひたすら並んでいた。なんか昨日もこんな光景見た。え……この中から?
……いや待て、 海鳥 は僕の愛剣だ。なら呼び掛けたら返事くらいしないかな? さっきの剣みたいに。なにせこっちは魔王様の創った武器なんだし。
そして僕は、おーい! と倉庫の中に呼び掛けたあと、しばらく耳を澄ませてみた。けど何も聞こえなかった。……やっぱり駄目? さすがにこの中から探し出すのは無理だし。
しかし、諦めかけたその時、左の方から何かがちりちりと僕を呼んでいるような気がした。……これは! ひょっとしたら!
そして、そのちりちりの発生源の棚まで僕はやってくる。そこは小物ばかりが積まれていて、大剣がありそうにはなかった。でもまずは、このちりちりの正体を、確認してみよう。僕は上から小物を手に取り、確認しながら横にどけていった。
そうしてしばらくたって、棚を発掘した僕の目の前に、1本のシンプルな絵筆が現れる。……あれ? これってひょっとして……。
僕の脳裏に、ゲーム内でスパイとして活動していた時に行った魔王城が蘇る。そこで会った魔王の彼女は、自慢気にこの筆の存在について話していた。その性能の恐ろしさも。そう、これは僕らの魔王様の主武器の1つ――。
「…… 水彩画家 ……?」
『あら、少年? 少女? どちらかしら……わたくしのこと、ご存知なのね。……よかったら助けて下さらない? その代わり……あなたの望みが叶うまでは、わたくし、お力になりましてよ』
(知らなくても問題ないけど参考)水彩画家
初出:「ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった」
第69話『コレクターは自分の趣味のことならよく喋る』後半
ただしこれはあくまで魔王が使用した際の効果
これで味方陣営はほぼ出揃ったはず。味方の8割がこれまで出てなかったってどういうことなの……。ただ、そもそもだとゼカさんは存在していませんでしたけど。まあいいか。
話が無駄に長いのは良くないなぁ、と思うので、その辺りを改善していきたいです。私が書いてるだけあって、私が読み返したらいつもとても楽しいんですけれど。あまりよろしくない気がします。




