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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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1051 さりげなく、何気なく

――真っ暗闇。

目を開けても閉じても、同じ暗闇の中、小さく息だけをする。

「……オレ、何をしてもダメなんだ」

首を縮こめ、なるべく小さくなった。

深く重い溜め息が、小さな唇から零れ落ちていく。

「存在するだけで、もはや功績が生まれてきてしまうのかもしれない……」

『主ぃ、それはただの自慢なんだぜ!』

『中々比類なき自信家ね』

すかさず突っ込んでくるセリフを聞き流し、鬱々と目を閉じる。

「もう……このまま黒く溶けて一体化してしまう方がいいかもしれない」

「やめろ。迷惑だ」


暗闇にきっぱり拒否されて、すっぽり埋めていた顔をまふっと持ち上げた。

「人が落ち込んでるのに!! もうちょっとタイミングよく、なぐさめてくれてもよくない?!」

何回もあったよね?! 『そんなことないよ』とか『気にする必要ないよ』とか、分かりやすく言えるタイミングがさ!

……まあ、ルーにそれを求めたオレが馬鹿だったけれど。

でもさ、ちょっとくらいできるでしょう?!


大いにむくれながら、たっぷりした首周りの被毛に顔を擦り付けた。

頬を撫でた毛並みが、柔らかく首元を滑っていく。

オレの体温でだんだん温かくなっていく被毛が惜しくて、少し位置を変えた。

ほんのり冷えた表面の黒に、改めて顔を突っ込む。

ひやりとした毛並みが、オレの温かい肌にとりわけ艶やかに感じる。

不貞腐れていた気分が、みるみる丸く溶けていく。

思い切り顔を埋めて、両手を被毛の下へ潜り込ませた。


……温かい。

ルーの体温を感じる位置で、全身をこうして埋めていると、本当に溶けて一体化しそう。

すう、はあ、漆黒の中で大きく息をして、ごろりと体勢を変えた。

途端、するする背中から滑り落ちて、地面からルーを見上げた。

外気に触れた顔から、段々ルーの温度が抜けていく。

もっと顔をよく見たくて、もそもそ移動して勝手に前脚を枕に寝転がる。

……ちょっと、枕には高いし固いけれど。


でも、特等席だ。

一見柔らかそうな、絹糸のようなヒゲが見える。

意外とふわふわ丸い、下あご。

滑らかに続く、太い首とゆったりしたタテガミのような被毛。

ごうごうと、オレの体内まで揺らすような重低音がそのあたりから響く。

金色が見えないのは残念だな、と、じいっと見上げていた。

 

「……」

微かに、ピッと動いた耳が見えた。

大きな獣は、僅かに顔を傾けて――見えた、金色。

ばちりと合った視線に、思わず満面の笑みを向ける。

途端、枕に弾かれた。

ビシッと跳ねのけられて、軽々浮いた体を宙で立て直し、すたっと着地。


「ちょっと?! なんで放り出すの!」

「邪魔だ」

「ルー動かないのに、なんで邪魔なの!」

まあ……大分癒やしは得られたからいいけども。

素知らぬ顔をする神獣に頬を膨らませ、仕方なくその脇へ背中を持たせかけて座った。


「はあ……これから、妖精さんたちとも交流が始まったら……絶対大事になっちゃうよね」

「当たり前だ」

「そうだよねえぇ! だって基本人に見えないもんね?! どうしようかな、なんて言えば誤魔化せるんだろ」

むしろ、言う必要あるだろうか。見えないんだから、誤魔化せるかもしれない。

「そうだよ、単にミニチュアを作っているということにすればいいよね! うん、お守りの線がいいかもしれない!」

マリーさんが言っていた案だ。剣のお守りがあるなら、ドレス型のお守りがあってもいいだろう。


『普通の服はどうするのよ』

『主ぃ、そーいう誤魔化しは、バレた時に倍怒られるんだぜ』

それはそう……。チュー助の経験がありそうなセリフに首を竦める。

「じゃ、じゃあ王様とかガウロ様だけに言うってことで……」

そうだよ、妖精さんたちが内密にって言ってることにすればいい。そもそも隠密状態で行動しているんだから、あんまり堂々と人間側とやり取りしたくないに決まっている。

ヴァンパイアの件も、徐々に進めようということになっているし。


少しスッキリした顔で頷くと、木漏れ日を見上げた。

「こういうことは、急激に推し進めるとよくないよね! 徐々に、徐々に何世代にも渡って浸透させていくのがいいと思うんだ!」

具体的には、オレの没後で。国の政策なんて、そういう長期プランでやるものだしね!

ぐっと拳を握ったところで、ルーが鼻で笑った。

「お前以外、誰が妖精とやり取りするんだ」

「……あ。え、えっと……王様、とか?」

確か、王様は妖精が見える人のはずで……。

「商取引を王にさせるのか」

……がっくりと項垂れた。

無理……かなあ。世の中には一般人とお味噌汁を作る王様とか、一緒に魔物を討伐するお姫様がいるわけですが。


ぱふっと後頭部をルーに預け、ぼうっと湖の波音に耳を傾ける。

「……まあいいか。なんかこう、他の功績に混ぜ込めばバレないかもしれないし!」

きっとまだ、ミニ武器などの案は伝えていないはず。その時に、ちらっとさりげなく、何気なく、爽やかに付け加えればいい。

そう、オレが今から帰って伝えるのも、それでいこう。

「あとは……そう! 誤魔化せるもの! 行くよっ、キッチン展開!!」

勢いよく跳ね起きたオレに、ルーがビクっと僅かに毛を逆立てた。


「何がいいかな……」

カロルス様のご機嫌をとるためのお肉? それともエリーシャ様たちが喜ぶスイーツ? いやいや、ここは魔お……執事さんのためのおつまみ?

……執事さんだけは、きっと懐柔できないな。オレは乾いた笑みを浮かべながら、誤魔化し作戦に使えるものについて頭を悩ませた。



――ちら、と満足気な顔をしているカロルス様を見やった。次いで、ぼうっと空になった皿のソースをつついているセデス兄さん、執事さんと真面目な話をしているだろうエリーシャ様。マリーさんは、まあいい。

よし、ここだろう。

にっこり笑みを浮かべて、席を立つ。

「ねえ、デザートがあるんだけど、どう?」

「おお、いいじゃねえか!」

「まあ、何かしら?!」

即座に反応した面々にほくそ笑み、さっとブツを取り出してみせた。


「えっ、お菓子って……言ったわよね?」

「なんだそれ、食えんのか?」

「まああ、ユータ様、かわいいです! とっても!!」

「かわいいけども……僕、デザートを期待したよ?」

ふふ、想定内の反応だ。

オレは恭しくそれをテーブルの中央に置いて、得意満面で紹介する。


「これは、れっきとしたお菓子だよ! 別に新しいものじゃなくって……主にクッキーだけどね!」

お菓子の家、って言えばいいかな? そんな本格的なものじゃないけど、お皿の上にはかわいらしいクッキーハウスが乗っている。

「クッキー?! ええ、すごい! 食べていいの?!」

「た、食べ、食べ……?!」

「す、すごいわ?! でも、こんなかわいいの食べちゃうのが――あっ」

「おー、本当だな? クッキーじゃねえか、すげ――おい?!」

ひゅう、と剣を振るような音がした。

即座に扉を剥がして食べたカロルス様を、しなやかな脚が両側から襲う。

のけ反り、飛び退いたカロルス様を尻目に、エリーシャ様とマリーさんがさめざめと泣いている。


「だ、大丈夫、また作れるから! これは、食べるためだから、ね? ほら、エリーシャ様も『あーん』」

煙突を分解して差し出すと、とても複雑な表情でサクリと食べてくれた。あの、マリーさんもどうぞ。

涙しつつ『あーん』を受けてくれた二人は、その間にセデス兄さんに屋根を食べられて諦めてくれたらしい。

みんなが各々クッキーハウスを分解していく中、オレはにこにこしながら話をする。

「かわいいお菓子の家でしょう? ちっちゃくてかわいいよね。まるで妖精さんの家みたいで――あ、そうだ」

ポン、と手を打つ。

「チル爺たちが、ぬいぐるみの服を気に入っちゃって。妖精さんたち用に作る話になったんだ! 日用品とかも必要かも。ぬいぐるみパーツのついででいいよね」


さりげなく、とても自然に会話に混ぜて、クッキーを口に運ぶ。

さくっと頬張った音は、随分大きく響いた。

……賑やかだった食卓が、急に時が止まったよう。

ひやり、と冷たい背中に、口の中のクッキーを飲み込んだ。

「ユータ様? 詳しく、聞きましょうか」

「は、はい……」

ぽん、と肩に乗った手は、随分と重たく感じた。

 


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ついに20巻!お祝い感溢れる表紙が目印です! 今回はランキング結果あり、書下ろし特別編もあり! 奥付のQRコードで抽選プレゼントがありますのでお見逃しなく?!
今回も最高~のイラストですよ!!

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― 新着の感想 ―
い、勢いは良かったよ!グレイさんの冷気が想定より強かっただけ!ドンマイドンマイ!
誤魔化しかたが雑〜〜!(>0<)
そりゃあ誤魔化せないよね。特に執事さんは年季が違うっしょ(^_^)
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