1049 ユータ加工
……なんだか、ものすごくうるさい。
妙な臭いもするし、すごく寝苦しい。
『よくそんな所で寝ていられるわね……』
顔の上で跳ねているのは、モモだろう。
ごろり、寝返りをうった途端、ゴツゴツのベッドがなくなった。
「お、ユータ起きたか?」
落下の感覚にばちっと目が覚め、次いで無造作に掴んでぶら下げられたことに気が付いた。
「……落ちる前に止めてよ……」
タクトに下ろしてもらって、振り返る。
一体オレはどこで寝て――。
「なんでこんなところに寝かせたの?!」
ざっくり積み上がった鉱石の山に、愕然とする。
同時に、ここがどこか気が付いた。
「お姫様、起きた? いやあ、工房ってどこもきったないからさあ。そこが一番きれいかなって」
サヤ姉さんが、快活に笑って鉱石を持って行く。
適当すぎる……汚れの有無より、オレは快適さを優先してほしかった。
「お前が寝てるからだろ。こんなうるせえとこでよく寝られるな」
金属を打つ音、騒音に負けまいと張り上げる声。
確かに、飽和状態の音は、タクトの声も行方不明になりそう。
でも、甘いね。人間の脳っていうのは、一定以上の騒音レベルを背景ノイズ化する素晴らしい機能があるから。むしろ全てが均一化されて、静寂にも似た――
『そうかしら……普通にうるさいわよ』
『俺様、眠れない~!』
……そうか、もしかするとモモやチュー助は人間ではないから、かもしれないね!
胡乱な視線を躱して、そろそろ夕方になろうかという窓の外を眺めた。
「素材は足りたのかな?」
「足りたんじゃねえ? あんだけありゃ。支払う金が足りなくなるわ! って喜んでたぞ」
そ、そう。喜んでたなら、まあ良かった。
忙しそうな職人に混じって、嬉々として何かしている加工師もいる。
以前来た時よりも、さらに工房内全体が雑多なのは、忙しいからだろう。
足元に転がっている鉱石の欠片を拾い上げてみる。
「小さいのは、もう使えないのかな」
「らしいぜ。キンイツカがどうとか、質がどうとか」
適当なタクトの返事に、もったいないなと眺めた。
「お前も起きたし、なあ、俺帰っていいか?」
「ダメだよ、誰がラキを連れて帰るの」
言いながら、ラキの真似をして加工を試みる。
あんなに何気なくやっているのに、これが――難しいのなんのって!
もう、魔法を使わない方が簡単なんじゃない?
「なんだそれ」
退屈そうな顔で、タクトがオレの手の平に載った物体を摘まみ上げた。
「剣だけど?!」
「ちっせえ~。なんか歪じゃね?」
しょうがないでしょう、素人作なんだから。
「やだ、何これかわいいー! ねえ、これちょっと整えてもいい?!」
「え、もちろん……」
また鉱石を補充に来たサヤ姉さんが、オレ作の剣を見てきゃっきゃしている。
ああ、ミニチュアって結構人気あるもんね。
サヤ姉さんは職人の顔で炉の前へ行くと、小さなハンマーでカンカンやっては熱している。オレの適当な手慰みが……むしろゴミが、職人さんに打っていただく羽目に。
「見てー! どう、かわいくない?!」
「わあ、本物だ! 柄とかちゃんと作れば本格的なミニチュアになるよ!」
「うっふふっ、妖精さんに剣士がいたら、御用達ね! 結構楽しいじゃない、すぐできるし。あ、でも研いでないうちは切れないし、折り返しとかやってないから。形だけね」
形があれば十分! これ、もしかして……。
そっと取り出したオレぬいぐるみに、きゅっとくくりつけてみる。
「ふふ、カッコイイじゃない。本格派だね」
「お前は短剣だろ? 俺に握らせてやれよ」
「えー。まあいいけど……。ラキに、もっと作ってもらおうか!」
形だけなら、わざわざ鍛冶じゃなくてもいいはずだし。
「――へえ、面白いね。小さい造形って技術が試されるし」
加工師の目が、きらりと光る。
あの、そんな本格的なものではなくてですね。形があればいいっていうか……。
だけど、ラキはオレの短剣をまじまじ観察すると、じっくり、じっくり鉱石を形にしていく。
「わあ、そっくり!」
「全部金属だから、印象違うけどね~。できれば柄部分は木を削り出して、皮で~」
「これで大丈夫ですぅ!!」
さっと作ってもらった短剣を頂戴して、オレぬいぐるみに持たせてみた。
『俺様、ぴかぴかの鋼ボディー! どんな姿でも俺様はカッコいいぜ!』
『おやぶ、強そう!』
はしゃぐチュー助にくすりとして、ふと思う。
えーと。もしかして、これ、新たな商売になったりなんかして……。
「見て~! ユータくん! こんなのも作っちゃった! これ、今私が担当してる剣でね、矢じりでね! やだ、小さいだけでどうしてこんなかわいいのぉ?! これは、ユータ加工と名付けて――」
「やめてぇ?! オレは関係ないから!」
「なんでよ、ユータ君がやったんでしょ? ちっちゃ剣のユータなんて異名がつくかもよ?!」
そんな嫌すぎる異名はお断り!
「オレじゃないから! これは……そう、ロクサレンが! ええと、ぬいぐるみのパーツとして……その~」
慌てて身代わりを置いたものの、この件ってどこまで話していいんだろ。もう販売開始していたっけ。
「まだ詳しくは言えないんだけど、ロクサレンが手掛けている事業があって――」
「ええっ! このちっちゃ剣とか武器コレクションが出るの?! じゃあじゃあ、あたしも制作陣に入れてよ! ユータ君、推薦しておいて!」
「ま、まだそんな段階じゃないんだよ!」
「いいのよ、そんな段階になってからじゃ遅いし。いいこと聞いたわ。ロクサレンに間違いなし、よ! 乗るわよこのビッグウェーブ!!」
ど、どうしよう。ものすごく乗り気になってしまった。あと、何その格言みたいなの?!
……ひとまず、この件は執事さんに任せよう。
その後、張り切っていくつかの武器を仕上げたサヤ姉さんが、そのままサンプルとしてお土産に持たせてくれた。
「――あの、これも……一応、一応ね? ぬいぐるみ事業に関連するかなって思って」
頭を抱えて項垂れるカロルス様とセデス兄さん、小さな武器にきゃっきゃしているエリーシャ様とマリーさん。
そして、急遽王都までお越しいただいた執事さん。
「そうですね……間違いなく、これも良い事業となりそうです」
にっこり微笑む執事さんとは裏腹に、カロルス様とセデス兄さんがぬああ、なんて奇声を発している。
「本当、これは喜ばれるわよ! ぬいぐるみは女性・子ども向けだったけど、これならイケるわ! 自分の剣をモチーフに作ってあれば、男性向けにもアリよ!」
「マリーは、お守りや恋人に送るなんてロマンチックな使い道も素敵だと思います!」
「いいわ、それすっごくいいわね!」
「ミスリル等の高級素材も、この大きさならば……。貴族向けに宝石を埋めたものなども――」
……わあ、盛り上がっている。
危なかった、どこに功績の種が転がっているかしれない。せめて、オレの名前は前へ出ないようにしなくては。
ふう、と危機を逃れた安堵に浸っていると、ひょいと持ち上げられた。
「お前ぇ~大人しくしてろって、ガウロに言われたトコだろが! また功績になるだろが!」
「大人しくしてるよ?! まだ分からないよ、単なる商売で落ち着けば、功績にはならないはず!」
「でもさ~、僕思うにこれ多分、王様とかに宝剣とか作ってまず納めなきゃいけないやつじゃない……? そうするとまた……功績カウントが!」
うっ……。ま、まあその程度の功績なら、そっともみ消すこともできるんじゃないだろうか。ガウロ様の手腕に期待しよう。
ひとまず、難を逃れたオレはスッキリした顔で、カロルス様へエールを送ったのだった。
功績、とは……。






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