1048 冒険のあとは
そろそろ、声をかけた方がいいかな? ちらっと振り返った先で、シロが顔を上げた。
「ココ博士、まだ寝てるかな?」
『うーん、起きるかな? どうかな?』
疲れたんだろう、彼はシロに包まれてうつらうつらしていた。
『まるで他人事のような言い草ねえ』
まふまふ揺れるモモが、余計なことを言う。……しょうがないよね、だってこんな冒険は初めてかもしれないんだし? 今こうして寝ているってことは、オレたちには全幅の信頼をおいているってわけだ。
『俺様多分、こんな冒険は大体の人が初めてだと思うんだぜ!』
それはきっと、いい事だよね! きっとココ博士の冒険心をしっかり満たしたに違いない。
「ユータ! 腹減ったんだけど! ココ博士まだ起きねえの?」
せっせとラキと解体作業を強制……勤しんでいたタクトが、血みどろでやってきた。
不潔! 食事をするところに、そんな恰好で!
サッと洗浄魔法をかけて、臨時解体場に目をやった。
うん、ラキは相変わらず楽しそうに解体している。食事をとるかどうかも怪しい。
「もう起きてもいい頃だと思うけどね」
「これ以上待つと、夕食になるって! ココ博士~、飯食おうぜ!」
タクトの声に、ココ博士のまつ毛が震えた。
スン、と鼻をひくつかせたのを見て、さっとハンバーグを取り出してみる。
「ほぉーらココ博士、おいしいごはんですよー!!」
やはり、子どもにはこれが一番だ。
きっとお腹が空いていたんだろう。ぱちっと目を開けたココ博士が、目の前のハンバーグにビクっとして、次いでオレとタクトを見て、周囲を見回した。
「ごはん……? こ、これは……? あれ? 僕また夢を見てるのかな……」
「大丈夫、夢じゃないんだぜ! ユータがやりすぎただけだ!」
にかっと笑うタクトを肘で突いて、努めて慈愛に満ちた顔で微笑んでみせる。
「ココ博士は起きてるよ! これはね、ココ博士の冒険……じゃなくって、えっと……そう、オレたちとの共同作業を記念したパーティだよ!」
「パーティ……外で? こんな森の側で? あの、魔物が来ますけど……」
「来ないよ、大丈夫! ココ博士に塩コショウしてタレを揉み込んだ上でお皿に乗せておいても大丈夫!」
なんなら副菜をつけてもいい。自信満々に宣言したオレに、ココ博士はうまく呑み込めない顔をしている。こんなに分かりやすく説明したのに。
森の中ですら、魔物を見ずに出て来たって言うのに、こんな広い草原で遭遇するわけないんだよね。
オレたちの周囲には、管狐シールドがあるんだから。
『主ぃ、シールドはさあ、身を守るためにあるんだぜ!』
『これは守備と言えるのかしらねえ……私のシールドもあるのだけど』
攻撃は最大の防御って言うからね! まさに攻撃全振り、ラピスたちのためにあるような言葉だ。……だって、森を出るまでの短い間では、火が付いたばかりのラピスたちにブレーキがかかる気がしなくて。しばらく、魔物の間引きでもしておいてもらわないと。
「とにかく、ここは安全なの! さあ、色々用意したよ! ココ博士は毎日のように唐揚げを見てるんだから、唐揚げはもういらないよね? 色々魔物のハンバーグと、シチューと、グラタンと、オムライス! エビフライはないんだけど……」
お子様大好きメニューにすれば、どれかは当たるだろう。とにかく、ココ博士に素敵な締めを用意しておかなくては。
ぽかん、と口を開けた彼が、どんどんテーブルへ追加していく品々に目を回しそう。
「あの……もう一度寝てもいいです? 僕、変な光景が見えるんです……草原に大きなテーブルとご馳走が……圧倒的におかしさ爆発の素材が使用されたご馳走が……いや素材よりも諸々が……」
「変じゃねえよ、ユータの通常だから。夢でも何でもいいから早く食おうぜ」
「もう、タクトはラキを連れて来てよ!」
いいからいいから、とテーブルに着かせ、力づくで連れて来られたラキに洗浄をかけておく。
「え、なんで今日はこんな豪華なの~?」
「すげえ! 待ったかいがあるな!」
「記念だから! ココ博士との! さあ、いいから食べよう!」
さあ、いただきますだ。
「おいし~! このハンバーグ、適当な魔物の合わせ技でしょ~? すごいよね、魔石に大した価値ナシ、素材も採れないようなクズ魔物にも、こんなおいしい価値があるんだから~!」
うんまあ、その言い方はアレだけども。でも、何にもならずに捨てられるよりはいいってものだ。多分。
「すげえよな、魔物って死んでもいろいろ価値があるもんなー! 俺なんか死んだら無価値なのに! 焼くだけで食えもしねえし。あっ、魔物に食われたら同じことか!」
「素材にもならないもんね~勿体ない」
ええと、まあそれはそうかもだけど。勿体ないって視点はなかったな。うん、確かにね。でもあんまり食事時に聞きたくはないかな。
オレたちの食べっぷりに、ココ博士も慌ててカトラリーを手に取った。
そう、誘惑のままにしっかり詰め込んで。お腹に隙間なく詰め込んだら、頭もいっぱいになるから。余計な事なんか、美味しいものに押し出されて忘れちゃうから。
ココ博士は素材を前にしたラキのような顔で、そうっと黄色の塊にスプーンを差し入れる。柔らかい、と感嘆の声が漏れた。
「あ……本当だ、卵だ」
とろり、絡み合う柔らかな卵とケチャップライスの境目。上手にすくいとったココ博士が、慎重に口の中へ運んだ。
「――っ!!」
うむうむ。オレはしっかりとその顔を確認して、シチューをふうふうやり始めたのだった。
「――寝るの早えーな! ユータ並みだ」
「オレまだ起きてるけど?!」
「でももう寝るでしょ~?」
そりゃあね? デザートまでしっかり堪能して、お布団ふかふかのシロ車にのったら、あとはもう、神のみどころか全人類が知っているよね。
気持ちの良い寝息を聞いていると、オレのまぶたはいつもの倍速で落ちてくる。
ふかっと布団に体を預けると、夕日の中であくびをするタクトが見えた。
「……寝ないの?」
「んー? まあさすがになあ」
「寝てもいいよ~。僕、素材を堪能するのに忙しいから、起きてるし~」
「いやお前、それ起きてても何の役にも立たねえよ?!」
「確かに~」
そんな二人の会話を、聞いたような、聞いていないような。
ほっぺたをなでていった風が、少し冷たい。
ふわ、と掛けられた布団の重みに満足して、オレはしっかりそれを引き上げて、おひさまの残り香を吸い込んだのだった。
いつも通りでも、やっぱり必要かなと。
プールの後とか、疲れた体にあのお布団の心地よさといったら……!
感想いつもありがとうございます!私の楽しみです!
お返しできなくてすみません……その代わりその時間で絶え間なく書きます!!!






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