1045 得てしてそういうもの
揃って覗き込んだ店内で、細身の男性が酒瓶を確認している。
多分ガウロ様幼少部隊のおかげで、きちんとした見目を維持しているんだろう。若干アングラ感の漂う見目が、一定人気を得そうな……でも、きっと中身がヘタレだからダメだね。
オレの失礼な思考がバレたわけでもないだろうに、彼はふいとこちらに視線を向けて、二度見した。
「げ、お前ら……」
慌てて周囲を見回す彼に、くすっと笑って首を振る。
「シュランさん、久しぶり! 大丈夫、カロルス様はいないよ」
どうやら相当トラウマになっているよう。
「店、めっちゃ繁盛してんな! やっぱ唐揚げは最強だもんな!」
「俺の店は酒屋なんだが……」
そんなことを言うシュランさんだけど、夜は夜ではやっていると聞いている。
ラキ特製の高級塗りが映えるムーディで落ち着いた店内は、大人の男女に大変人気なんだとか。騎士隊長のローレイ様が行きつけだということで、結構騎士の利用も多いらしい。おかげでシュランさんは酔っ払いにならないし、治安も良くなってWin-winだ。
「酒屋じゃなくて、情報屋に用事があるんだけど~?」
ずい、とカウンターに身を乗り出したラキに、シュランさんもにやりと笑う。
「ほう? どんな情報だ? モノによっちゃ値が張るぜ?」
「あ、やっぱりお金は取るんだ。それならギルドで聞こうかな」
「はあ?! ギルドで聞けることを俺に聞くなよ?!」
それはそう。でも、ついでと言えばついでだったもので。
「今魔物が多い森って、どこなんだ? ギルドで聞いてもいいんだけどさ、止められたらめんどくせえし」
唇を尖らせたタクトに、シュランさんが胡乱な目を向ける。
「その年でCランク越え、止められねえだろうよ……。少なくとも、王都ではなぁ」
「へえ~さすがに知ってるんだ~」
「てめえらに目ぇつけたのは俺だからな! 当然よぉ!」
得意げなシュランさんだけど、本当どうやって情報集めてるんだろう。Cランク程度なら相当数いるはずなのに。
『「黒髪の幼児」なら一発じゃないかしら?』
『Cランクのちびっこトリオは他にいないんだぜ!』
確かに? でもラキやタクトは、もはやチビッ子と言えるかどうか。
――結局、情報と交換だと言われたので、休憩所の詳細について教えてあげた。
そんな情報、いる……? 観光スポットについて聞かれることもあるんだろうか。
「よし、じゃああとはもう一人!」
「さっき、向こうにいるのを見たぜ!」
「どうする~? 攫っていく~?」
ふふ、と笑うラキが言うと、ちっとも冗談に聞こえなくて怖い。
ちょうど側を通った子を捕まえて、そっと耳打ちした。
「……うーん、そうだね。お昼の仕込みも終わったし、きっと一人くらい大丈夫! ……ご褒美があればね?」
さすが、ちゃっかりしている。
人数分足りそうなクッキーの小袋を渡すと、にっこり笑って親指を立ててくれた。
「よし! じゃあ作戦決行!!」
買収に成功したオレたちは、屋根の上で視線を交わして頷き合った。
ターゲットは……うん、広間のど真ん中にいるけど、まあいいだろう。
「よっしゃ、行くぜ!」
言うなり、ひゅう、とターゲットへ向けて跳躍した。
「よう!」
「うわあっ?! な、なに――」
まさに鼻先数センチの眼前に登場したタクトに、ターゲットは尻もちをついて悲鳴を上げる。
「行くぜ、冒険!」
「え、え? えぇええーー?!」
ガッ、と無造作に掴まれて丸くなった目。
そして、予備動作もなく……放り投げられた。
高く、屋根を越えて飛んだ小柄な身体を、同情を込めて見つめる。
仰天した幼少部隊のみんなが、ぽかんと口を開けて見上げているのが見える。
「シロ、行くよっ!」
「ウォウッ!」
オレとラキを乗せたシロが、楽しげに吠えて跳ぶ。
「よっしゃ、ナイスキャッチ!」
フリスビーよろしく、空中でばっちり受け取ったシロが、そのまま屋根を走る。
並走したタクトが飛び乗り、シロから獲物を受け取った。
3人で覗き込んだ彼の顔は、ほとんど泡を吹いていたけれど。
「ココ博士、久しぶり!」
「なあ、一緒に討伐行こうぜ!」
「ココ博士なら、詳しいと思って~」
にっこり微笑むオレたちへ、ようやく焦点が合ったのは、それからしばらく後だった。
「――普通に! 普通に連れて行ってくださいよ?! 僕、死にますけど!!」
『そうね、これ以上ない正論だと思うわ』
『うんうん、俺様なら3回くらい死んでるんだぜ!』
シロ車に乗り換え、心地よく進む草原の中、ココ博士が大変ご立腹だ。
「だってさ、冒険が好きなんだろ?」
唇を尖らせたタクトと、頷くオレたちに、ココ博士がぱちっと瞬いた。
「えっ……。あっ。もしかして、僕が言ったこと……覚えてたんですか」
ええ? もしかしてココ博士の方が忘れてたの?
オレたちは、満面の笑みで笑った。
ちゃんと聞いていたよ。覚えているよ。
戦闘は苦手だけど、冒険が好きだって言ってたこと。
一瞬詰まったココ博士は、少し下を向いてから、きゅっと眉を引き上げて腰に手を当てた。
「だとしても! 普通に冒険して、あんな目に遭うことないですからね?!」
「えっ? あるよ?! 普通に何度もあると思うよ?」
まったく、ココ博士は甘いんだから。
冒険っていうのは、得てしてそういうものだ。何かしら落っこちたり打ちあげられたり、ぶん回されたり攫われたり。
「あーー確かに。これは、アレだな。ユータバージョンの冒険だったな」
「そっか~僕たちも随分、そっちに慣らされてしまったから~」
ハッとした二人が、額に手を当てて溜息など吐いている。いやいや何でもかんでもオレのせいにされちゃ困る! オレがいなくとも、二人も相当やらかし……修羅場くぐって来てるでしょう!
「難攻不落な超猛毒の実を打ち落としたのは誰かな?! レッサーロックが草原に飛来する異常事態を引き起こした人は?!」
フン! と鼻息も荒く告げると、ふいと二人の視線が逸れた。ほらね?!
「ね? 平和な平原の1日が、災厄の日になったのは誰のせいだと?!」
「お前だよ」
「ユータだね~」
「ち、違うよ!!」
それから――その場は互いのやらかしの暴露大会の様相を呈し。
「う、うそですよね? それも、冗談……ですよね?」
ひとり、ココ博士だけがオレたちを順繰りに見つめて、蒼白になっていたのだった。
明日(2026/1/10)は! 20巻発売日ですよ~~!!
キャラ人気投票ランキング発表や、特別編書き下ろし、そしてアクスタが当たる企画まで!
アクスタ……どんなのかな?! めちゃくちゃ楽しみ!!
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