1041 思いもよらぬ方向
「なんか……都会って感じすんな!」
朝から元気なタクトが、大音量でそんなことを言う。
やめてよ、すっごく田舎者みたいじゃない?! オレたちが住むハイカリクだって結構……都会だし? まあ王都には敵わないでも! それに、王都自体だって慣れたと言えるくらい来ている。
そう考えると、オレって結構都会の人間かな? なんとなく気取った気分になって、背筋など伸ばしてみる。
でも実際のところ、タクトの言うことが分からないではない。
だってここ数日、あまりにも魔物にまみれていたもの。
人:魔物の比率が圧倒的すぎて、まるで野生に戻ったような気分だった。
「オレ、田舎が好きだけど、やっぱり人もいないとね」
「当たり前だね~。魔物しかいない場所で、人は普通生きられないね~」
まあ……この世界なら確かに。秘境で一人住む、なんてことができるのはAランク、いやSランクくらいは……。ただ、浮かんだSランクの姿が、完全なる都会人間で笑った。あの人は暮らせないね。
「そういえばバルケリオス様、いなかったね」
タクトたちと一緒なので、ちゃんとバルケリオス邸の転移陣を使ったのだけど。
もしかすると、モモが怖くて逃げたのかも。
『大丈夫かしら? せっかく耐性がついてきたのに、また戻ってないかしら』
いかにも心配している風を装って、モモがふよふよ揺れている。
「帰りにも覗いてみよっか! でも、急に飛びついちゃダメだよ?」
バルケリオス様もあれで一応、国唯一のSランクだもの、案外忙しいのかな。
「じゃあ、俺らは工房行ってるぜ!」
「うん! ラキ、ちゃんと工房に着くまで死守してね!」
「分かってるよ~僕も食べたいし~」
「なら、途中でちょっとだけ食おうぜ!」
だから、それから守ってほしいんだよね。
手土産をしっかり抱え、ラキがにっこり笑って頷いた。
さて、オレもさっそく――と物陰を探して路地裏に入った途端。
「わあっ?!」
ひゅうっと渦巻いた風が、吸い上げるようにオレを持ち上げた。
「うわわわわ?!」
そのまま高く、高く。
町並みが遥か小さくなるところまで。
周囲が、青い空間になるところまで。
「ちょっと?! さすがに高すぎるんだけど!! シャラ!」
オレには翼があるから、怖くはない。怖くはないけども!!
ひゅん、と脇を通り過ぎた何かが、オレをくるりと回す。
風色の猛禽、と見えたそれは、オレの周囲を回る間に姿を変えた。
「シャラ! オレ落ちるよ?!」
「知っている」
ふふん、とどこか得意げな顔をした青年が、はたはた服をはためかせるオレを捕まえた。
やっと安定した体にホッとしつつ、それなりに機嫌のよさそうな精霊を見上げる。
「今から行こうと思ってたのに!」
「だから、手間を省いてやった」
「もうちょっと! 普通に! 連れて行ってよ!」
フン、と堪えた様子もない精霊にむくれながら、二人で花畑へ降り立った。
『ひとのこ、来た』『また来たね、嬉しいね、シャラスフィード』
鳥型の精霊たちが、オレの頭上へ花びらを持ちあげてはひらひら降らせている。
甘い香りをいっぱいに吸い込んで、すとんと座り込んだ。
「ここは、本当に綺麗な場所だね。天国ってきっとこんな感じかな」
「綺麗なだけなど、つまらん」
「うーん。それはそうだけど、汚いよりいいじゃない」
どすり、無造作に腰を下ろしたシャラが、そわそわオレの手元を探す。
期待されてるなあ。
「今日はお菓子じゃないんだけど……これしかなくって」
笑って取り出したのは、ドライカレーのおにぎり。こんなこともあろうかと、食事の都度多めに作ってはおにぎりにしたり軽食として食べられるようにしたりするのだけど。でも、案外『こんなこと』が度々あるので、あんまりストックにならないんだよね。
「いいだろう」
偉そうに頷いて差し出された片手に、ぽんとおにぎりを乗せた。
「食べ物じゃないんだけどね、シャラに渡すものがあるんだ」
「なら、早く渡せ」
おにぎりを頬張りながら、手を出すもんだから、きっぱり首を振る。
「ダメだよ、汚れちゃったら大変だから。食べ終わって、手を綺麗にしてからね」
「口が変だ」
「あ、それ結構スパイス効いてるから。苦手だった?」
「苦手じゃない」
差し出したはちみつミルクをぐいっとやって、シャラはすました顔で残りのおにぎりを放り込む。
シャラには、お子様系の味付けがいいかもしれないね。
早く出せと急かすので、その手を洗浄してから、もったいぶって口を開く。
「じゃあ、渡すから目を閉じて。目を開けないで、何か当ててみて」
「……」
素直に目を閉じたシャラが、片手を差し出した。
うーん、ぬいぐるみは両手で持つものかな。そっともう一方の手も添えて、その手の平へオレぬいぐるみを乗せてみる。
秀麗な眉を寄せて、風の精霊が首を傾げた。
「……軽い」
「そうでしょう? なんだと思う? 触っていいよ!」
そろそろとぬいぐるみを両手で支えたシャラが、真剣な顔でそれを撫でまわす。
「……柔らかい。ふわふわする。布?」
「当たり! でも、ただの布じゃないでしょう?」
『知ってる、知ってるよ、ひとが持ってた』『頭が黒いね、これはシャラスフィードの、ひとのこだね!』
オレって、そういう認識? くすくす笑って、飛び交う精霊にしいっとやってみせる。
『しー!』『しいーっ! 言わないよ、言わないよ』
楽しげな精霊の声に、シャラが不機嫌な顔をする。
「なんだ? もう目を開けるぞ」
むっすりしながらぬいぐるみを撫でまわしているシャラが可笑しくて、笑みを堪えながらヒントを出した。
「何か分かった? 布でできていて、ふわふわ柔らかくて、そして、オレだよ!」
言った途端、ぱちっとシャラが目を開けた。
「あ! もう、ズルだよ?」
「うるさい。……これは、お前?」
「正解! オレの、ぬいぐるみだよ。王都でね、これからこういうぬいぐるみが流行ると思うよ」
聞いてるんだかいないんだか、まじまじぬいぐるみを見つめるシャラが、じっと微動だにしない。
しばし待ってみて、首を傾げる。
「シャラ?」
そんなに衝撃的なものではないと思うけど。
覗き込んでみると、ハッとしたシャラがぬいぐるみを遠ざけた。
「取らないよ! それは、シャラにあげようと思って」
「我に?」
また、じいっと見つめるシャラの顔は、表情が抜け落ちていて良く分からない。
嬉しいのかな? 嫌なのかな?
『よかったね、よかったね、シャラスフィード。ひとのこの、今だね』
『よかったね、ひとのこの、形があるね』
独特な言い回しは不思議だったけれど、なんとなく伝わって来る。
シャラの胸の内が、どんなものか。
思わずきゅっとその身体を抱きしめて、にっこり笑った。
「ねえ、こっそりシャラのぬいぐるみも作ってもらおうか!」
「我の……」
「そう! それでね、一緒にオレのも置いてあげてよ!」
ぱちり、と瞬いたシャラの頬が、ふわっと温かみを帯びる。
きらきらする瞳が、オレを見た。
「なら、お前が作れ」
「え? 何を……ええっ?! ぬいぐるみを?! 無理だよ!!」
「無理じゃない」
むっと不服顔をするシャラに、ぶんぶん首を振る。
「無理だってば! オレ、そういうの得意じゃないもの。ボタンつけくらいしかできないよ! めちゃくちゃになっちゃう!」
「構わん」
「オレが構うよ?!」
な、なんでオレが作るなんて流れになるの?!
『料理もお菓子も、あなたが作ったものを食べたがるからじゃない?』
『手製の品を捧げるのは、基本なんだぜ!』
ええ……そういうものじゃないんだけど。
ちら、と見上げたシャラは、期待に満ち満ちた顔でオレを見ている。
ダメだ、これは絶対譲らない。
「あの……本当~~にぐちゃぐちゃになると思うんだけど……」
「許す」
鷹揚に頷いたシャラに、オレは深々と溜息を吐いて項垂れたのだった。
こちらもまた一旦山を越えましたので、よろしければぜひご覧ください~!
【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~
https://book1.adouzi.eu.org/n0977kx/






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/