1035 夕食の後で
村からそれなりに離れ、森からそこそこの距離。ひとまずは、ここでいいんじゃないかな。休憩所が何個建設されるか分からないけれど、他にもいくつか目星をつけておいた。
「シロ、二人を迎えに行って来て!」
『うん! ユータ、ごはんは?』
「あっ……作っておくね!」
言われてみれば、やっとお腹がすいてきたかもしれない。
でも、今日はいっぱい頑張ったから、食事は簡単にしよう。
「スパイスの香りを嗅いでたら、スパイシーなのが食べたくなってきたよ」
というわけで、今日はドライカレー! ちょうどカレー系スパイスを出していたことだし。
「モモ、シールドはしっかり張っていてね!」
魔物寄せ実験の前にいっぱい集めてしまったら、一体何が効果的だったのかさっぱりだもんね。
みじん切り野菜と小物ミンチ肉をスパイスと合わせ、大きなフライパンで炒めていく。
一気に立ち上る香りが、空きっ腹にダイレクトアタックしてくる。
これひと皿で栄養満点にしたいから、細切れ野菜もたっぷり。これなら、カロルス様でもしっかり野菜が摂れるかもしれない。
じゃ、じゃっとかき混ぜたミンチとみじん切り野菜たちが混ざり合い、肉汁と脂がまわってつやつやし出した。
日本のドライカレーってキーマカレータイプとチャーハンタイプがあるよね。
今回は、後者の方。ただ、ごはんが具に紛れてしまいそうなくらい、具沢山だけど。
「ん~香りがすごい。こんなにおいしそうなら、魔物なんて簡単に寄って来るんじゃない?」
とは言え、毎回こうして普通に料理をするのも手間な上、魔物にあげたくはないし。
セデス兄さんとジフ的には、水と共に『魔物寄せ』を放り込んで沸き立たせる程度の手間ですむよう、考えているみたい。そのくらいなら、一般の冒険者にもできるね!
ざっくり加えたスパイスを最終的にとりまとめられるよう、必殺『ロクサレンカレールウ』を刻んで放り込む。これさえあれば、さっきまでのスパイス配分が大失敗していても、全てなかったことにしてくれる……はずだ。
「いい匂い~! これって魔物寄せじゃないよね~?」
「えっ?! これが魔物寄せだったら、俺泣くぞ?!」
そうこうする間にやって来たラキとタクトが、目を輝かせてオレの手元を見つめている。
「今日はドライカレーだよ! 魔物よりも人間がやってきそうだね!」
「俺なら確実、寄せられるな!」
「僕も~!」
ご飯を合わせて炒めると、みるみる白かったごはんが色付いて行く。
きっとこの色と同じく、炒めた野菜の甘みと肉汁、そしてスパイスがしっかりごはんを彩っているに違いない。
あと、ドライカレーと言えば、これは外せない。
「ねえ、たまご2個のせる人ー?」
もちろん、とろり、半熟の目玉焼き! 敢えて二人へ振ってみれば、すかさず手が上がった。
「は~い!」
「俺5つ!!」
「さすがに5つは……なんか気持ち悪くない?!」
ドライカレーの上を目玉焼きが覆ってしまうんだけど。
2個以上必要な人は、あとでセルフで焼いてもらおう。
少し高さを出して皿へ盛ったドライカレーに、ふるりと揺れる目玉焼きを、そっと乗せる。
ぱらりと黒コショウをかければ、完璧。
「美味そう!」
舌なめずりしそうなタクトが、足取りを弾ませながら皿を運んだ。
あんな足取りのくせして、皿が微動だにしないのがすごい。
既にスプーンを構えたラキが、早くとオレを急かす。
エプロンを放り投げて席へ着けば、ぱちんと合わせた手の音が揃った。
「「「いただきます!!」」」
銀のスプーンで、まずはドライカレーの山を掘削する。大きく削り取った斜面が、はらはらと崩れて広がった。
少しばかり大きすぎた一口を頬張って、ふわっと体内を染めていくスパイスの香りを感じ入る。
「んーー美味しいね!」
「美味いな!」
「思ったよりピリピリしておいしい~」
うん、思ったよりも口の中がひりつく感じが、またいい。
だってほら……。
つ、とスプーンを差し入れた先で、卵がとろけ落ちてドライカレーと絡み合う。
たっぷりの黄味と共に、こう……!
尖ったスパイスの辛みが、見事まろやかに包み込まれて、柔らかな味わいへ変わる。
「やっぱ卵は5個くらいいるだろ!」
「確かに……そのくらいあってもいいかもしれない!」
「タクトはそうだろうけど~。ユータの食べる量には、絶対いらないよね~」
そんなことはない。色んな野菜による歯ごたえの妙も加わって、いくらでも食べられそう。
うん、食べられそう、とは思うんだけどね。
やっぱり思うだけだった、と夜空を仰ぎながら重い息を吐く。
今なら、カロルス様だってオレを持ち上げて『重いな』なんて言うかもしれない。
「――ユータ、岩壁は~? この辺りがいいかな~」
お腹の苦しさに現実逃避していたけれど、『お楽しみ』らしいラキが放っておいてくれない。
渋々起き上がると、言われるままに地面に手を着き魔法を発動した。
「よいしょっ! どう? このくらい?」
「うんうん、いい感じ~」
「ここは、柵どうすんだ? 杭だけなら、俺が刺していくぞ」
じゃあ、ひとまずお願いしようかな。最初だし、なるべくオーソドックスなタイプがいいよね。
あらかじめ用意しておいた巨大な杭の山を取り出せば、タクトが無造作に地面に刺していく。
……簡単でいいな。
こうなると、オレだけ何もしていないことになる。
「ねえ、休憩所って他は何を作る?」
「別に何もいらなくねえ? 大体柵しかないだろ」
それはそう。
でも、それじゃあつまらないし……。
「かまどくらいなら、あってもいいよね! 見れば使いかたは分かるし、使える人も多いだろうし」
そしてかまどにロクサレン寄贈、的なものを刻んでおけば、突如出現した休憩所の謎も解けるってわけだ。
「雨が降ったら困るよね」
かまどと、作業するであろう周囲をカバーできるよう、簡易屋根を作っておく。
じゃあついでだし、と簡易テーブルセットも作れば、もう素敵なキャンプ場の雰囲気が漂ってきた。
ちら、と見た二人はまだ作業に没頭している。
他にすることはないかと考えて、キャンプ場を思い浮かべた。
少し、テント用に高くて平らな土地をいくつか用意しておくといいかも。
びちゃびちゃ地面のテントとか、気分最悪でしかないからね。
しっかり高さを出した地面を等間隔に並べれば、いかにも秩序正しく整備された雰囲気が漂ってくる。
うーん。ここはこれ以上こだわりを出せそうにない。
次の休憩場はもう少し凝ってみようか。お風呂用の設備とか……でも、温泉でもなければお湯がないし、きっと何の設備か理解してもらえない。
じゃあ、全室個室休憩所とかどうかな。土壁でいくつも小部屋を作っておくんだ。
「……なあ、俺もう寝ていいか?」
細かな装飾までこだわりだしたラキと、次からの休憩所アイディアを練るオレに、タクトが溜息を吐いて肩を竦めたのだった。
Amazonさんでもふしら20巻の表紙イラスト出てましたよ!!
めっちゃ可愛いお祝い巻です!
書き下ろしもたっぷり、特別編なので……楽しんでいただけると嬉しいです!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/