1033 とてもめんどくさい
『まっもの! まっもの! いっぱいまっもの! きょ~うはまっもの日和~!』
不吉な歌をルンルンで歌うご機嫌なフェンリルが、足取りも軽く駆けて行く。
なるべく魔物が多そうで、迷惑がかからなさそうで、誰からも目撃されなさそうな場所。
ただし、休憩所を作るなら街道も付近にある方が良い。
そんな希望を叶える場所を探すべく、オレたちは都会から離れた辺境の方までやってきている。
もちろん、辺境は辺境でもロクサレンとは真逆の方へ。そもそも既にあそこは辺境とは言えなくなってきた気がするけど。
「結局、何種類だっけ~?」
髪をなびかせたラキが、素材から顔を上げてオレを見た。
「うーん。メインは5種類?」
「なんだよ、メインって」
何個目か分からないおにぎり片手に、タクトもこちらを向く。
オレだってよく分からないけど、とにかくメインレシピは5種類なんだよ!
「なんか、アレンジは好きにしてくれって……付け足したものは確実に記録せよって指令が来てるんだよね」
「つまり、5種類で終わったらダメってこと~?」
「うわ、結構めんどくせえな!」
そういうことだね。
オレも、ほいほい引き受けるんじゃなかったかなと思っているところ。
だってこれ、オレに何のメリットもないんだけど?!
『気付くのが遅すぎる』
チャトに鼻で笑われ、むっすり頬を膨らませた。
どうしようかな、相手がセデス兄さんだけに、いいように使われるだけだと納得いかない。かといって、セデス兄さんから欲しいものなんかないし。
「けどさー、ゴブリンとかだと普通に料理してても来るだろ? 効果あったってどうやって判断すんの?」
「さあ? オレたちは記録するだけでいいから。ひとまず時間ごとの経過記録をつけてくれって」
一応、手順書的なものを渡されているので、タクトへ差し出した。
受け取ったタクトが、そのままラキへ横流しする。
ちょっと! 少しくらい把握しておいてよ?!
「あ~なるほど~? 時間帯か~これは面倒だね~」
「何がだよ?」
実はちゃんと見ていなかったオレも、タクトと一緒に身を乗り出した。
「朝昼晩でざっくり時間を分けて、同じ実験を繰り返さなきゃいけないね~。天候が著しく変わっていると、それはそれで記録と同条件でのやり直しが必要~」
「えーっ! すごく大変じゃない?!」
「俺……魔物倒す係だけやるぜ!」
すぐに考えることを放棄したタクトが、力強く余計な宣言をしている。
「手間を限りなく省くには……人手が必要不可欠なわけだけど~」
「「だけど~?」」
顎に手を当てて難しい顔をしていたラキが、にっこり微笑んだ。
「じゃあ、変化があったら頑張って来てね~」
のんびり微笑むラキに、オレとタクトの視線が突き刺さる。
「人使いが荒すぎるよ!」
「お前だけのんびりしてんの、ズルくねえ?!」
現在、各地点に設置した魔物寄せレシピ鍋5か所。
何を隠そう、メイン全てを一気にやる作戦を決行しようとしているところだ。これなら、大体同条件でクリアしていける……!!
ただし、当然ながら変化があったら、全てに対応しなきゃいけないわけで。
「だって僕、タクトみたいに頑丈じゃないし~? 転移もできないし~? ここを守るので精一杯だから~」
それはそうなんだけど! でも! タクトと二人で、納得いかない顔を見合わせる。
そう……ラキ発案のこの作戦、ラキだけは蘇芳とモモ付きでこの1か所担当ですむという……!
オレは転移で、タクトはシロ快速便で。各地を記録しつつ移動しつつ、必要あらば戦闘となる。
仕事が多すぎるよ?!
――ラピスが、もっとお手伝いできるの。戦闘ならお任せあれなの。
……そうなんだけどね?! でもそうすると他の地点含む全域の魔物が殲滅されそうな予感がね?! あと、せっかく同条件でと思ったのに、朝実験した場所が昼には焦土じゃ困るんだよね?!
ちなみに各地点の鍋監視モニターには、きっちり管狐部隊が活躍しているわけだけど。
「せいぜい3時間なんだから、頑張って~」
「3時間だから、余計忙しいんじゃない?!」
「違うだろ?! 朝昼晩それぞれ3時間だろ?! ほぼ一日じゃねえ?!」
……ホントだ?!
「いいじゃない、タクトは好きなだけ討伐できるんだから~」
「討伐はいいけど記録とか嫌だ! あとゴブリンばっかとか、めんどくせえだけじゃねえ?!」
オレの方はゴブリンばっかりでもいいよ。記録が楽だし。
うんざりするオレたちを尻目に、ラキが時間を確かめる。
「そろそろ、効果が出てきても――」
「きゅっ!」
――ユータ、鍋地点セリスに反応ありなの!
ああ、来てしまった。ちなみに中間地点スリスが、ラキ担当のここだ。
お先にどうぞ、と視線を交わすうち、きゅっきゅ言う声が重なり始める。
「きゅ!」「きゅっ!」
――ユータ、鍋地点シリス、サリス、反応ありなの! 攻撃許可するの?
「だ、ダメダメ! 行くから! もう行くから!」
「じゃあ、サリスとシリス地点がタクトで~。セリス・ソリスがユータね~。行ってらっしゃい~」
「「はい……」」
『じゃあ、行くよー!』
ウキウキ駆け出して行ったシロを見送り、オレも仕方なく戦場と思われる場所へ転移した。
「来たよっ! セリス、状況は……わあ。なにこれ」
「きゅ!」
周囲に漂うのは、さほどキツくもない、割といい香り。何と言うべきか……菖蒲のお風呂みたいな?
そして、確かに何か集まってきている。
なんだろう、これ……キノコ?
美味しそうだけどオレの背丈半分くらいあるキノコが、もそもそ動いて近づいてきている。あっちからもこっちからも。
とりあえず、食べられるか調べようと本を取り出した時、ヒュっと何かが飛んできた。
危なげなくかわして、ハッと気が付いた。
「えっ?! めっちゃ鬱蒼としてるんだけど?! こんなじゃなかったよね!」
また薙ぐように飛んできた何かを避けると、鞭のような……枝かな?!
「わ、わっ。うわっ!」
これ……植物系の魔物! 避ければ避けるほど、あちこちから枝が伸びてくる。
そう言えば鍋周囲は割と拓けていたはずだから、もしかして全部?!
バキィ、ブチィ、周囲から派手な音が響き始める。
「ちょ、ちょっと! 素材にならなくなるよ!」
あんまり自意識の強くない魔物だから……オレが動くたびに反射的に振り回される枝が、方々で同士討ちを繰り返し、バキベキ大変な騒ぎになってしまった。
ひとまず鍋にシールドを張りつつ、必死に記録をつける。
えっと、今の時点で……待ってよ、これ一体何匹いるの?! どれが木でどれが魔物?!
「あっ、待ってまだ動いたら……あーっもう分かんなくなってきた!」
――ユータ、動くから数えられないの。魔石ならゆっくり数えられるの。
……確かに?
魔王的発言であることを除けば、いたって現実的だ。
「じゃあ……悪いけど。殲滅、行くよっ!」
地形は、変えないようにっ! 猛スピードできのこと木を刈り始め、これは討伐なのか伐採なのかどっちなんだろうかと思う。地味、地味だよ!!
そしてちまちま殲滅を始めるオレの耳に、きゅっきゅいう声が響く。
――ユータ、向こうも結構来てるの。さっと弱火で殲滅してあげてもいいの。
「うっ……行くからぁ!」
ヤケクソで転移して、思ったより平和なソリス地点に首を傾げる。辺りに漂うのは、どこかで嗅いだことのあるような、甘い香り。
「こっちは大丈夫じゃない? どこに――ひえっ、アイスバーン!」
ぞぞぞっと動いた奥の地面に飛び上がると、慌てて地面ごと氷結! どうも、ネズミの群れみたいなのがいたらしい。
「さっきのは植物系、こっちは小さいのが集まる……わけでもない?! え、待ってそんなに色々来ないで?!」
虫、ウサギ、鳥、ゴブリン、キノコ、ええと、ええと……!!
雑多は困る! さっきの方がマシ!!
必死に記録しつつ、そう言えばこの匂い、森人のところで嗅いだなと気が付いた。
あの、ヌヌゥさんが入ってた植物の匂い……ということは、本当に雑多に来るよね?!
――ゆーた、こっちも溜まってきたの。
『主ぃ、もっと効率よく反復横跳びしないとダメなんだぜ!』
『あうじ、こーりつがダメなんらぜ!』
なんか……なんか、こういうゲームがあったような……。
手際よくやらないとお客さんがどんどん溜まっていくような……。
「こんなことの効率上げたって……何の役にもたたないのに!」
2か所を行き来しながら、オレは徐々にテンポ良くなっていく自分に歯ぎしりしたのだった。






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