1024 ゆったりティータイム
「へえ……王都の方は、そんなことになってるんだ!」
言いながら、割ったスコーンにたっぷりクリームを載せて、さくりと頬張った。
乾いたスコーンの重くて軽い食感を絡めとるように、甘さ控えめのクリームが全てをまとめあげる。
ざくざく心地よい顎と、少々乾燥する口の中。これは、これでいいんだ。だってスコーンは、紅茶を美味しく楽しむ最高の相棒だから。
こくり、いい香りの紅茶を喉へ通す心地よさ。鼻に抜けていく上品な香り。
そう、これがいいんだよ。
悦に入って頷いていると、そう言えば続いていた会話が流れて来た。
「よく許可が出たねと思うけど、まあ……詳細は聞かないでおこうかな」
「うふふ、まあ色々あるのよ」
肩を竦めるセデス兄さんに、エリーシャ様がそう濁して紅茶をひとくち。そう言えば、執事さんが言っていたような。『こういう時のための、情報収集ですから』とかなんとか……。形ばかり優し気な微笑みを思い出し、オレも聞かないでおこうと決めた。
そう、王都で大々的に売り出すぬいぐるみのモデルだけど、まず選ばれたのが……ローレイ様はじめとする騎士団長! 売り上げは一部騎士団にも入るということで、合意に至ったらしい。それだけじゃないだろう諸々は、考えないものとする。
とりわけローレイ様は乗り気だったみたい。ただ、ローレイ様がいると、ちょっと他と人気格差が出そうなのが気の毒だけど……。
「でも、どうしてカロルス様のぬいぐるみも? 他じゃダメなの?」
少しばかり唇を尖らせると、セデス兄さんに頬をつままれた。
「どうしてやきもち妬くわけ? 僕でも妬いてくれる?」
「ううん、セデス兄さんなら、大丈夫な気がする」
「ひとまず即答はやめて?!」
項垂れるセデス兄さんを横目に、置いてあったカロルス様ぬいぐるみを抱き上げる。
だって、ぬいぐるみだけど……他の人がカロルス様を持ってるのってなんだかなあ。
ぎゅっと抱えると、オレもぬいぐるみのようにひょいと持ち上げられた。
「へえ? やきもちか。いいな」
……何がいいんだか。
ぎゅ、と真似するように抱え込まれて、不貞腐れながら身を任せる。
「別に、やきもちとかじゃ……」
何となく、面白くない。それだけだ。
じっとぬいぐるみを見ていたら、ぐっと顎を上げられた。
「おいおい、こっちに本物がいるだろ」
にやっと笑う、腹の立つほど雄々しい顔。じゃあ、照れるまで見てやれと、両手で頬を挟んで固定した。
きりりと上がった眉、少し垂れた目元。
ブルーの瞳は、面白そうに細められて、オレを見つめ返している。
ざらりと手の平に触れる、固い無精ひげ。口の端を上げた、どう見ても精悍な男前だ。
「……カッコいいか?」
からかうように小首を傾げ、煽るように片目をつむってみせた。
ほとばしる色気をまともに浴びて、なんだか酔ってしまいそう。
受けた攻撃を返すべく、オレははにかみの混じる渾身の笑みを浮かべた。
「カッコいいよ、大好き」
余裕綽々だったカロルス様の目が、ぱちっと瞬いて。
『決まったぁ! 主の大好き爆弾!』
『一撃必殺カウンターね?!』
両肩からやんやと喝采が上がっている。
果たして、カロルス様は……。
「おう……。くそ」
じわっと表情を変えて、視線を逸らした。
ふふっ、オレの勝ちだね? 少し悔し気なカロルス様に頬を引っ張られ、ふふんと笑う。
「……ねえユータ、それ周囲の被害も甚大だから……」
蚊の鳴くような声が聞こえ、セデス兄さんが突っ伏している。
エリーシャ様の姿は、忽然と消えていた。扉まで続く、何かを引きずったような痕跡を残して。
まだ、照れるけれど。でも、伝えていく方がいいって思ったから。
オレは積極的に言葉にするよう努めている。だって、ルーだってオレの大好きを受け止められるようになってきたでしょう? やっぱり、口に出す方がいいんだよ。
「しょうがないなあ、じゃあセデス兄さんにも――」
「いい、いいよ! もう十分だよ! あーー僕の弟がかわいい」
カロルス様の腕から、セデス兄さんの腕の中へ。ぐりぐり頬ずりするほっぺは、まだカロルス様みたいにザリザリしない。
ちっこい手を伸ばして頬と顎を撫でてみる。
「……まだまだ、だね」
「いらないよ?! 僕、そこは別に父上似じゃなくていいから!」
ああ、なるほど。カロルス様じゃなくて、エリーシャ様の方に似ているのかもしれない。
顔の造りも、どちらかと言うとエリーシャ様タイプだもんね。
「ユータはこのまま大きくなるのかなあ? そうすると美少女になっちゃわない?」
「なっちゃわないよ?! ちゃんと鍛えるから!」
「えー……。僕、このまま大きくなってくれた方がいいなあ。ゴリゴリのユータとか嫌だ」
そう言われても。オレは、ゴリゴリ路線でいくつもりだ。
「料理にだって筋肉は必要だよ? 美味しい物食べたいでしょう?」
「でも今で十分だもの。別にみんながみんなジフみたいなわけじゃなし。ああ、森人の料理人もそうなんでしょ? 奇麗な人だって聞いたけど」
ああ、プレリィさんのことかな。そう言われてみれば……あんなに料理が上手なのに、華奢な雰囲気だ。
もしかして、脱いだら凄いタイプだろうか。
ふんわり微笑むプレリィさんの顔に、ジフの身体をくっつけてしまい、ちょっとげんなりした。プレリィさんは、アレだからいい気がする。
「そうだ、その森人さんとはいつ会えそう? 僕今時間あるから、しばらくそっちに行こうかな?」
「そっちって?」
「ハイカリク。やり取りするのも面倒でしょ、色々買いたいものもあるし、そっちに滞在しようかなと思って」
え、オレお手軽に転移日帰りしてるけど……わざわざ泊まるの? シロならすぐだよ?
「うーん、シロはありがたいけど、僕も一応貴族だし? 馬車で行き来する必要があるからさ」
なるほど。セデス兄さん目立つしね。
「せっかくだから、色々買いこみたいな! ユータに渡せば、いくらでも買い物できるしね! ユータもあんまり学校行ってないんでしょ? 一緒に買い物しようか」
「語弊のある言い方しないで?!」
優秀だから免除されてるの! 不登校じゃないから!
「買い物……変なものばっかり買うでしょう?」
「失礼だな、変なものは買ってないよ!」
うん、その認識ならアウトだね。でもそれなら、タクトやラキがいない間のいい暇つぶ……話し相手? になるね!
「じゃあ、一緒に街歩きとかできるね! 買い物はついて行かないけど」
「うんうん、ユータとデートだね」
くすっと笑うセデス兄さんが楽しげで、オレもわくわくしてくる。
『刺激的なデートをお約束、ね!』
『チャレンジャーなんだぜ!』
さっそくはやし立ててくるモモとチュー助。そんなことを言うから、余計何か起こるんだよ!
まあ、何か起こってもセデス兄さんがいるから大丈夫だけど。
弟って気楽だ、なんて笑って、頼もしいようなそうでもないような……王子様の兄を見上げたのだった。






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