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第78話 自惚れ屋を包む影




「お、お前……なんでここにいる!?」


「はあ!? たすけてもらったら『ありがとう』だろ!? レーギをつくさないのはヒトとして1ばんダメなことだって、うちのとーちゃんがいってたぞ!」


「んだと!? どーのクチが言いやがる!! てめーが礼儀を語るんじゃねぇッ!!」


 雄弥が乱入者であるリュウ少年と事態そっちのけでやいのやいのと言い争いを始めるのも束の間。


「ケェアアアアアアアアアッ!!」


 蹴り飛ばされて民家の瓦礫に埋もれていたアイオーラが、雄叫びとともにその姿を再び現した。翼をバタバタとはためかせながら暴れまくり、その声には誰が聞いても明らかなほどの沸騰した怒りを混ぜている。


「ちッ……ガキ!! 危ねぇからお前はもう帰れ!!」


 雄弥は自身の前に立つ少年に向けてそう言うが、リュウは全く耳を傾けている様子が無い。それどころかーー


「……ふーん……あれが"げぶ・べすでぃあ"か。けっこうよわそーだな。あんなの、おれなら3ぷんでやっつけれるぜ」


 不敵な笑みを浮かべながら、瓦礫から這い出した空の悪魔に向かって歩み出したのだ。


「!? おい待てお前!! 何する気だ!?」


 雄弥は慌てて彼のもとへ駆け寄り、その肩を掴む。


「うるせーな! おまえがもたもたしてどーしようもないから、あいつはおれがたおしてやるっていってんの! おまえ、ジャマだからもうひっこんでてよ!」


「何ィ!? ば、馬鹿か!! てめぇは魔狂獣(ゲブ・ベスディア)の恐さを分かってな……ごッ!?」


 すると突然、必死に制止しようとする雄弥の腹に鈍痛が(はし)った。


 原因はリュウの打ち込んだ拳の一撃であった。雄弥はずるずると地面にうずくまり、少年の肩から手を放してしまう。


「ぐ……お……!」


「いばるんじゃねーよ!! おれより……よわいくせにッ!!」


 リュウは自身の足元で(うめ)く彼にそう吐き捨てると、とうとうアイオーラに突撃していった。


「ゲェバアアアアッ!!」


 挑みかかってくる少年が自分をブッ飛ばした張本人だと知ってか知らずか、アイオーラは奇声を発しながら、走り迫るリュウに向けて口からの火球攻撃を何発も放つ。


「へん!! こんなトロいのにあたるかよッ!!」


 リュウは身軽なフットワークでそれらをかわしてあっという間に怪物に肉迫すると、その左頬に今度はパンチをブチ込んだ。


 アイオーラはまたもや右真横に吹き飛ばされ民家の残骸だらけの地面を20メートルほどゴロゴロと転がり、ようやく止まる。殴られたその顔の左側は陥没しており、(くちばし)もわずかながら変形していた。


 今ので、この少年と地上でまともにやり合うのはさすがに不利だと、アイオーラも悟ったのだろう。翼をはばたかせ、一旦自身のテリトリーである空中に避難しようとする。


「にがすか!!」


 だがリュウは、すでに8メートルは上昇したアイオーラにジャンプひとつで追いついてしまう。そしてその脚を()(つか)むとーー


「フぅンッ!!」


 自身の5倍近くもの大きさの怪物を、無理矢理地面へと投げ落とした。


「エゲァアアアアアアアッ!?」


 地表に頭から叩きつけられたアイオーラの悲痛な鳴き声が響き渡る。



『…………な…………なんてヤツだ…………あのチビっこい身体で…………!』


 リュウの、子供としてどころかヒトとしても完全に常軌を逸した破壊的なパワーに、殴られた腹を押さえながら呆然と眺める雄弥も言葉を失っていた。



『へへ……わかったかエミィ! くるまだけじゃない、こんなでっかいカイブツだっておれにはラクショーなんだぜ……! あんなよわむしとはちがうんだッ!』


「ええりゃぁあああッ!!」


 自分の中に濃ゆい優越感が満ちるのを感じながら、リュウはそのままうつ伏せで地面に倒れるアイオーラの背中に向けて急降下。両足を揃えた重い踏みつけをお見舞いした。


「ゴォオオッ!? ッコ……ゴゲゴ……ッ!!」


 その衝撃は、アイオーラを貫通して地表にヒビを入れるほどのもの。いかに魔狂獣(ゲブ・ベスディア)であっても耐えられるダメージではない。アイオーラは陸に打ち上げられた魚のように悶えていた。


 その悶絶体の背中に立つリュウは、右の拳を一際強く握りしめ……


「とどめだッ!!」


 瀕死の怪物の身体に、最後の一撃とばかりに振り下ろした。



 ーー瞬間。




「ゴ……ッケェエエエエエエエエエエエエーーーッ!!」




「!? うわッ!!」


 突然アイオーラが今までで最大の咆哮とともに、全身から紫色の強烈な閃光を放った。リュウはそれに眼を眩ませ、拳を命中する寸前で止めてしまう。

 無論彼のみならず、雄弥やユリンをはじめとする周囲にいた人々は全員視界を潰された。



「ーーう……! くっそ……なんだよいまの……!? ……ん?」


 すると視覚を少しずつ取り戻つつあるリュウが、自身の足元に違和感が出現したことに気づく。


「……あ、あ……れ……ッ?」


 違和感の正体はすぐ分かった。

 アイオーラがいないのだ。今の今まで彼が踏みつけていたはずのアイオーラが。リュウはいつのまにか、地面に立っていたのだ。


「はあ……? ーーへ……へーんだ!! あいつめ……おれにビビってにげやがった……!! やっぱりだ!! ぜーんぜんたいしたことなかったな!! どいつもこいつもコシヌケだッ!!」


 もはや完全な勝利を信じて疑わないリュウはひとりケラケラと笑う。



 ……しかし、幼く人生経験の浅いこの少年は、ひとつとんでもないことを見落としている。


 自身が生きるこの世の中が、そんな甘っちょろいものではないという事実を……。




 ーー突然、地に立つリュウの身体が黒く巨大な影に覆われた。


「……………………え」


 それと同時にドス黒い寒気に襲われたリュウは笑い声を引っ込め、その小さな身体を硬直させる。


 頭上に、何かがいる。

 リュウは固まりきった首をぎりぎりと動かし、恐る恐る上に眼をやった。



「ーーケルァ……」



 ……そこでは、頭と翼の数が3倍になり、身体がひと回りも巨大化したアイオーラが、空に浮かびながら6つの眼球で彼を見下ろしていた。

 






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