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第76話 少年の暴走




「も〜大丈夫? ユウさん」


「そー見える!? だったら治療が必要なのはおめーの眼ん玉だなッ!!」


「あら? あ〜らあらあら、ずいぶんな言い草ですねぇ? 病院から連絡が来たから、わざわざサザデーさんの手伝いを放り出して大急ぎで来てあげたこの私に、ねぇ? ねーえ?」


「…………ハイ。スイマセン。マジで」


 都立中央病院の処置室にて。

 身体のあちこちに絆創膏を貼り、股に氷嚢(ひょうのう)を挟みながら処置用ベッドに座る雄弥(ゆうや)の機嫌はすこぶる悪い。彼の顔の擦り傷を綿に染み込ませた消毒液で拭っているユリンもあからさまに呆れていた。


「にしても……その男の子、すごい身体能力ですね。いくらあなたが近接戦が苦手だって言っても、ひとまわり以上体格の違う相手をここまで痛めつけるなんて。え〜っと……」


 ユリンは右手で治療をしつつ、左手で傍に置かれていたカルテを取る。それは、ここに入院するリュウ少年のものだった。


「リュウ・ウリム、年齢7歳。入院理由は、道端に落ちていた木の実を食べておなかを壊したため……。身長121センチ、体重26キロ、総合体成数値そうごうたいせいすうちは……527!? すごい……成人男性の平均の4倍近くもある……! シーナと同じタイプかなぁ」


 総合どーたらがなんなのかは雄弥にはさっぱり分からなかったが、シフィナと同じ、という文言を聞いただけで彼が納得するには十分だった。あの少年の力は、そうでもなければ説明がつかない。


「で? あなたこのリュウくんにいったい何をしたんですか?」


「にゃにぃ!? ジョーダンじゃねぇ、まーったく身に覚えが無ァいッ!! こちとら出会い頭にドロップキックブチ込まれたんだぞ!! 大体アイツとは今日が初対面だし、いくら俺だってあんなガキに自分からつっかかったりしねーしッ!!」


「ふぅん? ど〜でしょうかねぇ、ユウさんも子供みたいな性格ですし」


「こ、この野郎……だんだん俺の扱いが雑になってきたな……」


 と言いつつ言い返せないのが、雄弥のツラいところである。


「ま、まぁそんなことはどーだっていいッ!! 今大事なのは、あの礼儀知らずのボンクラにどうやってお返しをしてやろうかってことだッ!! 力では敵わんッ!! だがケンカじゃなくったってやり方はいくらでもある!! ヤローの枕の中身を大量の毛虫に詰め替えるか……靴の中にたっぷりのカメムシを仕込むか……!! この俺をナメたことをコーカイさせてやるぜェ……ッ!!」


「ちょっと!? あなた、小さい子相手にそんな陰湿なことしようなんて恥ずかしくないんですかッ! それこそ子供みたいですよ!」


「やかましいッ!! 俺はやられたらやり返さなきゃ気が済まねーんだ!! あいつに仕返しするためなら、俺は一生子供のままでいいもんねッ!! 恥がなんだ!! 人生満足したモン勝ちじゃッ!!」


「だから子供みたいな屁理屈言わないのッ!!」


「だから子供のままいいんだってのッ!!」


 うるせーッ!! ここは病院だぞッ!! と、彼らにツッコんでくれる者はいない。



 ……しかしその時、まるでそのツッコミの代わりを果たすかのように、病院の外でバカでっかい警報音が鳴り響いた。魔狂獣(ゲブ・ベスディア)出現の警報である。


 それを聞いたユリンはすぐに治療の手を止めると、処置室の外の廊下に出て窓を開けた。



『ーー宮都北部第148番区において、魔狂獣(ゲブ・ベスディア)出現。コードは現在確認中。民間の負傷者42名。現場付近の市民はただちに退避、軍戦闘員は現場に急行せよ。繰り返すーー』



 開けた窓から流れ込む放送を聞いた彼らの眼に、ギラリとした臨戦の光が宿る。


「ケンカおしまいッ!! ユウさん、行きますよ!!」


「おお!! この鬱憤を晴らすちょーどいい機会だ!! どんなヤツだろーが()(ずみ)にしてやるッ!!」


 意気込む雄弥はパーカーを羽織り、ユリンと共に走っていった。




 ……一方、一般病棟にて。


「ほら……ね……? おにぃちゃんにきちんと謝りに行こうよ、リュウくん……」


「フンッ! ぜぇぇえ〜ったいイヤだねッ!」


 受付前のロビーにてパジャマ姿のエミィが、同じ格好のリュウの腕を引っ張って雄弥のもとへ連れて行こうとするが、彼は断固としてそれに応じようとしない。


「リュウくん……どうしちゃったの……? さっきからなんかヘンだよ……?」


「ヘンなのはおまえだよ! あんなヤツのどこがヒーローだ! ぜんぜんつよくないし、カッコよくないし! あんなのはヒーローっていわないんだぞ!」


「な……なんでそんなに怒ってるの〜」


 賢い彼女も、リュウがなぜここまで苛立っているのか全く分からずおろおろするばかり。


 するとそんなことをしている彼らの耳に、病院の外から魔狂獣(ゲブ・ベスディア)出現の警報が聞こえてきた。


「! なんだ!?」


「……魔狂獣(ゲブ・ベスディア)が……出た……!?」


 2人が驚くのも束の間、病院内があっという間に喧騒に包まれる。医師や看護師たちが走り回り、そんな彼らを入院患者たちが質問攻めにする。現場はどこだ、ここは安全なのか、避難するのかしないのかーー


「リュウくん……私たちもお部屋戻ろう……!」


 エミィは先程から引っ張り続けているリュウの腕をより強く引いて彼とともに病室に戻ろうとする。


 するとリュウは突然、その手をぱしッ、と払い除けた。


「ッ? りゅ、リュウくん……?」


 予想外の反応に困惑するエミィだが、リュウはそんな彼女の顔を見もしない。……ただ何かを決意したかのようなしわを眉間に寄せ、両の拳をぎりりと握る。



「ーーオレのほうが、オマエのヒーローだってことを……みせてやる……ッ!」



 やがてそう呟いた少年はロビーの窓を開けると、そこから外へと飛び出した。


「え……リュウくん……ッ!? どこ行くの……ッ!!」


 しかしエミィのその声は、とっくに走り去ったリュウには届かなかった。







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