第57話 可哀想じゃない変態
女性兵士寮大浴場での一件から数時間後の真夜中、憲征軍第七駐屯支部本棟にてーー
「ぬっふっふ♪ ぬふふのふッ♪」
ジャラジャラという金属の擦れる音とともに、楽しそうに鼻歌を歌いながら真っ暗な廊下を軽快にスキップする者がいた。
……ジェセリ・トレーソンその人である。なにやらその脇には、大きめの茶色い封筒が抱えられている。
彼はそのまま支部長室に入ると来客用のソファにどさりと座り、テーブルの上に封筒の中身を出した。
中身は、白黒の写真が1枚。
そしてテーブルの上にはすでにもうひとつ、雄弥が夕方女子風呂で失くしたはずのカメラが置いてあった。
「やぁっと現像が終わったぜ! さーてどれどれ? ……おぉ! 良いッ! ちょっとブレてるけど良い構図だ! ……でへ、でへへへへ〜」
写真を齧るような勢いで凝視するジェセリは鼻の下をでろでろに伸ばしながら満足そうな笑みを浮かべると、表紙に
『この世の神秘 ㊶』
……と書かれた分厚いファイルに、その写真を丁寧にしまった。
「ユウヤ・ナモセかぁ……初めてでコレとはいいセンスをしてるぜ……! よし! 合格だ! またあいつをだまくらかして、今度は女子更衣室の写真を撮ってきてもらおう! ぐふふ、コレクションが潤うぞ〜」
下心100%のだらしない笑みを浮かべながら、彼はそのファイルを、机の引き出しの二重底の下段に隠した。
「さーて帰って寝るか! 新人のおかげで良いユメが見れそうだぜ〜」
ジェセリはルンルンとした足取りで、部屋を出るため戸のノブに手をかけようとする。
ーーしかしどういうわけか、その戸は彼がノブに触れる前に勝手に開いた。
「……お、おろろ?」
ジェセリの前に現れたのは、いつのまにか部屋の外に集まっていた10数人もの女性兵士たち。全員もれなく冷ややかぁ〜な視線を彼に向けている。
その集団の先頭に、般若もビックリの形相で腕組みをしているユリンもいた。
「よ、よぅみんな! どーしたんだよこんな夜中に〜! 夜ふかしはお肌に良くないんだぜ〜?」
その不穏過ぎる空気を感じ取ったジェセリは冷や汗を流しながらあからさまに陽気に振る舞う。そんな彼に言葉を返したのは、先頭に立つユリンである。
「……ええ、そうですねぇジェス。でも……ストレスを溜め込んだまま眠ることも、肌には良くないんですよ?」
「す、ストレスッ? そうだなユリン、そりゃあいけねぇ! なにが原因のストレスなんだ? よかったら俺も発散に付き合うぜ!」
「あらホント? 助かります。な〜ら……」
するとユリンはどこから出したのか、2つの手錠を彼の両手首と両足首にそれぞれ掛けた。
「え。あ、あの〜こりゃいったいどーいう……」
手と足を繋がれたジェセリは、自身の脳裏をよぎったイヤーな予感に顔を引きつらせる。
……女性兵士たち全員の顔が、邪悪な笑みに包まれた。
「心配しなくていいわよ〜? 私たちはアンタのする覗きや盗撮みたいに、コソコソなんかしないから〜」
「ええ……!! 正面から堂々と、素っ裸に剥いてあげる!!」
「や、ちょ、マジ……!? だ、ダメダメ良くない!! 話し合おう、な!? 暴力反た……」
「天誅ーッ!!」
「イヤ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
言い訳の間も逃げる間も無く。女性兵士たちは一斉に、ジェセリ・トレーソンに襲いかかった。
……次の日、ボロ雑巾のようにされた金髪の男が、駅前広場の真ん中に全裸で吊るされていたという……。
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