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第53話 裏の進行 -潜む監視者-




 野原に残った雄弥とユリン以外の汽車の乗客たちは、兵士たちによって地元街(じもとまち)憲征軍(けんせいぐん)駐屯基地へと連れて来られた。


「これから皆様の聴取を行います! お時間を取らせて申し訳ありませんが、もうしばらくご協力ください!」


 駐屯基地の建物の入り口付近に集まっている大勢の乗客たちに、1人の兵士が大声でそう伝える。


 空はすでに真っ暗であり、街は街灯や並び建つ店々の灯りで(まばゆ)く照らされていた。


「あの〜すみません」


 そんな中、1人の男が駐屯基地の兵士に声をかける。


「はい、なんでしょう?」


「電話をしてきてもいいですか? 待ち合わせ相手に、遅れることを伝えたいのですが……」


 それは、レイドが行動を起こすまで座席でぐっすりと眠っていた、スーツ姿の中年男性だった。


「ええ、もちろん構いませんよ。あの店の前に公衆電話がありますので、そこからどうぞ」


 そう言って兵士が指を差したのは、車道を挟んだ眼と鼻の先にあるタバコ屋だった。


「どうもありがとうございます」


 七三分けにした黒髪、黄色の瞳を持ったいかにもサラリーマン風といった容貌のその男性は、礼を言うと、横断歩道を渡って電話のもとに歩いて行く。

 

 受話器を取り、1枚の硬貨を入れ、ダイヤルを回す。やがて通話が繋がるとーー



「ーーもしも〜し。おぉ、俺だ。"試験運用"は終わったぜぇ」



 男の口調は、急に変わった。

 それだけじゃなく、声までも。中年男性らしい低く落ち着いた声から、若々しさのある瑞々(みずみず)しい声になった。



「ーーああ、合格でいいんじゃねぇか? あの程度のカス共相手なら、もう十分やりあえるみてぇだしよぉ〜。ーーそうだな、大した女だぜ。ユランフルグ……だっけか? たった2年で、ただのガキを最低限使いモノになる兵士に仕立て上げるたァな。仲間に欲しいくらいだぜ」



「ーーん? いや死人は出てねぇぞ。ーーそりゃそーだろ。あの3兄弟はただのチンピラだ。集団犯罪のいろはなんざ知ってるはずもあるめぇよ。ま……だからこそ雇ったっつーのもあるけどな」



「ーーそんじゃ、今から帰るからよ。ーーなに、焼き肉!? おいおい、んな豪華な晩メシはいつぶりだ!? 分かった15分、いや10分で戻る! 俺の分食うんじゃねぇぞッ! じゃあなッ!」



 男は受話器を戻すと、駐屯基地には行かず逆方向に一目散に駆け出した。



 ーーこの時、奇妙なことが起こった。

 走るその男の姿が、どんどん変化していったのだ。



 170も無かった身長が、180以上の長身に。


 七三に綺麗に分けられた黒髪は、左側を刈り上げた鈍色(にびいろ)のくせっ毛に。


 ぴしっとしたスーツは、全身丸ごと黒のレザー着に。



 黄色の瞳は、黒色、に……。



「あァーあ、やっと解放されたぜ! ダセェおっさんのカッコからよぉッ!」


 男は用意されている夕食への期待に胸を膨らませながら嬉々として走り、夜の街のどこかへと消えていった。




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