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第46話 裏の進行 -愛しい貴方-




 宮都ヴァルデノン、憲征軍総本部、ーー元帥執務室。 


 そこの机に取り付けられている黒電話がベルを鳴らした。

 2コールで受話器が取られる。無論、取ったのはその部屋の主である。


「はい」


 サザデーは煙管(きせる)(くわ)えるのをやめて応対する。


「……ああお前か。珍しいな、そっちから連絡を寄越(よこ)すのは」


 電話相手の身元を把握した彼女は、どことなく嬉しそうな様子を見せる。


「さすがのお前も今回ばかりは気になって仕方がなかったようだな。だが心配するな。結果はそう悪いものじゃないぞ。彼は無事に兵士としての1歩を踏み出せた。ーーなに、無事ではない? はは、その通りだな。だが今回の一件で、アルもあいつのことを多少なりとも受け入れてくれた。あの堅物(かたぶつ)ボウヤがだぞ? 十分過ぎる成果じゃないか」



「ーーああ、バニラガンのことなら問題無く片付いた。ーーそうだ。私が始末しても良かったんだが、ヤツらに先を越されてな。それは別に構わんのだが」



「ーーふッ、とぼけおって。バニラガンをあいつと引き会わせ、力を与える手引きをしたのはお前だろう? ーーああ……すぐ分かったさ。だからわざわざバニラガンの施設にガキ共を集めるようにしたんだからな。おかげでユウにとって最高のリハーサルになった。礼を言うぞ」



「ああそれと、ユウのヤツの訓練は半年延長することになった。怪我の治療期間を含めてな。ーーいや? 私は構わんよ。想定通りの結果だからな。今のユウではどうやったってゼメスアには勝てなかったさ。生き延びてくれただけで満点だ」



「ーーそうだな。今のままではカス同然だ。今後は野となれ山となれ……ユウ自身の成長に期待するしかあるまい。平穏を得るも地獄に堕ちるもヤツ次第ということだ。ーーああ、もちろん誰が何人死のうが知ったことではない。好きなようにさせるさ」



「ーーなに? ふん、今さらそんなくだらんことをほざくな。お前が1番よく知っているはずだろう? 『成長』とは、必ずしも本人にとって良いことではない、ってな……」



「ーーん、分かった。それじゃまた」



 彼女は受話器を戻すと、椅子に座ったまま机の上に両脚を乗せる。



 そして自分の右掌(みぎてのひら)を顔の前にかざしてじっと見つめ、妖艶(ようえん)な笑みを浮かべながらその薬指をゆっくりとなぞったのだった。

 





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