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第34話 覚めど、未だ悪夢の中に




「……ぅ……」



 青色の扉が取り付けれた、8畳ほどの広さの部屋。そこに倒れていた少女は目を覚ました。彼女が痩せ細った上体を起こす。すると、その肩に刺さっていた注射器がカタリと音を立てて床に落ちた。


「…………?」


 少女ーーエミィ・アンダーアレンは口を半開きにして、床にへたり込んだまま放心している。目の焦点も合っていない。


 しかし沈黙はすぐに破られた。

 ばぁん、と、遠くで何かが破裂したような音がしたのだ。


「ッ!?」


 続いて、再び4、5発の破裂音。今度は連続して鳴った。これは……銃声のようだ。



「…………ぁ…………あ…………!」



 その音が耳に入るのと同時に、彼女の意識が一気に現実に引き戻される。


「……あの……ひ……とは……ッ……?」


 あの人。それはつい先ほど床下から突如現れた雄弥のことである。彼の姿が、部屋に無いのだ。エミィは部屋の出口から見える廊下も見渡してみるが、やはりどこにも見当たらない。

 そしてーーバイランもいない。


「……ッ!!」


 エミィの顔が、底無しの不安に塗りつぶされる。

 彼女はもともと歳の割に頭の良い子なのか、或いは終わりの見えない極限状態によって事態に対する感覚が鋭敏になっていたのか、いずれにせよ、それだけで状況の全てを察したのだ。


「……だ……め……だめ……そんな……の……いや……」


 不安という底無し沼から、恐怖という怪物が現れた。その恐怖とは、自分の置かれた危機的状況に対するものではない。



 殺される。あの男の人が殺される。自分の父親のように、自分のせいで、殺されてしまう。



 彼女はどこまでも優しいのだろう。思いやりに満ちた子なのだろう。それゆえに、彼女はそんなことを考えていた。

 だが、考えるだけならまだある話。問題は彼女の『行動』にあった。


 エミィは、部屋の入り口近くの廊下に拳銃が落ちているのを見つけた。バイランが持っていた麻酔弾入りの拳銃である。

 彼女は地面を這いずりながらそこまで移動する。そしてなんと、その拳銃を手に取ったのだ。

 いくら幼くとも、彼女はそれが武器であることを知っていた。人を攻撃するためのものであることを知っていた。実際に見たのも手に取ったのも初めてだが、その道具の用途はちゃあんと理解していたのだ。

 これは危険なものだ。そのことを知っている。それなのに何のためにそれを拾ったのかーー



「……た、すけ……に、いか……な……きゃ……」



 やがてエミィは、マッチ棒のような脚を痙攣させながらやっとの思いで立ち上がる。そして両手で拳銃を握りしめ、先程の音が聞こえてきた方向に向かってよろよろと歩き始めたのだった。


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