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第29話 混濁する真実

 



 梯子(はしご)に手をかけ足をかけ、ひとつひとつ登っていく。

 空き地の穴から地下通路に降りてから大分時間が経つ。おそらく他の兵士たちはもう孤児院に着いているだろう。

 

 やがて梯子の1番上へと至り、天井に設置された蓋、すなわちこの地下への入口に触れた。

 軽く押してみると、蓋が上がる。


「よっ……と」


 そのまま押し上げた蓋の隙間から地上を覗く。



 白い壁が見える。どうやら室内のようだ。


 俺が今いる出入り口から壁までの距離、かつ壁と壁の距離が近い。そこまで広い部屋じゃない。せいぜい6畳程度。

 そして視線を右に移すと、見覚えのあるものがあった。


「……あれ?」


 青い扉。この部屋の出入り口であろう扉が、青い色をしているのだ。

 あの色……知ってるぞ。つまり俺が今いるのは……。


 そのまま蓋を開けきり、地上へ、その部屋に出る。そして振り返ってみるとーー



「……ッ!?」



 案の定。

 怯えで染め上げた瞳をこちらにを向け、ベッドの上で息を呑みながら身体を震わせている1人の女の子……エミィ・アンダーアレンがいた。


「あ……あ……」


 エミィは突然の侵入者に理解が追いつかないらしく、かすれた声を上げて驚いている。


「ちょちょちょ、大丈夫大丈夫。俺はその……そう、敵じゃない。敵じゃねーから」


 と、そこまで言って、俺はとんでもないことに気がつく。

 この子は他人の眼を見るとひどく混乱するということを完全に忘れていたのだ。が、慌てて目元に触れると、俺はすでにサングラスをしていた。


「ほっ……よかった。どーりでずっと、やけに周りが薄暗く見えると思ったぜ……」


「……だ……ぁれ……?」


 ベッドに座った状態で軽く後退りをしながら、尋ねてきたエミィ。昨日俺がここにきたこと忘れているらしい。


「俺? 俺はユウヤ・ナモセだ。あ、いや……そーじゃねぇ。軍のモンだよ。お前を含めた、この孤児院の子たちを助けに来たぜ」


「たす……け……?」


「ああ。そこでその……一応確認させてくれ。お前や他の子供たちを殺した犯人……バイラン、なんだろ?」


「!!」


 それを聞かれた途端、エミィの顔から一気に血の気が引いていく。肩を大きく震えさせ、歯をかちかちと鳴らしている。

 もう聞かなくても分かる。やはりこの子は事件当時のことを、真犯人のことを完全に知っていたんだ。そしてこの怯えよう……バイランがその真犯人であるということも、もうおそらく間違いないだろう。


「……やっぱそうだよな。いや、大丈夫だ。すぐにここには兵士がわんさか来るからな。ただその前に、あと少しだけ聞きてーことがあんだ」


 俺がそう言うとエミィは俯かせていた頭を少しだけ上げ、上目でこちらを(うかが)う。


「知っていたら答えてくれ。バイランはどうやってお前以外の子供たちの記憶を消したんだ? それから、なぜ君だけが記憶を消されていないんだ?」


 彼女はしばらく黙り込み、やがてか細い声で答え始めた。


「ま……じゅつ……。『げんもう』の、魔術……」


「……魔術? え? いやでも、バイランは魔力の素養が低い、って聞いたけど……」


 すると、エミィは首をふるふると振った。


「言って……た……。『私は、神から力を貰い受けた、選ばれし者なんだ』……って……。生まれなんか……関係ない……って……」


「なに? 神? 貰い受けた……? ワケわかんねージジイだな。じゃあ、なんでお前だけが事件のことを覚えているんだ?」

 

「……わか……らない……。で、も、わたし……に、は……術が……効かな……い……って……」


「効かない? お前だけ?」


「…………うん…………」


 いかん。情報を把握しきれない。というか、事前の情報とこの子の言っていることが噛み合わなすぎる。いったい何がどーなってんだ。

 俺が頭を抱えていると、今度はエミィが自分から恐る恐る口を開き、不可解な質問をしてきた。


「……あ……の……」


「ん?」


「な……んで……おにぃちゃ……ん……生きて……る……の……?」


「は? な、なんだそりゃ。どーいうイミだ?」


「おに……ちゃん、床の、下……から来た。なんで……生き……てるの……? いな……かった……の……? ()()……が……」


「あれ……? あれ、ってなに? なんのこった?」



「ーーお、とうさん……も……食べ……られ……た……のに……」



「……は? 食べ……られた、って……なににーー」


 その時だった。この部屋の入り口、青い扉が、ガチャリと音を立てたのだ。


「ひっ……!?」


 それを聞いたエミィはすぐさま俺の後ろへと隠れる。

 俺は最初、てっきり到着した兵士たちがエミィを助けるために来てくれたのだと思っていた。


 ……しかしそうじゃなかった。代わりに開いた扉から現れたのはーー

 


「……おやおや。こんな夜更けにどうされた? ユウヤ・ナモセ殿」



 不気味な薄笑いを浮かべた、バイランだった。


 


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