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第169話 第7支部の四銃士




 アリエン……!! 


 アッテタマルカ……アルハズガナイッ!!


 コノ空間(クウカン)侵入(シンニュウ)スルニハ、特定(トクテイ)(ジュツ)ガ……能力(ノウリョク)必要(ヒツヨウ)ッ!! ソシテソレヲ()ツノハコノ()デ、"アノ(カタ)"ト、アノ(カタ)カラ()マレタ(ワタシ)ノミノハズ!!


 (ワタシ)ノコノ次元転移(ジゲンテンイ)能力(ノウリョク)ニシテモ、"アノ(カタ)"ノ(チカラ)一端(イッタン)()(アタ)エテイタダイタモノ!! 本来(ホンライ)コノ(チカラ)ハ、アノ(カタ)固有(コユウ)ノモノナノダゾ!!

 ソレヲ、アノ ユリン・ユランフルグ ガ何故(ナゼ)使(ツカ)エルッ!? アノ小娘(コムスメ)……ヤハリ異常(イジョウ)!! イッタイ何者(ナニモノ)ナーー



「グッハアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ショックのあまり敵前にして思慮に没頭していたザナタイト……そのうちの1体は、一瞬にして間合いを詰めてきたシフィナに顔面から思いっきり殴り飛ばされた。

 其奴(そやつ)は、皮を剥がれたヒトの肉のような色と質感の地面に何回もバウンドしたのち、100メートルも離れた地点にアタマから激突する。


「ッ!! キ、貴様(キサマ)ァァッ!!」

 

 慌てて正気に戻り臨戦体制をとる、残り3体のザナタイト。

 そして此奴(こやつ)らの眼の前には、精密機械の排熱のような息をふしゅう〜、っと吐くシフィナ。彼女の表情は、怒りを抑え込むことを放棄した鬼神(きしん)のそれであった。


 が、それだけに構っているヒマは無い。その後ろからは、雄弥が、ユリンが、ジェセリが、彼女に続いて次々と攻め込んでくる。


「……グ、グ、グォ……オノレェ……ゥオノレェェェッ!! (サカ)シイ ガキ ドモガァッ!! 何奴(ドイツ)此奴(コイツ)皆殺(ミナゴロ)シダァーーーッ!!」


 そして最初に殴り飛ばされたザナタイトの苦痛に溺れた一声を合図に、他の3人は彼らに応戦。100メートル先からブースター全開で戻ってきたヤツを合わせ、4 vs 4の乱闘が開幕した。



 ーーシフィナ vs、ザナタイト"1号"。

 

 1号は、まったく攻撃できなかった。

 殴ろうとすれば先に殴られ、蹴ろうとすれば先に蹴られ、ブレードは振るう前にブチ砕かれ、光弾は撃つ前に腕ごとジェネレーターをヘシ折られる。


 抵抗どころか呼吸する余裕も無い猛打(もうだ)の嵐。それはひとえに、シフィナの怒りがどれほどのものかを如実に表していた。


「ッブグ……バワ……ッ!! ゴ、ギィ、グゾオオオオオオオオッ!!」


 容赦無く叩き込まれる鉄槌からなんとか逃げ出さんと、1号は脚のブースターを噴かして宙へと飛び立った。……しかし、それと同時に地上のシフィナが1号の視界から消えてしまう。


「ナニッ!? ーーハッ!!」


 気づいたときにはもう遅い。

 シフィナは『呑霆(てんてい)』の術による雷速(らいそく)移動で一瞬にして空中の1号の背後に回り込むと、其奴(そやつ)の背中……背骨のど真ん中に向けて、両拳(りょうこぶし)を合わせたハンマーの一撃を振り下ろした。


「だらァあああッ!!」


「オォッゴォエエエエエ!!」


 脊髄からメシメシと音を鳴らしながら、1号は大気圏に突っ込む隕石のような勢いで腹から地面へと落ちていく。


 ……(いな)()には(かえ)さん。



「"気随(きずい)宮靡羅(くびら)"ーーーッ!!」 



 間髪入れず眼下の標的に向けて、シフィナは黄金(おうごん)の魔力を宿らせた両腕を横薙(よこな)ぎに振るった。

 すると、文字通りの電光石火のスピードを持つ(いかずち)の斬撃が発生。その術は刹那(せつな)の間も置かぬうちに落下する1号へと直撃し、空間に亀裂が(はし)りそうなほどの破砕音(はさいおん)をこの異次元中に轟かせる。


「ギャアァアアアァアアァァァーーーッ!!」


 あとにこだまするのは、敵の断末魔だけ。銀髪少女(ぎんぱつしょうじょ)の制裁に()かれた1号は黒焦げのチリとなって消滅した。



 ーージェセリvs、ザナタイト2号。

 シフィナが"一方的"であるなら、こちらは"圧倒的"だった。


 2号は、両腕の剣を振るう、突く、撫でる。2本の(つるぎ)が4本にも8本にも何十本にも見えるほどのスピードで、標的に攻撃をしかけていっている。

 対するジェセリは反撃しない。ただ避けるだけ、逃げるだけ。腰に手を当て後ろ歩きをしながら、社交ダンスでも踊るかのように黒騎士の乱撃をひらりひらりと(かわ)していく。


「コッ、小僧(コゾウ)ガァ!! 茶化(チャカ)シオッテッ!!」


 完全に遊ばれている2号。心中に(たぎ)るは底無しの屈辱。

 そして、さらなる上塗り。標的のジェセリは突然回避行動をやめたかと思うと、自身に振り下ろされてきた魔力剣(まりょくけん)一太刀(ひとたち)を、右手の人差し指1本であっさりと受け止めてしまったのである。


「ンナッ!?」


 剣を打ち込んだ2号はその時点で驚愕。そして、たかだか1本の指でしか支えられていないはずの自身の腕が、ぴくりとも押し込めないことにさらに驚愕。

 指が斬れない。魔力も込められていない指が斬れない。おまけにジェセリの表情はずっと()ましたまま。


「ギッ、ギ…………貴様(キサマ)ァァァ!! オノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレェェェーーーッ!!」


 2号のストレスは爆発した。

 両腕の剣をヤケクソに、無茶苦茶に、やたらめったらに振り回す。眼の前のクソ生意気な餓鬼(がき)をどうにか切り刻んでやりたい。その一心で振り続ける。


 しかし、その思い実らず。剣撃の全ては指すら断てず、ただ1本のみに防がれる。


「……ま、こんなモンだ」


 失望を漏らすようなその(つぶや)きを皮切りに、これまで一片の覇気も無かったジェセリの瞳が、ギラリとした殺意を()き出した。


「ウッ!?」


 凍る背筋。貫く悪寒。反射で悟った絶望と恐怖。



 ーーキンッ。

 


 2号がそれらに全身を喰い尽くされる頃には、ジェセリはいつの間にか此奴(こやつ)の背後に立っていた。

 ……左腰の白鞘(しらさや)に、(ひらめ)刀身(とうしん)(おさ)めながら……。


「…………バ……バカナ……コン、ナーー」


 2号は、倒れた。呆然(ぼうぜん)と。

 その四肢(しし)は全て、(ひじ)(ひざ)の部分で両断されていた。無様に地面に転がるその様はまさに人形……達磨人形(だるまにんぎょう)であった。

 


 ーー雄弥 vs ザナタイト3号、ユリン vs 4号。


 雄弥は負けていなかった。すでにボロボロの傷だらけで、いつぶっ倒れてもおかしくないほど出血もしていた。だが、負けていなかったのだ。

 殴られた、だが殴り返す。斬られた、だが蹴り返す。満身創痍の雄弥は、五体満足の強化ザナタイトと一進一退の超至近戦闘を展開していた。


 一方、ユリンもまだまったくの無傷。

 彼女は両手に"慈䜌盾(しらんじゅん)(しん)』"を展開し、その小さな盾でザナタイトの(やいば)を、射撃を、ことごとく受け流していた。


「イツマデ()(マワ)ルツモリダ……ッ!! ソモソモ戦場(センジョウ)(オンナ)ガ ノサバル ノハ()()ランノダ……!! ()エロッ!!」


 一見すると単なる防戦一辺倒(ぼうせんいっぺんとう)でしかない。攻め手一筋を強制されているザナタイト4号もついにシビレを切らし、身体稼働を全開にして突撃を始めた。


 だがそれは誤りである。この戦いにおいてユリンが"意識している"のは、自身が対峙するこの4号だけではない。

 ……彼女はずっと見ている。気にかけている。仲間である雄弥を。そして、彼と戦っている3号のザナタイトを。


 自身に向けて猛スピードで迫ってきた4号に対して、ユリンは素早く身をよじって突進を(かわ)しつつ、すれ違いざまに其奴(そやつ)の脚をばしッ、と蹴り払った。


「ヌオ!?」


 重心を崩された4号は身体のバランスとコントロールを失った挙句、自らが全力でかけてしまった加速によって勢いよく転ばされていく。

 そして、此奴(こやつ)がフッ飛ぶ直線先にはーー


「!? ナ、ナンダトーーゴハァッ!!」


 雄弥と鍔迫(つばぜ)()っている真っ最中の、3号がいた。

 4号がそこに突っ込んだことで2人のザナタイトの身体は思いっきり激突。仲良く地面を転げ回っていった。


『ア、アノ小娘(コムスメ)……!! コレヲ(ネラ)ッテ……ッ!!』


 4号はここでようやく理解した。自分の動きが誘導されていたことを。自分は、ユリンに誘い込まれていたのだという事実を。


「グ……!! オイ貴様(キサマ)!! (ナニ)ヲシテイルッ!? アンナ小娘(コムスメ)1人(ヒトリ)、サッサト片付(カタヅ)ケナイカッ!!」


「ダ、(ダマ)レ!! ()ニカケノ餓鬼(ガキ)相手(アイテ)()コズッテイル貴様(キサマ)()エタコトジャアルマイッ!!」


 戦闘の妨害に怒る3号と、月並みな反論をする4号。ザナタイト同士のいがみあい。

 勝手に言い争うのは結構。だが忘れなかれ、今は戦闘中である。


「ガッ!?」


「オグォッ!!」


 状況を見失っていた黒騎士たちに、雄弥がすぐさま追撃。2体まとめてメタメタにしていく。


「コノッ……調子(チョウシ)()ルナッ!! 菜藻瀬(ナモセ) 雄弥(ユウヤ)ァッ!!」


 反撃せんと右腕のブレードを振り上げる3号。しかし瞬間、その腕に細いワイヤーが巻きついた。


「ナ……ッ!?」


 鉄製の頑強なワイヤーである。腕を下ろせなくなった3号は愕然とするが、それだけでは終わらない。

 ワイヤーはあっという間に絡んでいく。3号の首、胴体、片脚、……そして此奴(こやつ)の隣にいる4号の身体にまで。


 やっているのは、ユリンであった。彼女が長いワイヤーを張っているのだ。

 ユリンは2体のザナタイトの身体を捕らえたワイヤーをすかさず力一杯引き締めた。すると3号と4号の身体がまとめて拘束され、2人はぴったりと密着した状態で縛り上げられてしまったのである。


「!! シマッーー」


 焦っても手遅れ。これは布石だ。

 2体の敵を、1箇所に集めるためのものだ。


「どああッ!!」


 身動きが取れなくなったザタナイトたちに、雄弥が左拳での"砥嶺掌(とれいしょう)"を炸裂させた。

 1発だけ。彼が打ったのは1発だけだ。しかしひとつにまとめられた状態ならば、何体の敵だろうとそれで十分。全身の鎧に亀裂を(はし)らせながら、3号と4号はまたもや2人揃って遠くへブッ飛ばされていく。


 まだだ。


 雄弥は走る。2体のザナタイト目掛けて走る。


 銀色の魔力を帯びて疾走するその姿、まさにオーロラ。地を流れるオーロラだ。


「コッ、コ……ッ!! コノ下等生物(カトウセイブツ)ドモガァァァァァァァッ!!」


 3号と4号は迎撃。地面に激突してすぐに起き上がり、両腕の砲口から破壊光弾を乱射する。ターゲットはもちろん雄弥。


「"慈䜌盾(しらんじゅん)"ッ!!」


 しかし無意味。ユリンが走る雄弥の前に防御壁を展開したから。光弾は標的に届く前に全て散ってしまう。


 走りながら、守られながら、雄弥は両手を構えていく。

 "(こぶし)"ではない、"手刀(しゅとう)"である。左右両手の指を揃えて伸ばし、そこに魔力を宿らせる。


 手が輝いていく。煌めいていく。

 これではまるでザナタイトと同じだ。そうこれは、魔力でできた、(やいば)ーー



「"衒截掌(げんぜつしょう)"ーーーッ!!」



 ……決着はついた。


 3、4号のもとにたどり着いた雄弥は、すれちがいざまにそれら2体の身体を、同時に真っ二つにした。両手を、魔力の刃を振るうことによって……。



「……てめーにできることだって……俺にもできるんだぜ。……バーカ……」


 自身の背後でザナタイトたちがドサドサと倒れる音を聞きながら、血まみれの雄弥は脱力のため息を吐く。

 


 ーーこうして、亜空間での戦いは第7支部四銃士の完全勝利で幕を閉じたのだった。




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