第152話 罪と罰の化身 -ザナタイト-
「なんだ……てめぇは……ッ!?」
「"ザナタイト"……。……ソウイウ名ニ、シテオコウ……」
炎と熱に囲まれる中、雄弥は突如現れた謎の存在と対峙する。
ザナタイト……そう名乗った人物の全身は、表面に艶の無い鎧で覆い固められていた。肩、肘や膝、爪先に鋭く刺々しい装飾を施し、前腕と脹脛に砲口とジェネレーターのようなものを組み込んだ鎧である。……いや鎧というより、まるで機械の着ぐるみだ。
頭部も兜と仮面が一体化したようなモノがすっぽりと被せられており、その表情・感情は何も読み取れない。そして画面に付けられた2つの複眼は、妖しい純白の光を帯びていた。
その見た目の印象に違わない、どす黒い邪気を放つザナタイト。雄弥は拳を握り直し、警戒意識を強める。
「…………てめぇがやったのか」
「ン……?」
「このフザけた真似はてめぇがやったのか、って聞いてんだよ……!!」
雄弥は周囲の瓦礫や炎を手で指し示す。
「……フフ……。アアソウダ。ーーコンナフウニナ!」
瞬間、ザナタイトは右腕を彼に向け、前腕に装備した砲口から1発の魔力光弾を放った。街を破壊したものと同じ、黒紫色の光弾だった。
「!! ちいッ!!」
雄弥もそれに対抗してすかさず右手から青白い『波動』を放つ。2つの光弾が両者の間で激突・相殺され、その際発生した衝撃波が拡散したことで彼らの周囲の炎がかき消されてしまった。
「クック……イイゾ、イイ反応ダ……」
相殺とはつまり、ザナタイトの攻撃は現時点では雄弥と互角の威力を持つということ。さらにコイツには周囲の被害に対してなんの迷いも躊躇も無いのだ。
『こんなところでおっ始めたら、被害が余計に拡がっちまう……!! 人気の無いところにコイツごと移動しねぇと……!! どうする……一か八か思いっきり突っ込んで、どこか遠くにブッ飛ばしてやるか……!?』
雄弥は敵から眼を離さないようにしつつも、頭の中をフル回転させる。
「フ……ヒドイ雑念デハナイカ。ソンナニ大事カ? 赤ノ他人……無関係ノ有象無象ドモガ……」
「!! く……イヤな性格だなてめぇ……!!」
だがザナタイト、彼の思考をあっさり看破。この敵はあまりにも隙が、掴みどころが無いのだ。
「マァイイ。私ノ目当テハ貴様ノミ……他ノ奴ラナドドウデモイイ。オ望ミ通リ、場所ヲ変エテヤルトシヨウ」
「俺だけ……? ……へ、よく分からねぇが、協力的で助かるよ……! 2キロ先に空き地がある。ついてこい」
「……イイヤ……移動ハ必要ナイ……」
「あ……? そりゃどういうーー」
雄弥が敵の発言の違和感を拾ったその時、背後から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ユウヤさまーッ!!」
「は!?」
声の主はセレニィだった。彼女は雄弥の姿を見つけ、彼のもとに走ってきていたのだ。
「ああユウヤさま、お怪我はありませんか!? これはいったい何事ですの!?」
「せ、セレニィ!? 来るな!! 危ねぇから来るんじゃねぇッ!!」
雄弥は後ろを振り返り、自身の元に駆け寄ろうとしている彼女を怒鳴りつけて制止する。
ーーそれと同時だった。
彼の前に立つザナタイトが自身の両腕を、胸の前で交差。交点に、これまでより一層濃い魔力を纏わせる。
「"闇ニ沈メ"ェッ!!」
そしてその両腕を、天に掲げるように振り上げた。
すると雄弥とザナタイト、その両者のみを円状に囲む形で、地面から純黒の魔力が立ち昇ったのだ。
魔力は天に向かって上昇していき、やがて空中の一点で終結。半球状の黒いドームが形成され、雄弥とザナタイトの姿はその中に呑み込まれていく。
「!? ゆ、ユウヤさまッ!!」
地面から生えた牢獄に幽閉された想い人のもとに駆け寄るセレニィ。だがそれより先に、魔力で作られたドームは空気に溶けるようにして消えてしまう。
……そしてそこには、雄弥も、ザナタイトもいなかった。いなくなっていたのだ。欠片ほどの痕跡も残さずに。
「ッ!? そ、そんな……消えた!? ユウヤさま!! ユウヤさま、どこですか!! ユウヤさまーッ!!」
焦げた瓦礫だけが積み上がる廃墟となった街の中心で、セレニィの叫びだけが虚しくこだましていた。
ーーなんだここは。
俺は街にいたはずだ。昼間の街にいたはずだ。
なのに、今は暗い。夜みたいに暗い。赤黒い空に、真っ黒な太陽が3つも浮かんでいる。
寒い。あたたかい季節のハズなのに。太陽の数は3倍になってるクセに。
チョロチョロと川が流れてる。……赤い川が。血のような液体が。
地面が妙に柔らかい。この感触は……まるで肉だ。生肉だ。色も、生臭さまでそう感じる。
地平線が見える。……遠い。確か地平線までの距離は4キロ程度だったはず。だが見た限り、とてもそんなモンじゃねぇ。10や20……いや50でも足りない。無限だ。無限としか思えない。この場所の広さに、"際限"が感じられない。
……違う!! 違う!! どこだここは!! なんだここは!?
位置とか、地区とか、領土とか!! そんなハナシじゃない!! ヒトが生きる所じゃない!! 俺が……俺がさっきまでいた所とは、全くの別物だ!!
「ーーココハ次元ト次元ノ狭間……。無数ノ世界ガ犇ク海原ノ一角ダ……」
そうして混乱する俺の前に、闇から滲み出るようにしてザナタイトが現れた。
「転移者デアル貴様ノ死二場所トシテハ、御誂向キダロウ……? フフ……」
「じ、次元……!? 狭間……!?」
その単語には聞き覚えがあった。確か俺がこの世界に転移した時、サザデーさんがそんなことを言っていた。
……待て。そうじゃねぇ。コイツ……今なんつった。もっと意味不明なことを言ったぞ。こ、コイツ今ーー
「……い、いやてめぇ……!! 転移者だと……!? な、なんでそれを知ってやがる……!!」
「当然ダ。私ヲコノ世二産ミ落トシタノハ、貴様ナノダカラ」
「は…………ッ??」
「私ハ……貴様ノ罪。アルイハ、菜藻瀬 雄弥トイウ生命ガ犯シタ罪ヘノ罰。ソレソノモノ」
「貴様ノ思想二、選択二、行動ニヨッテ生ヲ歪メラレタ者タチノ怨嗟ガ、私トイウ瘴気ヲ具現サセタノダ」
「…………分からねぇ。つ……罪……? 俺の? 何を……何を言ってんだお前……??」
「イズレ分カル。ゲネザーニデモ聞クガイイ……」
「!! なに!? ゲネザー!?」
やっと知ってる単語が出たと思ったらコレだ。よりによってなぜアイツの、アイツの名前なんだ!
「……そうかい……!! てめぇ、あのクソ野郎の仲間かよ……!!」
「仲間……フフ、サテドウカナ……」
「はぐらかすな、もういい!! こっちゃその手のバカ話にはウンザリしてんだ!! 街をブッ壊した上ゲネザーの知り合いとあっちゃいよいよ逃がすワケにはいかねぇ……!! ブチのめして何もかも吐かせてやるッ!!」
ーーようやく過多過大な情報の渦を振り切った雄弥は、全身から青白い魔力を解放。全神経を稼働させた臨戦態勢を取った。
「クフフ、ソウダ……ソレデイイ……! 貴様ハ私トイウ処刑台二、ソノ首ヲ差シ出シテイレバイイノダ……!」
それに応じるように、ザナタイトもまた魔力を解放。
ヒトの胎内とも思えるおぞましき空間の中、赤黒い光に照らされた両者の戦いが幕を開けた。
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