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第143話 雄弥 vs フラム 〜序〜




「ッがぁあああッ!! ぐが……ッがーッ!!」


 全身火だるまになった雄弥はガサガサの絶叫をあげながら地面を転げ回る。


 その間右手を軽く払い、火柱を消すフラム。つい先程まで木や雑草が元気よく生い茂っていたこの土地は、あっという間に微生物の1匹まで死に絶えた黒焦げの死地となった。

 フラム・リフィリア。その力は誰が見ても圧倒的、常人の域を遥かに超越している。……だが彼は今なぜかひどく怪訝な顔で、熱に悶える雄弥を凝視していた。


『……ヤツめ……なぜ生きている? 一撃で骨まで焼き尽くすつもりだったが……肉体の原型すら留めているとは。……くそ……! まだ僕の中に迷いがあるのか!? あの男に対する情けを、捨てきれずにいるというのか……ッ!?』


「……いや……悪魔に慈悲など必要無いッ!!」


 雄弥を殺しきれていない自分への歯痒さを噛み締めつつ、フラムは左手に真紅の魔力を宿らせて追撃に入る。


「ま、まで……!! まっでぐれブラムざん……ッ!!」


「"花熄(かしき)"、『挫苦炉(ざくろ)』ッ!!」


 焼けた喉から必死に声を絞り出す雄弥の制止も彼には届かず、フラムは左手のひらを地面に置いた。

 すると瞬く間に、地面が融解してしまった。土やその下の岩盤層が激熱によって液状化し、たちまちマグマの海が出来上がったのだ。


「ゔあ……!? ぐ……ッぞおおおおッ!!」


 それに溺れる前に、両足から『波動』を噴射して空へと避難する雄弥。上昇の際気流にあてられたことで身体の火はようやく消えてくれたが、彼の体表はすでに数えきれない水ぶくれで覆い尽くされている。


「逃がさん!!」


 フラムもすかさず、同じような足裏からの炎噴射で飛び上がってくる。


「ま……待でっでばブラムざんッ!! ゲホ……ッ、俺……じゃないッ!! 俺はそんなことしてないッ!!」


「言い訳は地獄でしろッ!! 貴様が殺した人たちの前でなァッ!!」



 "花熄(かしき)"、『阿陽裁(あじさい)』!!



「ぎゃ……ッ!?」


 ……次の瞬間、雄弥の右耳が切り落とされた。


 フラムが右手から、炎を凝縮させてつくった長大かつ超高熱の細い(むち)を出現させ、それが雄弥の耳に振り打たれたのだ。


「いぎぁあああああッ!!」


 傷口の血管は焼き潰され、血は出ない。代わりにその痛みは通常の怪我の何十倍とも測り知れない。雄弥は叫びながら涙すら漏らし、その間にフラムは彼の頭上まで飛翔する。


「『百火紅(さるすべり)』ッ!!」


 彼はそのまま眼下の雄弥に向けて火球掃射(かきゅうそうしゃ)の嵐を見舞う。

 熱帯雨林のスコールにも勝るその勢いにより、地上へと叩き落とされる雄弥。しかも火球は止まず、彼の身体はどんどん地面に埋め込まれていく。


 もう彼に、前は見えない。自分が呼吸をしているのかすらも分からない。

 つけいる隙の無いフラムの猛攻と、貼り付けられた身に覚えのない罪状、そして自分の身体の肉が焦げる臭い。雄弥の意識はそれらでぐちゃぐちゃだった。



『ーーマヨシーがやられたってどういうことだ。住んでる人たちがみんな殺されたって、なんだ!?』


『まさか……ゲネザー!? アイツがやったのか!?』


『だ、だがアイツの術は"氷"だ……!! 村を焼くなんてできねぇ!! それにアイツが村を潰そうと思えば、俺がいる間にだってできたハズだ!!』



「じ…………っちゃん…………ッ。…………イユ…………ッ」



 炎に撃たれ続ける雄弥が、無意識に発した名前。思い出すのだ。自分を助けてくれた人たちの名前、顔、そしてぬくもり。


『じっちゃんは……死んだのか? ……本当に!? イユが行方不明!? なんで!! なんでそんなことに!!』


『誰が!! 誰がそんなことをしやがったッ!!』



 脳内思考は生きている。

 ……だが雄弥の身体はもう死に体同然だった。火傷どころか身体の一部は炭化を進行させ、切り落とされ剥き出しとなった耳の穴中まで黒く染まっていた。

 

「本当にしぶといな……まだ息があるとは……!! だがこれで終わりだ!! こんどこそ、細胞の一片まで灰となれ!!」


 ここでようやく火球掃射をやめたと思えば、上空のフラムは両手のひらの照準を地に倒れている雄弥へと合わせ、これまでで1番大きく濃密な魔力をそこに集中させていく。

 魔力とともに、爆熱が撒き散らされる。すでに炭と煙だけの世界と化していた大地が、さらに細かい屑灰となって空気中に舞ってゆく。周囲の気温への影響が大きすぎたためか、空の雲が次々と妙な形に歪んでいく。

 

 その圧倒的な魔力を、殺意の塊を。……あの時(グドナル戦)と同じ恐怖を。

 朦朧とする意識の中で、雄弥は感じていた。

 



 ーーやべぇ、熱い。


 なんであの人怒ってんだ。なんで俺を殺すんだ。


 俺、なんもやってねーよ。

 そりゃ逃げたのは悪かったよ。でも俺はスパイじゃねぇ。誰も殺してねぇ。そう言ってんじゃーねぇかちくしょう。


 でもダメだ。あの人、全然ハナシ聞いてくんねぇし。もう大声も出ねぇし。

 逃げるのもムリだ。身体が動かん。そもそも動いたところであの人をどう振り切れってんだ。

 戦って倒す? バカ言うな。勝負にならねぇ。あの人といいグドナルといい、五芒卿(ごぼうきょう)ってのはバケモンばかりだ。


 怖え。

 今までで1番の大技がくる。どうにもできねぇ"死"がくる。誰かのための死ならまだいい。


 だがこれはなんだ。

 ありもしねぇ罪をひっかぶせられた挙句、こんな誰もいないところで死体も残さず無意味に消されようとしてる。……同じじゃねぇか、あの時(グドナル戦)と。

 

 …………イヤだ。

 

 イヤだ!


 ふざけんな……! こんなの認めてたまるか! 

 ここじゃない! 俺が死ぬべきはここじゃない! 死ぬとしても、絶対にここじゃない!


 約束だってした! イユと! 生きてまた会うと! 行方不明なんて……そんなのウソだ! アイツは俺がまた会いに行くのを待っているんだ!


 ユリンやシフィナも待ってる! ヒニケで待ってる! 他のみんなも、待ってくれてる!

 


 こんな、こんな……こんなところで……ッ!




「ーー終わって……たまるかあああァァァッ!!」


 


 雄弥の隻眼が、ギラリと光った。



「『砲穿火(ほうせんか)』ーーーッ!!」


 それに気づかずフラムは放つ。太陽が落下してきたと思い違うほどの大火閃を、地上に、雄弥に向けて。


 1人の人間を殺すためとしては明らかに過剰な術。星そのものを貫通せんばかりの莫大・爆発的なエネルギー。

 地平線までの距離はおよそ4キロ。360°全方位にわたるその範囲が、人智を置き去りにした破壊の結晶に押し潰され、天の神すら眼を(つぶ)るほどの激しい輝きに包まれた。

 

 


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 次回第145話は「覚醒、恐怖の開花」になります。

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