第127話 裏の進行 -メリッサ・デノム-
1人の、女がいた。
「ーーはい。私です」
「滞りなく完遂いたしました」
どこかも分からない真っ暗な場所。その闇の中で女は会話をしていた。自分の右手の上に浮かんでいる、黒く小さな光の球体と。
「アドソン・バダックは予定通りアンダーアレンの手によって死亡。ニビル・クリストンを除いた他の者どもも、全員始末いたしました」
「ーーお褒めに預かり恐縮です。ーーそうです、バニラガンの時と同じです。ジョンソン・フィディックスの精神にほんの少し手を加え、感情を暴走させてやりました。案の定、連中はすぐさまフィディックスを粛清することを決めた。あとは私がわざとその殺害の目撃者となれば、連中は私をも殺そうと追ってくる……全て計画通りです」
「ーーそうですね。あのリュウとかいう無関係の小僧が絡んできたことだけは誤算でしたが……ともかくこれで、連中の戦力を削り、エミィ・アンダーアレンの眠る力を引き出すという目的が同時に叶いました。またしばらくは様子を見ることになりそうです」
「ーーはい。あの子の力は想定通り……いえそれ以上でした。まさに"小さな英雄"にふさわしい力。あれならば十分に対抗できます。ユウヤ・ナモセ……あの悪魔に……」
「しかしやはり現段階では、力を破壊にしか転用できないようです。万能とは程遠い。あとは御しきることさえできれば……といったところでしょう」
「ーーええ。軍の連中は完全に思い込んでおります。駅周辺で怪我人や死者が1人もいなかったのも、全てあの子のおかげであると。ーーはい、アンダーアレンが気を失っている間にあの場にいた全員の傷を癒やし、目撃者には1人残らず記憶操作を施しました」
「ーーは、おっしゃる通りです。しかしバダックが私の方を先に撃ち殺してしまったものですから……。私1人だけ蘇ったのではあまりにも不自然だと判断し、全員を蘇生・治癒することにしたのです。ご安心ください。"メリッサ・デノムの魔力"は使っておりませんので」
「ーーもちろんその点もぬかりなく。ニビル・クリストンの部下たちの死も、口封じを目的とした仲間内での処刑によるものだとされました。我々第三者の介入など彼らにとっては想像の外です。今後はクリストンの証言に振り回されるでしょうし、我々の存在にたどり着くことなどありはしません」
「ーーところで……あの小僧はどうします? ーーそうです、リュウ・ウリムです。偶然の拾い物ではありましたが、彼も十分な天賦を……おそらくアンダーアレンとは逆の才覚を授かっております。いずれ役に立つ時が来るかと……」
「ーーは、承知しました。アンダーアレン共々監視を続けます」
「ーーええ。では……いずれまた」
「…………ユランフルグ様…………」
女……メリッサ・デノムは手中の光球を消し、その姿を闇に沈めた。
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