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第100話 五芒卿(ごぼうきょう)




「ーーフラム・リフィリア……? ま……まさか……〈煉卿(れんきょう)〉フラム……ッ!?」


 鶯髪(うぐいすがみ)の男の名乗りを聞いたイユは、真っ白なその顔を青ざめさせる。


「……れんきょー? なんだそりゃ?」


「なに? 貴様このお方を知らないのか?」


「この田舎者め……貴様それでも公帝陛下の臣民か? 恥を知れ恥を……!」


 きょとんとする雄弥に、口々に苦言を呈する公帝軍兵士たち。


「我ら公帝軍兵士の中でも選りすぐりの戦闘能力を有する5人の兵士で構成された、精鋭集団"五芒卿(ごぼうきょう)"……! ここにおわすフラム・リフィリア様はその一角を担う者として、〈煉卿(れんきょう)〉の称号を与えられたお方だ……!」


『……憲征軍(ウチ)でいう3大最高戦力ってことか。なるほど納得だぜ……。コイツから感じるプレッシャーは、アルバノさんにそっくりだ……』


 雄弥は眼の前に立つ優男から発せられる強烈な威圧感によって吹き出た汗で、すでにシャツの背中をじっとりと濡らしていた。


「……で? そんなお偉いさんが俺なんかに何の用だ?」


 対するフラムと名乗った男は、相変わらずどこかカンに触るような作り笑いを浮かべながら答える。


「この森を抜けたところに海岸があるでしょう? 今から1ヶ月前、そこで妙なものが見つかりましてね。魔術によって上半身を丸ごと吹き飛ばされた、魔狂獣(ゲブ・ベスディア)……エドメラルの死体が」


「!!」


 つくづく、雄弥は正直すぎる。フラムの言葉を聞いた途端分かりやすく身体を硬直させ、動揺による不自然な(まばた)きをする。


「……我々は、そいつを仕留めた危険人物を探しているのです。それこそ僕のような"五芒卿(ごぼうきょう)"にも匹敵しかねない魔力を持つであろうその人物を……」


 当然それにはフラムも気づいていた。その証拠に、彼の口元はまだにこやかだが、眼はとっくに笑っていない。雄弥を牽制するような明確な敵意を含んでいた。


『し、しまった……!! 死体を完全に消しておくべきだった……!! ち……ちくしょう……なんで俺ってヤツはいつも肝心なところで詰めが甘いんだ……ッ!!』


「最後の摘発を行なった3ヶ月前から今日までの間にこの地区に訪れた者は、全て調べた。結果その誰にも、魔狂獣(ゲブ・ベスディア)を倒せるだけの力は無かった。残る調査対象はあなた1人……というわけですよ。ちょうどエドメラルの死体が見つかった1ヶ月ほど前から、この混血の娘の家に身を寄せているとの目撃情報があるあなたがね。さらに、失礼だがあなたのその身体中の傷痕……普通の生き方をしていれば、絶対に負いようがないものだ。こちらとしても人を疑うというのはまことに心苦しくはあるのですが……まずはあなたの名前と年齢、出身をお伺いしたい」


 後悔してももう遅い。雄弥はこの男の言うことに従うしかないのだ。


「……ユウヤ・ナモセ。18歳。出身はーー」


 が、またもや彼の口は止まってしまう。いや止めざるを得なかった。



『ま、まずい……なんて答えりゃいいんだ!? ヒニケやゼルネアは憲征領だ!! 敵領土の出身なんて言ったら、それだけで牢にぶち込まれてもおかしくねぇ……!! かと言って日本っつってもコイツらには通じねぇし……!!』



「しゅ、出身、は……」


 雄弥はこの世界の土地や国の名前などほぼ全く知らない。出まかせを言うことすらできないのだ。

 彼の額からどんどん汗が(にじ)み、彼のうしろに立つイユもおろおろとする。


「どうしました? 何か……答えられない理由でもあるのでしょうか?」


 そう聞くフラムは、明らかに確信犯の顔をしていた。


「……どうやらそのようですね。ならば仕方ない。身元不審として、1度我々と共に来ていただきましょうか」


「ま、待って!! ユウヤは別に悪い人じゃないんです……!!」


「それを決めるのはきみではないよ、イユ・イデル」


 イユの制止も一蹴したフラムは雄弥の麻痺している右腕を掴むと、それを拘束するべくポケットから手錠を取り出す。



 どうする。どうすりゃいい。


 ここで捕まっちまったらおしまいだ。俺の力のことや憲征軍所属であることがバレるのも時間の問題になる。


 でも抵抗すれば疑いはもっと深くなる上、イユやじっちゃんにまで迷惑がかかる……!


 どうする……どうする……!! どうする、どうする、どうする!?



 何もできない。今まさに右手に手錠がかけられようとしているのに、彼は考えるだけで何もできない。



 その時ーー



「!? うわぁあああァッ!?」



 小屋の前に群がっていた兵士のうちの1人が突如、空中へと()()()()()()()


「!! なんだ!?」


 振り返ったフラムの黒眼に映ったその兵士の腹には、何やら白く太い糸のようなものが巻き付いている。

 それは、小屋の周りに立ち並ぶ高木(こうぼく)の1本の上から伸びているようだった。


 糸の先……地上20メートルの木の枝の上にいたのはーー




「ーージ、ジジ、ジジジジジジジジジ……!」



 

 尻の先から糸を垂らし、鋭い歯をガキガキと鳴らす、巨大な蜘蛛(くも)型生物であった。




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