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第51話 甘酒パーティー

◇◆◇



「……懐かしいですね。あれから僕の屋敷で麹たちは順調に育っていますよ。本当に可愛い子達です……」



 あれからしばらくが経過して、今はブルーフォレスト家で新年パーティーが行われている。


 父であるブラウン男爵に連れられてきたマシューさんは、ブラウン家における調味料作りが順調なことを報告してくれた。


 ちなみに私も時間がある時にちょこちょこ顔を出しては、新しい調味料の味見なんかをさせてもらっている。



「閑散期の農民にも手伝ってもらい、かなりの規模で製造を行いました。品質も申し分ないですし、完成が待ち遠しいです。……まあ味噌の完成までにもう数ヶ月、醤油はもう半年ほど待たなければなりませんが……」


「気長に待ちましょう。美味しい調味料が出来ることを楽しみにしています」


「ふふ……僕も楽しみですよ。あの甘酒……また飲みたいものです……」



 そう言ってマシューさんは、あの甘酒の味を思い出したのかうっとりとした表情を浮かべる。私は思わず笑ってしまった。この人は本当に甘酒が気に入ったんだな……。


 そんな私を見ながら、ラウル様がワインを一口飲むと口を開いた。



「実はな、今日は客人の皆に振舞う為に甘酒を用意しておいた。早速、試飲してもらおうではないか」


「あ、それはいいですね。ぜひお願いします」


「もちろんだ。エリオット」


「はっ、ラウル様」



 ラウル様が指示すると、すぐ側に控えていたエリオットさんが厨房に向かう。


 しばらく待つと、レノアさんやリリたちと共に戻ってきた。ワゴンに大きな鍋を乗せて、その鍋からは白い湯気が立ち上っている。



「お待たせしました」



 エリオットさんが持ってきた鍋の蓋を開ける。中からは白い湯気が立ち上り、その向こうにはドロっとした白い液体が見えた。


 甘い香りが会場内に漂う。パーティーに招かれた賓客たちは何事かと鍋に寄ってくる。エリオットさんが口を開いた。



「皆様、こちらはエルシー様がご用意した甘酒と呼ばれる飲み物になります。昨年収穫した米を用いて作られた甘味飲料です。ブラウン男爵家の御子息マティアス殿が収集・研究した麹なる菌類も原料に使われております。ぜひご賞味ください」


「それは楽しみだ。頂こう」



 賓客たちはエリオットさんの説明に頷くと、我先にと甘酒に口を付けた。そして一口飲んだ瞬間、全員が目を丸くして驚きの表情を見せた。



「おお……! これは……!」


「美味しいです! とても甘いのですね!」


「体が温まります!」



 あちこちから喜びの声が上がり、会場は一気に盛り上がった。


 評判が評判を呼び、少し遠巻きに見ていたお客様も鍋に近付いてカップを受け取る。


 そして恐々と口に含むと、その表情を綻ばせた。


 そんな様子を私とラウル様とマシューさんは満足げに眺めている。お客様の中にはお代わりを希望する人まで現れた。


 エリオットさんがカップに注ぎ足すと我先にと受け取り、会場内を行き来しては嬉々として口に運んでいる。



「良かったです。皆様に喜んでいただけて」


「うむ。米料理はどれも評判が良く、食材としても注目されている。中でもこの甘酒は皆の反応を見る限り成功だったな」


「これもラウル様やマシューさんのおかげです」


「……エルシー様のお力があればこそですよ」



 マシューさんはそう言うと、遠くではしゃいでいる招待客を見つめた。



「ここまで米の美味しさが知れ渡れば、米を使った料理や調味料の需要も高まるだろう。そうなれば醤油や味噌の味もさらに広く受け入れられるようになる筈だ」


「はい! これからも美味しいものをたくさん作って、色んな人に広めていきましょう!」



 こうして大盛況のうちに、ブルーフォレスト領内における新年パーティーは大盛況のうちに幕を下ろした。

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