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第24話 ダニー・スカーレットの誤算

「あ~ら、エルシーお姉様じゃありませんの! お久しぶりですこと!」


「ダニー。ええ、久しぶりね」



 エルシーは穏やかな笑顔を浮かべる。


 その落ち着き払った態度に、ダニーはますます苛立ちを募らせた。


 嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まない。そう思ったダニーは、エルシーの耳元に顔を寄せて囁くように言う。



「随分と良いドレスを着ているようだけど、醜いと噂のブルーフォレスト辺境伯に仕立てていただいたのかしら? 醜悪辺境伯に身を売ることで手に入れた地位と財産……いくら煌びやかでも哀れですわね」



 ダニーは小声でそう言うと嘲笑を浮かべる。しかしエルシーは特に動じた様子はなかった。



「ダニー、そんな失礼なことを言わないで。ラウル様はとても素敵な素晴らしい方よ。あなたが考えているような人ではないわ」


「あらあら、そうやって自分に言い聞かせないと、自分の惨めさに耐えられないのかしら? まあいいですわ。あなたがどれだけ強がろうとも、醜悪な辺境伯に嫁いだ事実に変わりはありませんもの。今更高位貴族の方々に囲まれても、あなたの夫は醜悪辺境伯ですもの。意味がありませんわ。さあ、従姉妹のよしみで高位貴族の皆様にわたくしを紹介なさいな!」



 ダニーが勝ち誇ったような笑みを浮かべて周りの貴族たちに目を向ける。


 そして一人の青年を見て、心を奪われた。


 スラッとした長身に美しい金髪。知的な青い瞳。これまでダニーが見てきたどんな男性よりも、気品があって美しい容姿をしている。


 まるでダニーが思い描いてきた理想の男性像を体現したような存在だった。



「だ、誰かしら……? あんな殿方、見たことがないわ!?」



 ダニーは青年に釘付けになる。そして思わずエルシーの肩を掴んだ。



「え、エルシー! あの殿方をわたくしに紹介なさって! 今すぐに!!」


「ダニー!?」


「早くしなさいよ! わたくしは早くあの殿方とお話がしたいの! さあ、紹介して!!」



 ダニーの勢いに押され、エルシーは思わず頷いてしまう。



「わ、分かったわ。ラウル様、よろしいでしょうか?」


「ああ、構わないぞ」



 ラウルは快く了承し、ダニーの前に出る。ダニーは期待と興奮に目を輝かせた。



(これは……見たところ伯爵、いいえ、もっと上の身分ね! 年齢は二十代前半といったところかしら? 立ち居振る舞いが堂々としていて気品があって、おまけに容姿も端麗! わたくしの理想の殿方だわ!)



 ダニーは心の中でそう呟く。この殿方に嫁ぐことができれば、きっと幸せになれるに違いない。


 何がなんでも物にしなくては! そう決意するダニーだが、その美青年から発せられた自己紹介に凍りつくことになる。



「初めまして、ダニー・スカーレット嬢。私の名はラウル・ブルーフォレスト。北の土地を治めるブルーフォレスト辺境伯を務めている」


「……………………は?」



 聞き間違いだろうか。この人は今、なんと言ったのた。


 ラウル・ブルーフォレスト辺境伯。


 それは王国の貴族の中で一番醜いと評判の、あの辺境伯の名前ではなかったか?


 そんな醜い男と結婚するのが嫌で嫌で、自分に来た縁談をエルシーに押し付けた。その相手の名前ではなかったか……?


 まさか。そんな筈はない。これは何かの間違い。いや、聞き間違いに違いない。必死に現実から目を逸らそうとするダニーだが――。



「もうじきにエルシーと正式に結婚する予定だ。エルシーの従妹である君にもぜひ参加していただきたい」


「は、は、はいぃぃぃ!?」



 淡々と告げるラウルの言葉に、現実感を取り戻したダニーは思わず叫び声を上げた。

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