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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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8.個性『絆』

 穢れの騒動から一夜明けた朝。

 私とユーリは教会街で一番大きな図書館を訪れていた。

 案内してくれている職員さんが立ち止まる。


「ここが聖女様について書かれた本の棚です。うちは王都の大図書館よりも古いですからね。数はありませんが、それなりに古い本もありますよ」

「ありがとうございます。探してみます」

「いえいえ。では何かあったら呼んでください。私は受付にいますので」

「はい」

「案内ありがとうございました」


 ユーリが深くお礼をして、私も一呼吸遅れて頭を下げる。

 職員さんが見えなくなるまで見送ってから、私たちは揃って本棚へ身体を向けた。

 ユーリが腰に手を当てて言う。


「さてと、探すか」

「うん」


 私たちは本を手に取り、中身をパラパラめくっていく。

 探しているのは聖女について書かれた本。

 その中でも、歴代聖女の個性について詳しく記されているもの。


 くどいようだけど、聖女には個性がある。

 当たり前のことだから、深く考える人は少ない。

 ただ、私にはその個性がない。

 と、つい昨日まで思い込んでいた。

 だけど今は、違うと思っている。

 あの時、私の中にある聖女の力が急激に強まって、あふれ出たようだった。

 身体がすごく熱くなって、奥から何かが膨れ上がるような感覚。


「あんなの……今まで一度もなかったのに」

「才能が眠っていたのかもしれないな」


 ユーリはそう言いながら、手に持っていた本を閉じて棚に戻す。

 

「もしくは条件があるのか……どっちにしろ、あんなことが出来るのに、無個性だなんてありえない」

「……うん」


 ユーリがそう言ってくれたから、私は一つの心当たりに行きついた。

 だから、おぼろげな記憶を頼りにこうして本を探している。

 

「なぁレナ。君が言っていた本って、どんな題名だったんだ?」

「えっと、確か聖女の日誌? みたいな名前だった気がするよ」

「随分曖昧だな。いつ読んだの?」

「どうだったかなぁ。大聖堂に入る前だったと思うよ。屋敷にあった本で一番古かったのは覚えてる」


 探している本は、一度読んだことがある。

 ペルル家の屋敷にある書棚にあった本。

 その本の最後、数ページにだけ書かれていたのは――


「おっ! もしかしてこれじゃないか?」

「見つけたの?」

「たぶん」


 ユーリが手に持っている本を見る。

 黒背表紙と、横から見えるページは茶色く黄ばんでいて、古さが一目でわかるほどだ。

 見覚えがある外観に喜び、両目を大きく見開く。


「それだと思う!」

「良かった。えっと、最後のほうのページなんだよな?」

「うん」


 ユーリは本を左手に持ち、右手でページをめくる。

 私は隣から覗き込むように眺めながら、懐かしい記憶をたどる。

 自分が聖女であると知り浮かれ、無個性だと知って悲しみ、そんなはずはないと逃避した。


「あった」


 だから、このページを読んで僅かに希望を持ったことを思い出す。

 私とユーリは一緒に、ページの冒頭に書かれた言葉を口にする。


「「絆の聖女」」


 今からずっと昔に存在したとされる聖女の一人。

 絆という個性を持ち、特定の誰かと繋がり絆を深めることで真の力を発揮する。

 弱い絆では力を十分には発揮できないとも、この本には書かれていた。


「レナが言っていた心当たりはこれか」

「うん。もしかしてなんだけど、私がそうなんじゃないかなって」

「絆……か」


 穢れとの戦いを思い出す。

 ユーリが私を守ろうとして傷つき倒れかけた。

 それでも倒れず立ち上がり、彼は私を守るために剣を握った。


「あの時……ユーリが死んじゃうかもしれないと思って、悲しくて……思ったの。死んでほしくない。離れたくないって。そしたら力が溢れてきて」

「俺はただ、レナを守りたかった。ここで倒れたら君が死んでしまうかもしれない。だから倒れるわけにはいかないんだって、強く自分に言い聞かせたよ」

「うん……すごく伝わったよ。ユーリが本気で私を守ろうとしてくれてること」


 傷つき、命だって危うい状況だった。

 逃げ出したって文句は言わない。

 そんな中、彼は臆することなく立ち向かい、私の前を譲らなかった。

 嬉しかったし、格好良かった。

 思い出すと、何だか恥ずかしくなってきて……


「俺が考えていたのは君のことで、同じように君も俺のことを心配してくれていたんだな。互いに互いを心配して、心から失いたくないと思った。だから絆の力――で……」


 と、途中まで話して互いの顔を見つめる。

 ユーリの頬がほんのり赤くなって、私の頬も徐々に熱くなる。

 彼は無意識に言葉を紡いでいたらしい。

 その意味を今さら理解して、恥ずかしくなって顔を背けた。


「か、確証はないけどね?」

「そ、そうだな」


 恥ずかしくて、ユーリの顔が見れない。

 ユーリも同じように顔を背けているだろう。

 絆の聖女という言葉が頭に浮かんで、もしそうなら私たちは、あの時確かな絆で結ばれていたということになる。

 そんな風に思ったらどんどん恥ずかしくなって、顔がポカポカ湯気が出そうになる。

 するとユーリが、ぼそりと口にする。


「確証はない……けど、当たってるといいな」

「え?」


 思わず顔を見た。

 ユーリは思った通り横を向いていて、頬がさっきより赤い。

 そのまま横を向きながら、ユーリは続ける。


「お互いを思いやる気持ちが力になったのなら、それってすごく良いことだろ?」


 恥ずかしそうに、嬉しそうに。

 ユーリの言葉に私の心臓は大きく鼓動を打つ。


「うん」


 私も、そうであってほしいと思った。

 

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