始まりの絆④
僕たちが聖女ラトアリスに保護されてから二年。
彼女の読み通り、戦争は終結した。
勝者が決まった故の終わりではない。
負の感情が増幅したことで、世界中で大量に穢れが発生してしまった。
各国ともその対応に追われ、人間同士で争っている場合ではなくなったのだ。
そして――
「皆さんどうか希望を捨てないで! 私たちには天の加護がついています!」
穢れと相対する者たちの中心に、僕とミカエルは立っていた。
ラトアリスに保護されてから彼女の活動に協力し、世界中で増え続ける穢れと戦った。
僕は剣術を身につけ、ミカエルは聖女の力を身につけた。
穢れに対抗できるのは聖女の力のみ。
その加護を受ける僕のような存在を、聖女の騎士と呼んだ。
ちょうど同じ時期だろう。
穢れが増えると同時に、世界各地で新たな聖女が誕生し始めたのは。
きっと世界の意志なのだとラトアリスはよく語っていた。
「おおー! 聖女様の力だ!」
「ありがたや~ ありがたや~」
僕たちは世界中を駆け回った。
各国のお偉い様と謁見して、現状を伝えると同時に協力を要請した。
人間同士で争ったから今のような世界になってしまった。
これからは手を取り合い、支え合って生きて良くべきだと。
どの国も、僕たちの声には寛容だった。
世界の現状が物語っていたからだ。
争いを続けていたのは……間違いであったと。
戦争が終結し、人々が一つにまとまっていく。
穢れという共通の障害を前にして、ようやく人間は助け合うことを知った。
争いがなくなれば穢れの出現は抑えられる。
当初はそう想定していたものの、一向に減る気配はなく、むしろ増え続けていた。
「どういうことだ? まったく状況が変わらんではないか!」
「聖女たちは何をしているのだ?」
「もっと我々の国に協力を! 他国より人口は多いのですぞ!」
自分勝手、いい加減。
彼らは団結しているように見えて、裏では互いに出し抜こうと画策していた。
穢れが減らない原因はそこにあった。
表面上では協力していても、裏で、別の形で争いは続いていたんだ。
加えて戦争の爪痕はいつまでも残っている。
悲しみや後悔といった感情が消えることはなく、時間が経つにつれ増幅していった。
それでも……いつか終わりが来ると信じていた。
「ラトアリス様!」
「うっ……」
現実は残酷だ。
国を一瞬で滅ぼせるほど巨大な穢れと戦い、ラトアリスは弱り切ってしまった。
聖女と言えど人間だ。
無理を出来る限度という者が存在する。
彼女は頑張り過ぎて、限界を迎えてしまったんだ。
「どうか悲しまないで。きっと大丈夫だから」
涙を流すミカエルに、彼女は優しく微笑む。
彼女は最後まで信じていた。
人間の善性を。
いずれ手を取り合い、本当の意味で支え合える日が来ると。
そうして息を引き取った。






