始まりの絆③
淡い光が僕たちを包む。
穢れは消滅し、周囲から危機は消え去る。
依然状況を把握できない僕たちは、光が消えるまでの数秒間、ただ互いを強く意識していた。
握った手を離さないように強く握りしめ、見逃さないように目と目を合わせる。
そうして光は徐々に弱まり、完全に消える頃には心も落ち着いて。
安心した所為か、僕たちはほぼ同じタイミングで意識を失ってしまった。
数時間。
いや、もっと経過していただろう。
僕は不規則な揺れと一緒に目を覚ました。
「ぅ、うう……」
見知らぬ天井だ。
それに狭くて、揺れも続いている。
移動中の馬車の中にいるとわかったのは、身体をむっくりと起こした時だった。
「ここ……」
「アレスト!」
「ミカエル?」
心配そうな顔で僕を見つめるミカエル。
表情の理由と一緒に、穢れに襲われた時のことを思い出す。
僕は慌てて彼女の安否を確認する。
「良かった! ミカエルも無事なんだね」
「うん」
「そうか……じゃあ、ここは一体」
「私たちの馬車の中ですよ」
今度は聞き覚えのない女性の声が聞こえた。
気付けば僕たちの他にもう一人、金色の髪をした美しい女性が乗っていた。
彼女は僕と視線を合わせると、ニコリと微笑む。
「あ、貴女は誰ですか?」
「私はラトアリス、この子と同じ聖女よ」
「聖……女?」
聖女ラトアリス。
光を司る聖女との出会いが、僕たちを運命へと導く。
僕たちは彼女から聖女のことや穢れについて教えてもらった。
どうやら僕たちは運が良かったらしく、意識を失った後で偶然近くを通りかかった彼女に見つけてもらえたらしい。
彼女曰く、強い祈りの力を感じ取ったとか。
「この出会いはきっと運命だわ。貴方たち二人が、世界にとって希望になるかもしれない」
「希望?」
「僕たちが?」
彼女は言う。
いずれ世界の争いは終わり、穢れによって滅亡の道を進んでしまうと。
穢れは人々の負の感情から生まれる。
争いが激化し、恐怖や絶望、恨みの感情が迸る世界で、人々は安らかに生きることは出来ない。
もはや止められない段階まで来てしまった。
僕たちが出会った穢れもきっかけに過ぎない。
彼女は滅びの未来を予見し、それを回避するために行動を起こしていた。
同じ聖女を集め、理解者を募り、戦争が激しさを増す裏側で彼女たちは穢れと戦っていたんだ。
そんな彼女たちに保護され、僕たちは幸運だったんだろう。
放置されれば死ぬ運命にあった僕たちは、彼女と出会うことで未来を手に入れた。
しかしこれが、永きにわたる孤独の第一歩となることを、僕はまだ知らない。






