幸せのエピローグ
50話の補完とその後です。
聖女とは、天より力を授かった乙女。
神の代行者であり、世界に救いをもたらす存在。
彼女たちには個性がある。
空、風、大地、炎……それぞれに司る祈りの形によって、聖女たちは力を示す。
その中の一人。
大切なたった一人を見つけ、共に生き、支え合い、信じ合うことで誰よりも強くなれる。
そんな聖女がいた。
名をレナリタリー・ペルル。
彼女は――『絆』の聖女である。
◇◇◇
ユーリの告白より少し前のこと。
ガタゴト、馬車が揺れる。
王都から離れるほどに道は長く、険しく、ゴツゴツしている。
乗り心地に関しては、どんなに高級な馬車でも変わらない。
その揺れを鬱陶しく感じるのが普通かもしれないけど、私は少し違っていた。
「もうすぐ着きそう?」
「よく気付いたな。もう見えて来てるぞ」
馬車を運転する彼が、目指す街の方角を指さしてくれた。
私は馬車の窓から顔を出し、その街を見つける。
遥か遠くの美しい街。
私たちの街。
「帰ってきたね、アトランタに」
「ああ、帰ってきた」
王都での一件を終えて、私たちはアトランタの街に帰還した。
馬車をさらに走らせ、街に入ったら馬車を停める。
そこからは徒歩で、街はずれの教会まで歩く。
「あら聖女様? お戻りになられたのですか?」
「はい。つい今しがた戻りました」
「あらあら、それは嬉しいですね。また今度、教会に足を運ばせていただきます」
「はい。お待ちしていますね」
街を歩いていると、いろんな人たちに声をかけられる。
不在だった期間はざっと二週間ほど。
短い時間なのに、無性に懐かしさを感じるのはなぜだろう?
「街を歩いているだけで懐かしいのに、教会に戻ったらどうなっちゃうのかな?」
「さぁな。下手したら涙が出るかもしれないな?」
「ふふっ、そうかも」
ユーリは冗談みたいに言うけど、本当に泣いてしまうかもしれないと思った。
それくらいの出来事が、連続で起きたから。
王都でのことを思い返しながら、馬車を走らせた帰路に目を向ける。
「アレスト様……笑ってたね」
「ああ。形は違うけど、ようやく再会できたんだ。それだけ嬉しかったんだと思う」
「そうだね。お互い大切で、大好きなのに、離れ離れは辛いよ」
「……そうだな」
そう言って、ユーリは空を見上げる。
一瞬だけ見えた表情は、何かを覚悟しているように見えた。
後悔はしないように。
私の中で、ミカエル様の言葉が蘇る。
今やれることは今やるべきなんだ。
そう思って、密かに私も決意する。
そして――
「ねぇユーリ」
「何だ?」
「私、ユーリのことが好き」
「――! ああ……俺も好きだ」
教会に戻った私は、ユーリに自分の思いを告げた。
嘘偽りなく真っすぐに。
後悔しないように、今できることをした。
するとユーリは、驚くほど速く返事をくれたんだ。
「ったく、ずるいぞレナ」
「え?」
「そういうのは男の俺から言わせくれ。教会についたら告白しようと覚悟を決めたのに。まさか先を越されるとはな」
「ユーリも?」
ユーリは照れくさそうに一瞬目を逸らし、すぐに戻して小さく頷く。
そうか、あの時空を見ていたのは、私に告白するって決めたから。
覚悟したような表情も、私の見間違えとかじゃなくて。
「そっか……ふふっ」
「何だよ」
「ごめん。でも何だか嬉しくて。ユーリも同じだったんだなって」
「当たり前だろ」
当たり前、か。
そんな風に思ってくれる人が現れるなんて、少し前までは考えもしなかった。
専属騎士さえロクに決まらなかった私が、誰かを好きになって、誰かに好きになってもらえて。
ああ、何というか本当に――
「今が一番幸せだなぁ」
「馬鹿だな。これからもっと幸せになるさ」
「ユーリがしてくれるの?」
「もちろん。いや……幸せは、二人で作っていくもの……かな?」
照れくさそうに、顔を赤くしたユーリが言う。
私はそれが嬉しくて、めいっぱいの笑顔で答える。
「うん!」
これが私たちの始まり。
幸せのプロローグ。
絆は紡がれ、未来に繋がっていく。
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