50.絆の聖女は信じたい
――ユーリ……ユーリ!
「聞こえてるよ、俺にはちゃんと」
「こ、これは……」
俺たちの身体を包む淡い光は聖女の力。
レナと、ミカエル様の力。
「ぐ、おお、こんな……力が……穢れの力がぁ!」
俺にとっては温かくて心地良い光。
しかし穢れを宿すアレストには対照的に、苦しさが襲っている。
これは絆の聖女の同調。
しかも同じ絆の個性をもつ聖女同士が同調している。
互いに力を増幅させたことで、ミカエル様と繋がっているアレストにも力が流れ込んでいる。
俺の心に、レナの声が聞こえる。
お願いユーリ、アレスト様を助けてあげて。
「助けて……か。そうだよな、レナはそう言うよな」
アレスト様を助けて!
ユーリなら出来るから!
あの人をこれ以上苦しませないで。
「ああ」
教えてあげたいの。
ミカエル様の気持ちを、アレスト様に!
「届けるよ」
それが俺の役目だ。
折れた剣に光を収束させ、聖女の力を込めた新たな刃を構成する。
この刃に人は斬れない。
斬れるのは、悪しき穢れだけ。
「なぜだ……なぜなんだミカエル! 君だって同じ気持ちだろう? 僕と同じ……どうして拒むんだ!」
苦しむアレストに一歩ずつ近づき、俺は剣を振り下ろす。
「ミカエルー!」
「その答えは直接、彼女に聞いてください」
振り下ろされた刃は、彼の中にあった穢れを切り裂いた。
そして――
◇◇◇
川のせせらぎと小鳥の囀り。
吹き抜ける風は心地よくて、太陽の日差しは温かくて眠ってしまいそうになる。
穏やかな場所。
ここはミカエルとアレストにとって、思い出の地。
「アレスト」
「ミカエル……」
精神世界で二人は顔を合わせていた。
アレストにとっては念願の再会だろう。
しかし表情は暗い。
穢れを祓われ理性を取り戻したことで、彼はどうしようもない罪悪感に襲われていた。
「僕は……間違っていたのかな?」
「ううん、そんなことないわ」
「でも……君のためなんて言いながら、結局は自分のためだった。寂しかったんだ……僕は」
「私だって同じよ。ずっと……寂しかったわ」
二人の瞳からは涙がこぼれ落ちる。
決して責めることはしない。
戒めることもない。
言葉なんて必要もないくらい、二人は通じ合っているから。
「ミカエル……僕は……君と触れ合いたい。話したいことがたくさんあるんだ」
「私もよ」
二人は抱きしめ合う。
熱を感じて、鼓動を聞くために。
「でも……無理なんだね。僕たちは……」
「そんなことないわ。貴方も見たでしょう? あの子たちの輝きを。私一人じゃ貴方を助けられなかったけど、彼女のお陰でこうして話すことが出来たわ」
「ああ……そうだね。二人は凄いよ」
「ええ。だから私は信じているの。いつかまた、貴方やみんなと笑って生きられる日を」
信じることこそ、絆の力。
それを誰よりも、二人は知っていた。
アレストは忘れていたことを思い出す。
「そうだ……そうだったね。君が信じるというのなら僕も信じよう」
「ええ。一緒に信じましょう」
◇◇◇
結晶の前で、アレストは目を覚ます。
ゆっくりを瞳を開くと、その先には私たちがいた。
何だか少しがっかりしているようにも見えたけど、起き上がった彼は結晶に目を向ける。
「お話は出来ましたか?」
「……ああ、お陰様で久しぶりに話せたよ」
そう言った彼は清々しい表情で笑った。
穢れが消え、元の彼に戻ってくれたようでホッとする。
でもまだだ。
彼のこともミカエル様のことも、何も解決していない。
「私……探してみます! 世界を守れて、ミカエル様も解放できる方法を」
「そんな方法あるのかな?」
「わかりません。でも私は……信じたいんです。思いの力が、絆の力が世界を守ってきたのなら、いつかは穢れだって生まれない世界を作れるんじゃないかって」
ただの空想、妄想だ。
そんなことありえないと、誰もが言うだろう。
「レナがやるなら俺もやる。君が信じるものを守ることが、俺の役目だ」
「うん」
それでも、信じてくれる人がいる。
支えてくれる誰かがいる。
だから私は諦めない。
私は最後まで信じたい。
「少しだけでも良いんです。私たちのこと……信じてはくれませんか?」
「……ふっ」
アレスト様は笑う。
重荷を全て降ろして、一呼吸着いたみたいに心を緩めて。
「彼女が信じると言ったんだ。僕だって信じるさ」
その言葉を聞いて、私とユーリは顔を見合わせる。
ただ嬉しくて、笑顔を見せる。
◇◇◇
数日後――
「ぅ、うーん……やっと帰ってこられたね」
「ああ」
私とユーリは教会に帰ってきた。
ラトラはまだやることがあるからと王都に残った。
数日後には合流するだろう。
しばらくは二人きり……そう、二人きりだ。
「後悔しないように……か」
「ん? どうかしたか?」
不意にミカエル様の言葉を思い出した。
あれがどういう意味なのか、何を諭しているのか。
考える必要もない。
彼女の心を私が感じたように、私の心も彼女には見透かされていたのだから。
後悔は……したくない。
するこくらいなら、馬鹿みたいに信じてみよう。
「ねぇユーリ」
「何だ?」
「私、ユーリのことが好き」
「――! ああ……俺も好きだ」
思いはきっと、通じ合っているから。
これにて第二章完結です!
長らくお待たせいたしましたがいかがだったでしょうか?
ちょっとでもキュンキュンしてくれてたら嬉しいです!
少しでも面白いと思った方は、評価などしてくれたなら尚嬉しいです。






