表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/56

5.辺境の街

 サルバーレ王国最北端。

 一年を通して雪で覆われた山脈を超えた先に、小さな街がある。

 街の名前はアトランタ。

 大昔、人々の楽園がこの地にあったという伝承から、この名前は付けられたそうだ。

 しかし伝承はあくまで過去のこと。

 今の街の風景を見れば、楽園とは程遠いとわかるだろう。

 食料や物資は毎年ギリギリで、他の街とも離れているから協力もし辛い。

 国からは半ば忘れられて、援助なんてない。

 寒さと貧困に耐えながら、人々は慎ましい生活を送っていた。


 そんな街にも、最近は良い変化があったと、怪我をしたお爺さんは言う。


「聖女様が来てくれたことだよ」

「そんな、私なんて何も……」

「何を言う。こうしてワシの怪我も治してくれた。昨日は家内の畑を手伝ってくれたそうじゃないか。わざわざすまんのう」

「い、いえ、私には傷を治すことくらいしか出来ないので、これくらいは」


 俯く私とは対照的に、お爺さんは天井を見上げる。

 街の外れにある小さな教会は、所々が錆びて壊れかけているけど、ちゃんと建っていた。

 そこで私は今、聖女として働いている。


「この街には……長らく医者もおらなんだ。ちょっとした怪我が原因で、命を落とした者もおる。貴女はこの程度というがな。ワシらにとっては大切なことなんじゃよ」

「お爺さん……」

「そうそう。人からの好意は、ちゃんと素直に受け取るべきだと思うよ」


 私の後ろからそう言ったのは、騎士の格好に身を包んだユーリだった。

 

「レナは自分を過小評価しすぎだ。これまでのことがあるし、多少は仕方ないと思うけどさ。君に助けられてる人は確かにいるんだ。そのことまで否定しちゃだめだよ」

「ユーリ……」


 相変わらず真っすぐに、優しい言葉をくれる。

 王城にいた頃から、彼の言葉には励まされた。

 そして今でも。


「さすがワシらの剣。良いことを言うのう」

「ははっ、言葉だけですよ」

「いいや、お前さんにも助けられておる。荷物の運搬やら建物の修理やら、進んでやってくれとるしのう。騎士に雑用ばかりさせてしまったすまないと思とる」

「別に良いですよ。騎士の役目は、人々の生活を守ることですから。剣を振るうことだけが騎士の仕事じゃない」

「そうかそうか、そう言ってくれるか。お前さんのような男が、本物の騎士なんじゃろう……」


 しみじみと感じたように噛みしめて、お爺さんは私にニコリと微笑みかける。


「聖女様は、良き友を持っているようじゃな」

「――はい。私には勿体ないくらいです」


 心からそう思える。

 この街に来て一か月、彼には支えられっぱなしだ。

 お爺さんが教会を出ていく。

 私とユーリが手を振って見送る。


「良い人だね」

「うん。お爺さんだけじゃないよ。この街の人はみんな優しくて親切だよ」

「ああ」


 最初は不安だったけど、街の人たちの優しさに触れて、頼りになるユーリもいて、今は不安も治まってきていた。

 それに……


「ここには穢れもほとんどないし、私くらい力が弱くても役に立てそうで良かった」

「穢れ……か。結局一度も見たことないんだけど」

「見なくて良いなら、見えないほうがいいよ。あんなの不気味で……怖いだけだから」


 人間、動物、昆虫。

 命ある者で、少なからず感情を持っている者から発せられる負の力。

 恨みや悲しみ、劣等感や孤独感など。

 悪い感情を抱き、それが集まることで漏れ出す力……それが穢れ。

 穢れは世界を侵食し、汚染する。

 放っておけば世界中を飲み込み、命が生まれない世界になるだろう。

 そうならないように、私たち聖女が存在する。

 聖女の力と、その加護を受けた者だけが、穢れを視認し祓うことが出来る。


「穢れは黒くて、見ているだけで気分が悪くなるの。あんなもの、見たいって人はいないよ」

「そっか。俺のは単なる好奇心だからな。それに爺さんにはあー言ったけど、さすがに何もなさすぎて、剣が錆びそうだ」

 

 ユーリは腰の剣をトンと叩く。

 さっきは格好良い事を言っていたのに。

 でも、そうだよね。

 彼がずっと、一人で剣の稽古をしていた姿を見ているから、そう思うのも無理はないとわかる。


「ちょっと素振りでもしてくるかな」


 そう言って、彼は教会の裏にある庭に向けて歩く。

 と、その途中でピタリと止まる。


 背筋が凍るような寒気がした。

 私とユーリが同時に感じる。


「な、何だ?」


 ユーリは初めての感覚に戸惑っている。

 だけど私には、その正体がわかった。


「こ、この感じ……穢れ」

「何? どこだ!」

「え、えっと」


 感じる方角。

 強く歪んだ気配は――


「街の近くの森!」

「まずい……急ごう!」


 私とユーリは急いで教会を出た。

 坂道を駆け下りて、気配のする方へ向かう。

 到着する直前に、女性の大きな叫び声が木霊して。


「た、助けてぇ!」


 まだ距離が遠い。

 ユーリは私に走る速さを合わせている。

 これじゃ間に合わない。


「くそっ!」

「ユーリは先に行って! 私もすぐ追いつくから」

「わかった」


 ユーリが全力で駆けていく。

 私は自分の出せる全力で脚を回し、街の人たちに呼びかける。


「何の騒ぎだ?」

「森に穢れが現れました! 皆さんは家の中から出ないでください!」


 どうか間に合ってほしい。

 せつなる想いで駆け抜けた。

 そして、五分くらいだろうか?

 ユーリに遅れて、私は穢れの前に辿りついた。


「はぁ……っ……」

「ユーリ!」


 ボロボロのユーリが剣を構えている。

 眼前には、大きなクマの形をした穢れが悪意のすべてをユーリに向けていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

カクヨム版リンクはこちら

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻9/25発売です!
322105000739.jpg



第二巻発売中です!
322009000223.jpg

月刊少年ガンガン五月号(4/12)にて特別読切掲載!
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ